2017年11月20日

きりもみ(四話)

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 四話 ティータイム


 そのとき美希は、自室のデスクでノートパソコンに映し出される女を読んで、傍らに紅茶を置いていた。いつもなら角砂糖を一つ溶かすのだったが、そのときはなんとなくストレート。ソーサに置いたままの白く四角い角砂糖を眺めている。ティースプーンに飲み残して冷えた紅茶をちょっとすくい、角砂糖の上にぽたりと落とした。
  硬くかためられた性のガードが、わずかな水分を与えられただけなのにぐずぐず崩れて、その代わり甘い汁へと変化していく。まるで私のようだと思って見ている。角砂糖はこうして湿り気を欲しがるもの。ひとたび崩れだして甘さを知ると二度と元には戻れない。

  ちょっと信じられない夜だった。同性の性とはどういうものか、互いに逆さにまたがり合って、智江利の本質を見せつけられた。女の花園なんて美的な表現にはほど遠い、醜いまでの牝の実態。肌の白い智江利なのに、その花の棲息するあたりになると色素が濃くなり、濡れをからめた淫らな毛が肉ビラの花にまつわりついて、もっと舐めてと欲しがるように綺麗なピンクの膣口をぽっかり開く。
  それと同じ景色を私は智江利に見られてしまった。朦朧とするほどの快楽の中でよくは覚えていなかったが、美希は女の性のあさましさを思い知り、どう繕ってガードしようと女は結局それを欲しがる生き物なんだと認めなければならなくなった。
  けれどそれで洋子を見る目が変わったわけではなかったし、同じステップに立てたとも思わなかったが、洋子は学生だったあの頃からそんな性を愉しんでいたのかと思うと、ますます負け続けた自分が口惜しくなる。

  いまさらもう短すぎるミニなんて穿く気もしない。エロがキュートであった時期はすぎた。だけど、そうだとしたら私の性はどうすればいい? デスクにいて智江利の書く文章をぼーっと追いかけながら、美希は考え込むわけでもない妙な思考に取り憑かれていたのだった。
  子供を産むという女の使命を果たした洋子。なのに私は結局そこへは行けないのかと思ったとき、洋子はやっぱりいまいましく、私をこんな感情にさせた智江利のことさえ憎く思える。
  数日が過ぎていったその日、美希はそうは思うのだったが、もっとも腹立たしいのは、あのときのことが綺麗な文章にまとめられ、読んでいて性器が疼いてくることだった。濡れている。でもどうして?

  恋人時代からの夫との性とは高みが違う。そこにまさか罠があったなんて思ってもみない。素の私が狂乱したとしか自覚できない美希にとって、智江利の文章は衝撃だった。

 ビアン。私は私を愛するように
 私とおんなじパーツでできたカラダを愛す。
  潮を噴くのよ。わかる? 失禁しちゃうの。
  そんな姿を見せ合える愛人に私は出会った。

  愛人というレトロな言葉も、まさにと思える。肉欲のためにだけ一緒にいる女と女。そしてまた、潮を噴いて狂乱した私自身が信じられない。いっぱしに知ったつもりの私のセックスって何だったのよ。ピークの波形がまるで違う。ほとんど崖を駆け上がる急角度の性感覚が大気圏を突き抜けてしまったよう・・悲鳴、絶叫、掻き毟り、もがき・・あらゆる女の醜態を晒しつくして、挙げ句、おしっこを噴き上げて気を失った。
  美希は、一滴の水に崩れていく角砂糖を声もなく見つめていた。

  また数日。そしてその日、美希はピアノを教える仕事の後でたまたまタイミングが合ってしまった洋子を誘って自分の部屋へと帰り着いた。どうしてまた憎しみの対象を誘ったのか。説明のつかない感情だったが、二人きりになって話してみたい。そのときはいくら何でも仕事の帰りで二人ともに普通の姿。
 「なんか妙な気分だけど嬉しい気がする」
 「そう?」
 「だってあんた、私なんて嫌いでしょ」
 「そうね嫌い。いまでもちょっとは嫌いだけど、じつはね洋子」
  それで美希はモニタに映る智江利の感情を見せつけた。見知らぬ女の赤裸々な告白。Mでありレズであり、自虐に濡れる変態女の感情を。
  洋子は目を丸くして智江利の言葉と美希の顔を見くらべていた。

  美希は言う。
 「ハマってるのよ、それに」
 「へええ美希が? ちょっと信じられない感じだな」
 「主人とダメで独りになって、なんて言うのか、魔が差した?」
 「ふふふ、魔が差したはよかったね。だけどわかるよ、あたしなんてあの頃からそうだった。恋でしょ愛でしょエッチでしょって思ってたし、その結果がどうなるかも見透かせた」
 「見透かせた?」
 「妊娠よ」
 「ああ、なるほど」
  洋子は悟りきったようにほくそ笑み、いまさら何を言うかといった眸の色で美希を見ていた。

  洋子が言う。
 「だけどそれは遅くないよ。一歩踏み出したとたん拓けてくるもの。こういうものにハマるって、いいことなんだから」
 「そうかな。悶々としちゃわない?」
 「発散する」
 「男で?」
 「それでもいいけど、この人みたいな妄想、自虐もいいでしょうし、それでオナニーしちゃったりも素敵よね」
 「洋子もする? オナニーなんて?」
 「するよ、もちろん。妄想しながらアヘアヘだわよ」
 「どんな妄想?」
 「あたしってMなのよ」
 「え?」

  この子がM? まるで逆だと思っていた。
  あの頃からフェロモン振りまき、明るく振る舞って男たちにちやほやされた。行動的で明るいMってアリのかしら? どう考えてもそぐわない。
  洋子は言った。
 「勝手気ままにやってきて、だけど他方、誰かのために捧げる一瞬があってもいいなって思うから。満たされるだろうなって想像しちゃうの」
 「出会えなかった?」
 「それがすべて。出会えていたら変われていたって思うわよ」
  洋子は母性に生きる女。子供が好きだからいまの仕事に打ち込んでる。 そういう意味では共通点はあるのだが、このとき美希は面白いと感じていた。智江利はMにもSにもなれる人。私だって相手が洋子ならSになれる自信はある。

  美希は言った。
 「ご主人様? それとも女王様?」
 「どっちだっていい。迫られればおしまいなんだし」
  美希はちょっと考える。言葉を探す。
 「洋子って外泊したりは? エッチでホテルとか?」
 「しょっちゅうよ。もっとも相手は女友だちだったりするけどね。話し相手がほしいから、そうするとホテルで一夜」
 「それでレズ?」
 「ないね。いまのところそっちはない。それってバイよ美希。ビアンじゃないから」
 「そうなの?」
 「レズは男を受け付けない」
 「あ、そっか」
  この洋子なら受け入れる。と言うより、迫れば堕とせると感じた美希。
  そしてMへの変化は劇的に・・奈落の底へ堕としてやると美希は思う。

 「・・ということなんですね」
 「うむ、それは面白い。とやかく言わんから好きにすればいい」
 「ただし徹底的に? ふふふ」
 「それもおまえの考えひとつ」
 「はい、ご主人様」
  奈良原書房の、なんとも妙な喫茶室のカウンター。電話中。
  美希が覗いたちょうどそのとき、マスターは電話を終えて携帯をカウンターに置くところ。
 「ども」
 「うんうん、いらっしゃい」
 「今日はコーヒーがいいかな」
 「はいよ」
  そのとき美希は、ほとんどはじめて本を持たずに椅子に座った。例によって客はなく、カウンター越しに向かい合う。
 「あれから真木さんは?」
 「いいや」
  そしてふと焼き物が置かれた棚を見ると、あのとき補充されたはずの陶器がかなり減ってしまっている。
 「売れるんだね?」
 「だね。近頃では覚えられたのか、ちょくちょく見に来るお客さんが増えてきた。真木ちゃんの作品は轆轤を使わない手びねりが多いから、一つとして似たようなものがないだろう。最初は生け花の本を探しに来た人が花器を見つけて買っていったのがはじまりでね」
 「やっぱり花器?」
 「そうそう。でその人、生け花の師範でね、生徒さんも噂を聞いてやってくるようになったというわけ。口コミでひろがって、皿なんかも売れるようになってきた。だから真木ちゃんも造ることにいっぱいいっぱいで、ここにもそう来なくなった」

  美希はちょっと笑ってうなずいて、喫茶コーナーのすぐ横にあるアダルトブックの棚を横目に見た。コーヒーのできる間、美希は立ち、そのへんの棚に歩み寄って見渡した。
 「ねえマスター」
 「お?」
 「売れるの、このへん?」
 「売れるね」
 「女の人も買っていく? それはないでしょ?」
 「ある。と言うか、いっぱいいるよ。そのへんの奥さん連中だとか。若い子だとアニメッチが多いけど?」
 「は? アニメッチって?」
 「アニメのエッチ」
 「け。何でも略すな、わかんねーじゃん。あははは」
  笑ってごまかす。SMの写真集なんて表紙を見るだけでどきどきする。
  部屋にいてネットで見る限りはそうでもない。他人の目がある中でそういうものに興味を示すことが恥ずかしい。
  美希はアダルトアニメの本を手に取って椅子へと戻った。マスターはチラとそれに目をやったが、もちろんとやかく言ったりしない。
  つまりは漫画の本であり、レズ、BLとさまざまタイトルのある中で『妻という犬』というタイトルが気になった。人妻が性奴隷に堕とされていく、なんともありきたりの筋書きなのだが、パラパラとめくるだけでも胸が苦しい。

  覚悟なさいね洋子。

  息を殺してページのシーンを追いながら美希は内心わくわくしていた。
  明日が仕事で、その足で智江利の家へ向かう手筈。明後日は仕事は休み。一夜で奴隷にしてやると、そんな計画を練っていた。これまでの口惜しさを晴らしてやる。よくも馬鹿にしてくれたわね。
  しかしそれは、智江利との夜を知るまでの単純な敵意でもなさそうだと、
このとき美希は漫画の妻が鞭打たれるシーンを見ていてそう感じた。
  仕事先から洋子の住まいは遠くなく、洋子は実家。子供を委ねて出られる立場。クルマは洋子が運転する。可愛い赤のコンパクトカー。智江利の赤いポロと並んだときに、女友だちが遊びに来ているとしか思えないだろうと考えた。

  マゾへの旅立ちは劇的に・・ふふふ覚悟なさいね。

  クルマに乗って、行き先はボカしてあった。洋子は智江利と美希が知り合いだとは思っていないし、奈良原書房のことも知らない。
  何も知らずに連れ出され、帰るときには性奴隷。劇的だし、決定的に支配できると考えたのだ。陶芸家の友人がいるから行ってみないか。それだけの誘いだった。
  美希は仕事のスタイルのままだったが、洋子は一度家に戻っていたからミニスカートに穿き替えている。それも、そうなるだろうと思ったこと。洋子はスカートが好きでプライベートで滅多にパンツを穿かない人。計算ずくの旅立ちだった。
  智江利の赤いポロの隣りに、やっぱり赤い洋子のクルマ。女はどうして赤なんだろうと可笑しくなる。
  そして今日、田の字造りの家の中で、あのときは締め切られていた襖の一方が襖ごと外されて解放されてあり、そこがアトリエ。畳を剥がした板床に轆轤が置かれ、そのほか陶芸の道具がそこらじゅうに置いてある。

 「真木さん、こちら友だちの高島さん」
 「真木です、よろしくね」

  ふふふ、なんとまあ平和な初対面。それからもしばらくは女三人でお茶にしておき、あえて陶芸の話に持ち込んで洋子を立たせ、そのとき智江利が豹変して柱に追い詰め、柱に後ろ手を回させて、背後で待ち構える美希が手錠をしてしまう。古い家の田の字造りは襖を外せば柱だけが残るもので、泣き柱となるからだ。
 「何するの! ねえ美希!」
 「おしまいよ洋子。彼女が智江利さん。私たちってそういう関係なんだよ」
  背中に柱を抱かされて身動きできない洋子。
  智江利と美希が入れ替わり、後ろから智江利がピンクのTシャツの胸を両手にくるんで揉み上げて、前から美希がにやりと笑って詰め寄った。
 「奴隷になるの、それしかないの」
 「何言ってんの! あんたたち、おっかしいんじゃない!」
  美希の面色から笑顔が消えて、美希はいきなり洋子のスカートの前をめくって、無造作に手を入れた。パンストさえ穿いていない素足のミニ。

  そのとき智江利が柱越しに回した両手でTシャツをたくし上げ、青い花柄のブラを跳ね上げて、こぼれるというほどないBサイズの乳房を揉みしだきながら、すでに乳輪をすぼめて尖る両方の乳首をコネまわす。
  美希と智江利は似たような体つき。しかし洋子は背丈がちょっと二人よりは低い。あの頃細かった体も子供ができたことで幾分ふっくらしたかと美希は感じた。
 「あ、嫌ぁ、ねえ嫌よ」
 「ほんとにそう? 洋子あのとき言ったよね、相手は女だってかまわないって」
  スカートをめくった前から手を差し入れて、パンティの上から熱い股間をまさぐる美希。洋子の目が恐怖に吊り上がり、頬が青くなっている。
 「じゃあこうしましょう。こうされて濡れなければおしまいってことにしてあげる。ふふふ、さてどうなることやら」
  後ろからの愛撫と前からの蹂躙。パンティのデルタ上から手を入れられて、洋子は腿を閉ざして拒んでいたが、息はすぐに乱れだし、青かった頬にも赤みが差して、目が据わりだしている。
 「ほうら洋子、気持ちいいね、くちゅくちゅよ」
 「はぁぁ嫌ぁぁ、あん、あっ!」
 「嫌なのにどうして濡れるの? ほうら濡れる、もっと濡れる」
  このとき智江利は、あのときの種明かしをしていない。コーヒーにも仕掛けはなかったし、美希の指に媚薬を濡らせたりもしていない。

  それなのに洋子のカラダは震えだし、息が甘くなってくる。
 「はぁぁ、ンっふ、ぁぁ、ぅぅン」
  美希は微笑む。
 「堕ちたわね洋子。素直になって奴隷になるの。あたしはS、智江利もS。夢だったでしょう、こうされるの。ふふふ」
  スカートの腰に手をやってホックを外しファスナーを降ろしてやる。ミニスカートがすとんと落ちて、ブラ同様の青い花柄のトライアングル。
  パンティの両側に手を入れて一気に下げる。襲われる性の波に波打って揺れる白い腹に妊娠線。それだけで美希は腹立たしい思いがした。
  鼻孔をひくつかせて目を閉じる洋子の頬に頬を寄せ、そうしながら毛群の奥底をまさぐって、美希はそっと言うのだった。
 「よく濡れるいい女よ洋子。可愛がってあげようと計画したこと。あたしたちの気持ちを受け取ってくれるわね?」
 「嫌よ嫌、もうやめて」
 「あらそう、やさしくしてあげようと思ったのに、それだと拷問になっちゃうわよ。足を開きな! なんなら鞭で開かせてやってもいいんだよ!」
  豹変する美希。

  洋子は唇を噛んで見つめたが、乳房と乳首、そして性器への刺激が激しくなると、ついにこくりとうなずいた。
  そろそろと足が開かれ、今度こそはっきりと腰がくねるように回りだす。
 「ほらもっと!」
 「ンふ、ぅぅ、はい」
 「あたしは美希女王、それに智江利女王様! わかったね!」
 「はい、美希女王様、智江利女王様」
  洋子の目に涙が溜まって、それなのに息がどんどん乱れだし、腰がクイクイ入ってくる。
 「いいの? どっち!」
  美希に迫られ、洋子は大きくうなずいた。
 「いいです、あぁ感じる、ありがとうございます女王様」
 「ふふふ、よろしい、それでいいのよ。気絶するまで可愛がってあげますからね」

  勝った! とうとう洋子を組み伏せた。

  智江利が笑って一歩離れ、美希は大きな断ち物バサミを手にすると、それを鼻先に見せつけて、柱越しの手錠では脱がせきれないブラとTシャツに刃を入れて無造作に断ち切った。
  そして一度は離れた智江利がディルドタイプのバイブを手にして戻って来る。美希と交代。前に立った智江利。
 「ほらごらん、いやらしい形でしょ。これでズボズボ。欲しかったら足を開いてアソコを突き出すの」
 「あぁ嫌ぁ、狂います、お願いだから」
 「鞭よね智江利」
  そんな美希の声が背越しに聞こえ、洋子はがに股に足を開いて毛群のデルタを差し出した。

  ブーン・・ビィィーン

「はっ、あはっ」
 「まだ何もしてないよ。ほうら欲しい、欲しくて欲しくてヌラヌラにしちゃってる」
  いきなり激震する太い先端を充血するクリトリスに押しつけてられて、洋子は絹を引き裂く悲鳴を上げた。
  ストロボの閃光が、もがき乱れる素っ裸の女を照らしたのはそのときだった。

2017年11月17日

きりもみ(三話)

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 三話 智江利の罠


  遠くにあった性の園がいきなり身近に感じられるものとなる。智江利のそうした言葉は彼女のブログで読んでいた美希ではあったが、狭いクルマの助手席にいてそれを言われると、いきなり生々しいものとして感じられ、洋子への憎悪が燃え立って、その火の粉が智江利にまで燃え移ってしまったように智江利のことまで斜め視線で見たくなる。
  性を愉しめないのはつまらない女。カタイのよ。気取ってないで裸になったらどうなのさ。そう言われている気がしてならない。
  一人の男性を想うだけではいけないの? 貞淑なんて古くさい?
  だからあの頃、洋子にムカつき、接するたびに堆積していく負の感情が憎しみへと置き換わっていったのだった。妻は離婚で女に戻れ、女に戻れば選ぶ下着も変化する。女というひとくくりでそう思われるのが我慢ならない。

  私は違うと私は叫び、なのに行き場のない感情に悩まされる。智江利の書くものに共感できる。こんなふうになれたらどれほどいいかと思う自分が確かにいる。アクセルまでいかなくてもブレーキを放してしまいたい。得体の知れない性欲が溶けた鉄のようにいまにも流れ出してしまいそう。
  そんなことになればあふれ出す愛液をとめられない。だから怖い。

  智江利はブログに性感情を書いている。ほかにもっと露骨なところもあるのだったが、美希はその五行に共感した。

  脱げ。はい。
  這え。はい。
  動くな。はい。
  私にとってのSMは私から迷いを一切奪ってくれる。
  からだを縛られ、心を解かれる。

  突き刺さる言葉。きっぱりとしたアソコの疼きに寒気がしたのを覚えている。

 「さあ着いた、ほら、あそこ」
 「へええ」と思わず目を細め、こういうところで暮らせるなら女は変われるかもしれないと考えて、「夢みたいね」と美希は言った。
  横須賀は起伏に富んだ地形。智江利の家は古くからあるにしては小さくて、それもそのはず、背後の二方がかなりな急傾斜で家がなく自然のままの林。前側の二方にグリーンベルトのように自然林がそのまま残るロケーション。入り込んでしまえば、さながら樹海に迷い込んだよう。
  家そのものは黒い瓦と板壁の昔ながらのものだったが、家の前には少しの空き地があって、赤煉瓦を積んだ陶器を焼く窯が造られてあり、そのへんだけに現代の匂いがする。
 「すごいところでしょ。だからなのよ、裸で外に出られるわけ」
  なるほど。裸で出ると聞いて町中でよくもと思ったのだったが、こういう景色の中でならおかしな行為とも思えない。グリーンベルトのような樹林はつまり生け垣で、その外にはもちろん家が並んでいても、隔絶された世界には違いない。

  赤煉瓦で造られた焼き窯に歩み寄ると智江利が言った。
 「気をつけて、熱いよまだ」
 「あ、うん」
  近づくと煉瓦の肌から熱気がもわもわ漂いだす。
 「焼いたんだ?」
 「そよ。冷えるまではそのまま」
 「何を作ったの?」
 「いろいろ。お皿とか生け花の花器とか」
 「花器ね、なるほど。そういうものって売れるでしょ?」
 「まあそうだけど売れたって実入りは少ない。粘土もだし炭もだし釉薬(ゆうやく・うわぐすり)なんかも結構するから。無名だもん、あたし」
 「マスターのとこみたいに、どっかに置いてもらって?」
 「展示はマスターのところだけ。あとはネット」
 「そっかネットね」
 「オークションにも出したりするし、好きな人は見てるから。さあ入って。嬉しいな、ここに人を呼ぶなんてどれくらいぶりかしら」

  ガラスの入った格子戸をくぐって一歩入り、美希は目を丸くした。こんな家って、それこそどれぐらいぶりだろう。嬉しい気分にさせる家。
  いまどき、入るとそこは土間。土間の右手に古い台所。なのにそこには冷蔵庫。電子レンジも置いてありガステーブルももちろんある、妙な取り合わせ。台所の奥には一見して現役らしい手押しポンプ。石板で造られた深い流しも健在だ。
 「この家ってどれぐらい経つ?」
 「ほぼ九十年らしいよ。ヒイ爺さんのカミさんが孕んで建てたんだって。そのとき産まれたのがジイさんなんだけど、そのジイさんが三十のときに母さんが産まれ、その母さんが三十であたしを産んで、あたしはいま三十二。
あ、九十二年?」
  小首を傾げて言うとぼけた言い回しに引き込まれてしまう。細かな年数なんて訊いてない。三十路でそれなら娘のころはさぞ可愛い子だったんだろうと想像した。美人タイプではない可愛い智江利。光の加減で赤くなる不思議な色に染めた肩までのボブヘヤーもおかっぱ頭のようであり、なおのこと可愛さを引き立てる。

 「轆轤(ろくろ)なんかは?」と美希が訊くと、智江利は「奥よ」と顎でしゃくった。
 「そうじゃないと冬が寒くて。一部屋潰して工房にしてあるの。ウチって田の字造りだからさ」
 「たのじづくり?」
 「あら知らない? 田んぼの田の字にお部屋をレイアウトした造りのこと」
 「ああ、わかるそれ。それでそう言うんだ?」
 「昔の家はみんなそうだよ、四角い家を四つに割って十字に仕切る。大きな部屋を造っておいて襖で仕切っておくでしょう。親戚なんかが集まると襖を外すと大きな部屋に様変わりってわけ」
 「うん知ってる、田舎のお婆ちゃん家もそうだから」
  それを田の字造りと言うことを知らなかっただけ。それにしてもこういう家を見るのは懐かしい。
 「美希って田舎は?」
 「母さんは秋田、父さんは東京なんだけどね」

 「いまコーヒーでも淹れるから、そこらに座ってて」
 「うん、ありがと」
  玄関を入ってすぐの板の間には部屋の真ん中に囲炉裏が切られ、夏のいまは板を渡して塞いである。昭和どころか江戸時代に戻った気分。なのに液晶テレビが置いてある。このとき美希は探検気分できょろきょろ部屋を見渡していた。
  そしてすぐ、先ほどの会話を思い出す。家の中を歩き回る裸の智江利を想像した。家に入って自然の緑が断たれると、とたんに生々しい女の暮らしが浮き立ってくる。
  家に入って二方の窓を開け放ち、そよそよといい風が入ってくる。
 「涼しいね、ここ」
  見上げると壁の上に白いエアコン。囲炉裏とエアコンのミスマッチ。しかしエアコンは動いていない。
 「森の力だよ。真夏でも町中と数度は違う。夜なんてエアコンいらないぐらいだし」
  しかも板の間。座布団は敷いていても板に触れるとひんやりして心地いい。マンションの暮らしはどこか人に遠い気がしていた。

  コーヒーが運ばれて囲炉裏を塞ぐ板をテーブル代わりに角を挟んで智江利が座る。そしてそのとき、いくら女同士であっても、腿の根まで上がったミニスカートの奥の黄色いデルタ。レモンイエローのパンティを見せつけられたようで美希はちょっとドキドキしていた。いきなり性の話になりそうだった。
 「見えてるよ」
 「いいじゃん見えても。あたしはね、あたしを想ってくれるんだったら自分を隠しておきたくないの。ポーズなんてしたくない」
  美希はちょっとうなずいてコーヒーカップに手をのばし、言った。
 「私ね」
 「うん?」
 「あのブログで響いたのは、『からだを縛られ、心を解かれる』・・ってところなの」
 「うんうん、わかるんだ?」
 「そんな気がする。そんなことになったら怖いと思う反面、きっとラクなんだろうなって思うのよ」
  智江利は穏やかに笑いながら眉を上げて美希を見つめた。

 「それをあたしは自虐からはじめたの。私が命じて私が奴隷、そんな感じで」
 「素直になれた? うーん何て言うのか、自分自身の命令に?」
 「なれた。あたし決めたのよ、NOは禁句。あたしを想ってくれるんだったら誰に対してだってYESでいようと決めたんだ」
  美希はちょっと意地悪を言ってみる。女はそれほど淫らになれるものだろうか。口だけなんじゃないかしら。かすかな疑心の裏返し。
 「相手が誰でもって、じゃあ私が言っても?」
 「うん、そよ」
 「あらそ。じゃあ脱いで、全部」
  智江利は薄い唇をちょっと噛んではにかむように微笑んで、サッと立って一歩離れた。
  ミニスカに手をかける。前のボタンをはずしファスナーを一気に下げてすとんと足下へ落としてしまう。腰から下の白い脚線、レモンイエローの小さな布の前のところに黒く透ける性の飾り毛。
  美希は呆気にとられ、すぐに立って寄り添って智江利の手を止めた。

 「ごめん。ごめんね」
 「ううん、何でごめん? 嬉しいのにあたし」
  そして智江利は、風が草を分けるように手を開くと、すぽんと美希の胸に寄り添ってくる。
 「抱いて美希、嬉しいの」
  まさかと感じ、クリクリする目を覗くと、涙が溜まって揺れている。
  これが智江利が仕掛けた第二の罠。淫らさへのかすかな蔑みを込めてふざけて言ったつもりでも、それを真に受けられて泣かれては負い目が生まれる。美希という人はまっすぐで母性の強い人。智江利はそのへん見抜いた。
  そして案の定。

  マズイ。可哀想なことをしてしまった。この人はピュアよ。突き放していいものかと美希は戸惑う。
 「ねえ智江利、ねえってば」
  嘘でしょう? レズ?
 「抱いて美希」
  智江利は泣いているようだったが、その眸色がどんどん据わり、吐息が熱くなってくる。
  しまったと思った美希だったが、そのときまた洋子の声が聞こえてきた。『だからあんたはダメなんだよ! 逃げてばかりで情けない!」

  うるさい黙れ。誰がおまえなんかに負けるもんか。闘争心にも似た感情が燃え立ったのもそのときだった。
  私を変えるなら、いま。美希にとっては振り絞った勇気。
 「抱いて」と言って目を閉じた智江利の頬に涙が伝い、突き放すことができなくなる。美希はそっと触れるキスをする。そしたらそのとたん智江利はパッと笑顔になって、唇をふわりと開いて美希の舌をほしがった。
  口づけが深くなっていき、美希もまた、はじめて感じる妖気のような震えにつつまれ、智江利の細い腰を抱く手が黄色い下着の尻へと降りてそろそろ撫でる。
 「ンふ・・美希ぃ、嬉しい」
  私は男よ、女役になったりしたらたいへんなことになる。
  一線を超えた感情が、美希の手を前に回し、下着の中へと導いていく。智江利は震え、腿を弛めて受け入れた。
 「はぅ! あ! あぁぁ!」

  何よこれ。壊れたみたいに濡らしてる。

 「こうされて嬉しい?」
 「嬉しい、泣いちゃう、あぁぁン感じるぅ」
  羨望が衝き上げた。こうして溶けていけるものなのか。相手は同じ女なの。それでもこれほど濡らせるなんて。
  しがみついて震えながらも智江利の手がスカート越しに美希の尻を撫で回し、後ろがめくられて、パンティ。腰の肌から一気に尻へと滑り込む。
  美希は目を閉じた。来る。拒めない。
  尻の谷の底へと沈む細い指。美希は一度尻を締めて閉ざしたが、智江利が愛らしく想えてならなくて、すっと力を抜いて尻を弛めた。
  後ろから忍び込む指。アナルに触れられ全身がピクと強張って、それでも沈む指先が静かに閉じたラビアに触れた。

  これが第三の罠。智江利の指先に強烈な媚薬のクリームが塗り込められてあったのだった。
  美希の指先が吸い込まれるように智江利の中へと入っていく。熱いし狭い智江利の奥底。おびただしい愛液が指にからまり、ますます深く、抜いてこすって、また深く。
  智江利の指が閉じたラビアをくねくね揉んで、美希もまた潤いだし、智江利の指がリップを割り開く。

 「くぅ、ああ感じる」
 「うん、あたしも、ああ感じる、もっとよ美希、もっとシテ」

  おかしいわ、どうしたの? 目眩のような波が来る。芯が抜けてしまった体がいまにも崩れる。
  智江利の手は性花を嬲り、もう一方の手が背中に潜ってブラを外す。ふっと解かれる締め付け。そして智江利の手はTシャツをたくし上げながら前と回り、Cサイズの乳房をわしづかむようにして揉みながら指先で乳首をとらえて回して揉む。乳首が尖り、体に震えがやってくる。
 「ン、智江利、あぅ!」
  感じる。意識が朦朧とするぐらい。
  違う。それが智江利が仕掛けた第一の罠。コーヒー。ハシリドコロを煎じた汁をごくわずか溶かしてあった。
  ハシリドコロはここらに自生する毒草で、その成分はスコポラミン。目眩と幻覚を生むものだ。

  美希はもはや自制がきかない。それならと智江利への膣突き指を速めると智江利はがたがた震えだし、しがみついて抱き合って、そのまま二人は板床に崩れていった。
  脱がせ合う。美希はスカート、智江利はパンティ。美希のブラは外されていて、智江利の黄色いブラもはずしてやる。Bサイズの白いふくらみ。二人はキスと足先がほぼ揃う。美希164センチ、いくぶん豊か。智江利162センチ、スリム。燃える裸身に冷たい床が心地いい。二人揃って横寝となって抱き合って、智江利は身をずらして6と9に変化して、互いに脚を開き合い、愛液にまみれた互いの性器にむしゃぶりついた。

  すごくいい。これほど感じたことってあったかしら。
  美希は解放されていく喜びよりも、これで今度こそ洋子に並べたと確信した。いいや洋子の上に立てたと思う。洋子にいま彼がいるのかいないのか。しかし洋子は子持ちの母親。私の翼のほうが羽ばたく力に満ちていると思えてくる。
  叫ぶように声を上げる淫らな私。目眩のような性の波がとめどなく愛液を垂れ流し、目に映る景色が歪んでぐるぐる回っている。
  イク・・ああイク・・。
 「智江利ダメ狂っちゃう、あ、あ・・」
  景色が回り、気が遠のき、身をくねらせ腰を暴れさせてもがいている。自覚しながらどうにもならない。
  私はどうしてしまったのか。意識が濁って消えていく美希だった。