2017年11月28日

きりもみ(七話)

kirimomi520

七話 マゾヒズム


 美希はそれまで自分の中にそんなものが潜んでいようとは思わない。マゾヒズム。しかしそれは理解できないものでもなかった。
  性は愛。その限りであれば、女は劇的な変化に対して逃げるより先に、戸惑い、混乱し、どうしようと立ち止まってしまうもの。迷う女に迷わず突進してくる男の力にとうてい勝てない。屈服されられ、けれどそのうち密かな快感に包まれる。
  女の性は陵辱からはじまるもの。そのぐらいの圧倒的なパワーに翻弄されれば性本能が暴走して止められなくなってしまう。
  それが私のマゾヒズム。女なら誰もが持つ追従の喜びなのだと理解していたし、もしも私がそこへ行けば後戻りできなくなる。恐怖。だから私はそこへ行かない。自らの意思でそこへ行かない。自らの意思では。

  縄は意思を奪い、恥辱は思考を奪い、そうなれば私は牝となってのたうちもがき、快楽の沼にはまってしまうに違いない。奈良原書房の奥にある喫茶室を覗いたときから私の運命は狂いはじめた。智江利のブログでフィルターをはずした女の正体を見せつけられ、素直に共感できていた。女は性を渇望し、なのに体面を保っていたいと考えて、自分というものを追い詰めていく。嫌な女になっていると自覚して、ああだこうだとリクツを探してガードする。フェンスのような障害物ができてしまい、だから性に素直になれない。自意識では壊せない殻のようなものにくるまってサナギのまま腐っていく。ほとんどの女がそうだろう。生殖本能のためのセックスを愛という言葉で飾って納得している。ほとんどの女がそうして本性を偽って、悶々としたまま涸れていく。

  美希はいまにも体が燃えだしそうな激しい羞恥を感じていた。奈良原の友人だという男は、田崎利彦(としひこ)。三十そこそこ。長身でルックスも美希のタイプ。髪が短く、一見してサラリーマンぽい感じなのだが、着衣の上から想像できるスポーツボディ。一言で言ってカッコいい。
  奈良原、智江利そして洋子、遅れて来たヒーローのような初対面の田崎利彦。そんな中で私ときたら、素っ裸であり、房鞭の嵐で肌が赤く、媚薬はいまだ濡れを誘い、性器は牝の欲望をこれでもかと露呈する。
  マゾ牝そのもの。田崎を見てこれから起こる一大事件を想像する。身震いする快楽の予感。私は狂う・・マゾへの一歩は劇的に奈落の底へ。逃げようと身構える暇もなく、フェンスを壊され、私は終わったと諦められる。なんとなくでも理解していた私のMが止められない。美希は裸の身を丸め、胸を抱いて、しかし火照る頬を赤くしている。性欲が陽炎のように立ち昇る性奴隷の肉体をどうすることもできなかった。

  そんな美希を少しなりと安堵させていたことは智江利の肢体。智江利は奈良原の奴隷であり、なのに体に傷らしいものもなく、陰毛も失わず、ネットで見たようなピアスで飾るマゾじゃない。奈良原は穏やかなS様。大人同士の穏やかなSMを智江利を通して察していたから。
  けれどいま田崎が現れ、新しい不安が生まれた。新しい不安が次への期待であることを感じたとき、美希の中のマゾヒズムが火柱を上げて燃え立った。
  身を丸めた尻の側に田崎は座る。そうなると身をのばして尻を締めていないとダラダラに濡れる牝の性を見られてしまう。と言って仰向けだとデルタの毛群らを隠せない。奈良原の膝を離れて座るしかない。美希は乳房を抱いたまま身をよじるように座り直す。
  奈良原が言った。
 「なんだその姿は。お客様に対して失礼だろう」
  田崎が言った。
 「いやいや、マゾへの一歩。そこを躾けていくのが楽しみというもの」
  すぐそばにいて笑う田崎。その大きな手がそっとのび、房鞭で赤くなる背から腰へと撫でる男の手が行き来する。

  美希は震えた。媚薬のせいより、初対面の男性にいきなりノーガードの女体を晒し、撫でられる。全身に鳥肌がザーッと騒ぎ、いまにもイキそうな想いが衝き上げてくる。ハッとして息を詰め、詰め切れずに吐き出す息が熱すぎる。私が終わって奴隷がはじまる。そのとき美希は観念せざるを得なかった。心よりも体が受け入れたがっている。自覚した。
  爪先で掃くように背を撫でられ、尻の谷口へと指が這い、手が開かれて尻を撫でられ、すーっと背に這い上がる。美希は唇をちょっと噛み、漏れ出しそうな喘ぎをこらえ、小鼻をヒクつかせて熱い息を小出しにする。
 「美希と言ったね?」
 「はい」
 「服従するすがすがしさが奴隷の誇り。奈良原さんは本物だ。幸せだね美希」
 「はい」
  静かな声が心の底へと忍び込んでくるようだった。
  奈良原は、囲炉裏の向こうで惨く微笑む智江利と洋子にちょっと笑い、それから美希にはじめての主の意思を伝えたのだった。

  囲炉裏のこちら側にいて、向こう側の女二人に向かって、膝で立って両手を頭の奴隷のポーズ。膝は肩幅に開いて立つ。いまの田崎の言葉が心に刺さり、抗う気持ちが失せている。こうして奴隷にされていくんだわ。美希はこのときマゾへの一歩を踏み出した。
  開かれた尻。奈良原と田崎の手が両方から尻を撫で、田崎の指が先に谷底へ這い降りて、ヌラヌラきらめく宝石のような愛液を垂らす熱い性器にそっと這う。
  美希は体をブルルと震わせ、哀願するような眸の色を囲炉裏の向こうの女二人に見せつけて、腰をくねらせ、尻を揺すって耐えている。
  感じる。女を三十年生きてきて知らなかった絶望的な快楽。体が震えると乳房が揺れて、乳首がしこり勃って寒気がするほど感じてしまう。
 「んっ」
  喉の奥に押し止めた喘ぎ。女二人が笑って見ていて、羞恥の想いが掻き立てられる。
  田崎が言った。
 「もっと欲しいか?」
 「ぁ、はい田崎様」
  すんなり言える。どうして言えるのか、わからないけど、すんなり愛撫を求めていられる。

 「はぅ!」
  田崎の指が濡れそぼって閉じてられない陰唇を分け、ぬるりと体に入ってくる。腰が揺れる。尻を締め、肉が弛んで波紋を伝え、美希は目を閉じ膣の奥底で量産される牝汁の感覚を確かに感じた。
 「くぅ、ぅっ、ンっ」
  ううう、むぅぅ、と、耐えきれない愛の声が喉奥に留まり続け、奴隷はついにセックスの腰使いになっていく。
  田崎が言った。
 「これがご褒美、ほうら感じる」
 「はい、あぁぁ! はい感じます田崎様、あぁン!」
  乳房が左右に分かれて揺れるほど荒い息に胸が開く。クチュクチュいやらしい音がして、私はいったい何者なんだと思うほど、快楽が倍加して襲ってくる。私は獣。
  尻の谷を包むようなアナル越えの膣刺し指。良くて良くて叫びそう。美希は腰を振り立ててもっと深い貫きを切望した。
  しかし指は去っていく。一突きしてくれればピークというところ。抜き去られた田崎の指に、なぜか美希はむしゃぶりつき、泡立ってまつわりつく愛液を、まるでペニスに甘えるように、美希は目を閉じ、ベロベロ舐め取り陶酔する。

  いいマゾだわ。智江利は思い、洋子もまた、これが美希だと確信した。
 美希という女のせつないまでの素性。
  そしてそのとき田崎がジャケットのポケットから、透明なプラの小さなケースを取り出して奈良原に手渡した。
  奈良原が笑って言う。
 「ほら美希、プレゼントをもらったよ」
  快楽になかばぼーっとした目でそれを見ると、ケースの中にステンカラーのリングピアスが三つ。輪の少し大きな二つと、小さな一つ。奴隷の乳首とクリトリスを飾るマゾの誇り。しかし美希は愕然とした。そんなものさえ命じられれば拒めなくなっている自分の変化に愕然とした。
  田崎が言う。
 「最高のマゾだと聞かされたものでね。いつかそれの似合う愛奴となれるよう」
  愛奴・・そうだわ愛奴よ! 洋子がライバルなのだと、このとき美希はそう思う。生涯手放せない女となってやる。今度こそ負けない。奈良原も田崎も、二人の心を奪ってやる。なぜそう思うのかはわからない。でもこうなったからには女たちの中で体にピアスを授かる最初の女になってやる。智江利にだって負けない。不思議な想いが逆巻いてくる美希だった。

  奈良原は、やってくれたと苦笑いしながら田崎を見ていた。この野郎、マゾ牝三人を競わせる気でいる。ワンセットのピアスが女たちを変えていくと奈良原は思い、さすが田崎だと感じていた。若くても深い。こういう男と出会えた女は幸せだと思える滅多にいない男。
  案の定、手の中のプラケースを囲炉裏の向こうで女二人が見つめている。おもしろくなってきた。いまはまだ上位の奴隷の智江利さえ、いつか崩れるときがくる。そんな悪魔的な着想にとらわれた奈良原。そのためにもまず美希をハードMに育てていきたい。エッチの前戯などSのするべきSMじゃない。
  田崎に美希を委ねてみようか。智江利を洋子に委ねてみようか。今日は傍観。それぞれの素地を見極めてみたいと思う。智江利は、それが俺の意思なら逆らわない。全幅の信頼をおく奴隷。しかしそれも確かめてみたいと考える。手の中のピアスを見つめて奈良原は唇の角を歪めてちょっと笑った。

  奈良原は言う。
 「今日、美希の主は田崎君。智江利の主は洋子女王」
  囲炉裏の向こうで眸を丸くした智江利と、それ以上に驚く洋子もまた見物。奈良原は緊縛、静かだがハードS。田崎は若く、鞭を好むハードS。美希も洋子もそれを知らず、智江利のことも一度は下級奴隷に堕としてやりたい。それは最高の女王を創るため。・・と、奈良原は内心ほくそ笑む。
  奈良原はさらに言う。
 「洋子もだぞ、俺や田崎君の目のあることを意識しろ」
 「は、はい」
  洋子は戸惑う。美希だけの裸ですまなくなった。智江利を責める。でもどうやって? 智江利の姿に私は震え、抱いてやりたくなるだろう。そうすれば私も裸。奈良原の言葉には奥がある。男二人の目のある中でおまえは女になれるのか。挑まれていると直感した。女たちの中で母親は私だけ。奴隷としては不利そのもの。田崎は若くていい男。いい女だと思われたい。美希には負けない。智江利も含めた三人の中で君臨したい。

  奈良原は言う。
 「本屋も休みだ一週間。美希に休職願いを書かせるから洋子はそれを届けてやればいい」
  美希だけ? これから一週間ずっと一緒で調教されるの?
  奈良原は、いいえご主人様は、子を持つ母を気づかってくれている。でもそうね一週間は長すぎる。子供のそばを離れられない。それは美希のアドバンテージ。
  美希は思う。洋子に対して有利だわ。マゾへの一歩は劇的に。ヒロインは私よ洋子、ザマミロ。奴隷となってまで勝てないようなら私は負け犬。子供も持てず、自信も持てず、ただ生きているだけの存在に成り下がる。

  負けないからね洋子!
  あたしこそよ美希!

  智江利は思う。ご主人様はさすがわだ。MでもSでも思いのままに行き来できる魔女になれとおっしゃっている。ご主人様にはマゾ牝。美希と洋子に対しては君臨する女王様。そのための試練なのだと考えられる。試練に耐えてピアスをいただき、ご主人様と添い遂げたい。白紙の婚姻届は用意してある智江利。
  智江利は立って黄色い下着だけの姿となって洋子に平伏す。
 「女王様、どうか厳しく躾けてくださいますよう、よろしくお願いいたします」 身をたたみ額を板床にこする智江利。可愛いわ、どうしてやろう。洋子は股ぐらの底で濡れはじめる性器を感じ、立ち上がった。

  襖をはずして現れる泣き柱。美希は両手を縛られて柱の中ほどに固定され、体を折って尻を突き出すポーズ。足は自由。閉ざして体を支えていた。肌に先ほどまでの房鞭の赤みは残っていたが、熱は冷めて痛くもない。
  後ろからかぶさるように田崎に抱かれ、背越しに回された両手に乳房を揉まれ、二つの乳首をコネられる。
 「感じます田崎様、ありがとうございます」
 「うむ。美希はいい奴隷になる女」
 「はい田崎様」
  美希は嬉しい。認めてくれた。
  田崎は一度裸身を離れていって、黒いブリーフだけの姿となる。引き締まったボディ。隆々と張る胸板。そしてブリーフの前が衝き上げていることが美希にとっては嬉しかった。
  ステンでできた乳首責めのピンチ。キリキリ音をさせて嘴が開かれて、左へ右へ、突き抜ける激痛が悲鳴になる。
 「きゃぅ! 痛ぃーっ!」
  ピンチは重く、乳房が少し引き伸ばされて綺麗な円錐に垂れている。
 「少し耐えろ、振り回すとなお痛い」
 「はい田崎様、あぁン怖いです、怖いの田崎様」
  田崎は微笑んで背や尻をそろそろ撫でると、おもむろに鞭を手にした。
 先ほどの黒い房鞭。ここにはそれ以上の強い鞭は置いてないはず。

  しかし鞭は、先ほどまでの鞭打ちで汗と愛液を吸っていて革が重く、しかも男の力。痛みは想像できたし、泣いて濡らすマゾの姿も想像できた。
 「脚を開いて尻を上げろ」
 「はい! あぁ乳首がちぎれそう」
  パッシィーッ!
 「くぅ!」
  目をカッと見開いた。一打で尻が壊れそう。パワーが違う。
  痛みに尻を退くと、リストで振る下振りの縦鞭がベシと性器に炸裂する。
 「きゃう!」
  飛び上がるほどの痛み。それがピンチを振り回し乳首を責める。
  美希は尻を突き出して、せめて性器だけは許してほしいと尻を振る。
  強い鞭が十回振られ、美希は泣いて許しを願う。乳首が限界。火のような痛みに変わって耐えられない。
 「田崎様どうか乳首を、うっうっ、痛いぃ、うぅーっ」
 「外してほしいなら五つ耐えろ。脚を開くんだ」
 「はい」
  縦振りの性器打ち。開かれた谷底でアナルもラビアも打ち据えられる。
  そしてその度、美希は跳ね、重いピンチが振り回されて悲鳴となる。泣いて泣いて泣きじゃくる。けれどそうして狂乱しながら、思考のすべてが停止した牝の安堵を感じている。
 「最後だ、強いぞ」
 「はい!」
  ベシーッと食い込む革の束が愛液を吸い取ってますます重く、その先端が包皮を飛び出すクリトリスにヒットした。
 「ぁきゃぅーっ! あぁン、はぁぁン、田崎様ぁ」
  声が甘い。底なしのマゾ。奈良原はそう感じて、裸身をしならせよがる美希をじっと見ていた。

  智江利。膝で立って脚を閉ざし、激震するバイブの責めに悲鳴を上げる。抜けたら拷問を言いつけられて、赤い房鞭のよがらせ打ちで悶えつつ、腿を閉ざして膣を襲う悪魔のセックスに耐えている。
 「あぁいい、いいです女王様ぁ、イッてしまう、ああ女王様ぁ」
  洋子はダメだと奈良原は感じていた。やさしい。美希がどうしてそこまで嫌ったのがわからないほど洋子は母性にあふれている。全身に脂汗、崩れそうになる智江利に寄り添って抱かれてやり、しがみつく智江利の頬を撫でてやり、やさしい眸色で見つめている。
  しかしダメ。Sになれない洋子はまたMにも遠い。壊すなら洋子だと奈良原は見つめていた。
 「もうダメ?」
 「はい女王様、立っていられません」
  洋子はちょっと笑って智江利の頬を軽く叩くと、バイブを抜き去り、四つん這いで奈良原に尻を向けるポーズを迫る。尻を上げさせておいて感じさせる性器打ち。
  バサバサ、ベシーッ。
  それもまたよがらせ打ち。私を責めるならこうして欲しいのよと智江利に教えるような手ぬるい鞭。

  可愛い智江利。洋子は打たれるたびにくねる智江利の尻を見つめていた。性の嵐に肌は上気し桜色。こぢんまりと締まるアナル、そしてラビアの薄いつつましやかな性器なのだが、淫女の汁をダラダラ垂らす。
  私が男なら突き立ててやるものを。たまらない。可愛くてたまらない。そんな想いが鞭となって性器をはたく。
  そしてそんなとき、断末魔の悲鳴がした。乳首責めを許された美希の乳房に下振りの房鞭が打ちつけられて、つぶれた乳首を襲ったらしい。
  ぐわぁぁ! 日頃の美希からは思いもつかない獣の悲鳴。洋子はそちらに目をやって、全身をズタズタにされた美希の裸身に息を詰めた。
  横に回って美希の顔にブリーフから解放した強い勃起を近づけて、そしたら美希は泣いた顔を横に向けて唇をかぶせていく。
 「ご褒美をもらって嬉しいな」
  はいはいとうなずきながらペニスをほおばる美希。わけもわからず口惜しく思える、この気持ちは何なのか。私もM。ご主人様をしゃぶってみたいし、女王様なら舐めて舐めて尽くしてあげたい。洋子は自分のMを思い知り、なのに智江利を責める快感に酔っている。

  私は甘いと感じた洋子。足下で四つん這いの可愛い智江利に言ってやる。
 「強いよ、覚悟なさい!」
 「はい女王様!」
  肘から下のフルスイングで振られた革の束が今度こそベシーッと湿った音をさせて炸裂した。
 「きゃぅ!」 本気の悲鳴。続いてベシーッ!
 「ぎゃ!」とかすかにくぐもる悲鳴と同時に智江利は前へと吹っ飛んで、股間を押さえてジタバタもがく。クリトリスを打ったようだ。
 「ほら這って! お尻を上げるの!」

  美希と洋子。それに智江利を絡めていく。これはいけると奈良原はほくそ笑む。

 「はぁうーっ! ああ田崎様、幸せですぅ!」
  柱に両手を固定されて尻を上げ、後ろから勃起を授かる美希。そのとき洋子はカッと来て、さらに強い鞭を智江利の性器に浴びせていった。

2017年11月25日

きりもみ(六話)

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 六話 ブリザード


 もう十二月だというのに台風なんて、地球はよほど狂ってきている。南の海の水温が下がらない。夏のような雲が次々にできている。北上するとさすがに寒気にのされて低気圧に変わるというが、それにしたって豪雨になるのは避けられないはず。影響は火曜から。今日は日曜で平気だろうと思った美希だが、帰り道のないところへ向かっているとは思いもしない。
  性奴隷への一歩は劇的に。あのとき智江利と話したことが自分に向けられることになるなんて。

  洋子のクルマ。走り慣れた道を行きながら、美希は不思議な生き物を見るような思いでハンドルを握る洋子を見ていた。
  シートに座るとたくし上がって赤いデルタの覗くミニスカスタイル。三十路の女が穿くものなのかと思う反面、性の世界へ突き抜けた女の解放を感じてしまう。それは日頃の調教というのか裸を強制されて濡らしている姿を見ていても、ちょっと信じられない何か・・あふれる性への想いがあったとしても、あたりまえの女なら、水が表面張力で崩壊を踏みとどまるような、自制と言うべきか、観念と言うべきか、崩れたら元には戻せない怖さがあるはずなのに、常識的なモラルさえも捨て去って振る舞える牝の浅ましさを感じさせるもの。他人のアナルを舐めるなんて、奉仕を愉しんでいるとしか思えない。
  なんなんだコイツ? 美希は洋子の変化を通して美希自身の中に棲むもう一人の美希の存在を感じだしていたのかも知れなかった。

  着いた。いつものように智江利の赤いポロの隣へ停める。季節外れにもほどがある台風の接近で南風が入っているのか、渡した板を外された囲炉裏にも火はなくて、エアコン弱の暖房で暑いぐらい。
  クルマの中で迷走した思考を振り切って、今日一晩、洋子を悶え泣かせてやる。ことさら敵意を呼び起こすように、わざとらしくほくそ笑んで家へと入った美希。さっそく洋子を下着姿にしてやって、とりあえずはお茶にする。
  あのときの智江利の罠が仕掛けられているとも知らず。さらに今日は、ハシリドコロを煎じた幻覚剤の量が少し多い。飲んでほどなく、美希は軽い目眩を覚えていた。体から力が抜けていくようだった。

 「ぅぅ、おかしいな、どうしちゃったの、あたし・・」
  智江利は今日もミニスカートを素足で穿き、洋子は奴隷らしい真っ赤な下着姿でTバック。そんな二人の姿がゆらゆら揺れて、眼球が回って景色がぐるぐる回っている。
  二重にされたケバ立つ麻縄で輪をつくり、両方の手首をくぐって絞られたとき、美希はハッとしたが遅かった。手足をばたつかせてもがくのだが蹴り足に力が入らない。
  同じような体格の洋子に後ろから脇の下に手を入れられ、抱き上げるように立たされて、そのとき智江利は、天井下の太い梁に縄尻を投げ上げて、つま先立ちになるまで吊り上げて、手首で固定。美希はいまにも崩れそうになる体を懸命に支えている。眸が回る。なのになぜか吐息が熱を持ってたまらない。朦朧とする意識の中でも、美希は崩壊していく自我を感じ、それと同時に濡れはじめた自分の性器に戸惑っていた。

  顔を寄せて智江利が言った。
 「さあ、もうおしまいよ、おとなしくすることね」
 「そんな、嫌よ、嫌ぁぁ」
  少しぐらい声を上げても締め切った外戸が声を家に閉じ込める。
  智江利にミニスカートを脱がされて、今日は青いパンティ。断ち物バサミを持つ洋子に、上に着たセーターもシャツもザクザクに切り裂かれ、Cサイズの乳房を包む青いブラ、そしてパンティだけの裸にされる。美希はかぶりを振り乱して暴れたのだが、頭が揺れるとますます意識が崩れだし、体の芯から力が抜けて膝が抜け、手首の痛さで脚を突っ張り、かろうじて立っている。

  長さ一メートルほどの丸い鉄パイプが板床に置かれた。二重にした麻縄が中を通されて輪をつくり、片方の足首に通されて、もう片方の足が力ずくで開かれていき、鉄パイプの片方で輪をつくって通される。両手首を頭上に差し上げた爪先立ち。そこからさらに足を開かされ、両脚の先がわずか床に触れる、逆Yの字に吊られた美希。
  断ち物バサミがパンティをくぐり、続けてブラをくぐって断ち切られ、白く艶めかしい奴隷の裸身が晒される。どれほどかの恐怖が全身に鳥肌を呼び起こし、まっ白な乳房も豊かな尻肉もわなわな震える。眸が充血して眼球が定まらない。ハシリドコロの毒が回り、言葉を話そうとしても呂律が回らない。
 「思ったよりも毛が薄いね、割れ目が透けてる」
  デルタの毛群らをまさぐって智江利は冷えた笑みを浮かべると、白く小さなチューブから淡いピンクの透き通ったゼリーを少しすくって人差し指に球をつくる。
 「これは媚薬よ。欲しくて欲しくてたまらなくなり、どんな命令にも従うようになっていく。ほうらこうしてクリトリスに塗っていく」
 「嫌ぁわぅ、嫌ぃやわ」
  呂律が回らない。激しくイヤイヤをする首がぐらりぐらりと力なく揺らいでいる。

  デルタの黒い毛群らを手荒くまさぐり、ゼリーをのせた指先をクレバスへと這わせる智江利。美希は渾身の力で腿を閉ざそうとするのだが、わずかにX脚となるだけでガードの役は果たさない。
 「美希だって私にしたこと! おとなしくしろ!」
  背後から洋子に両手を回されて、乳房を揉みしだかれ、すでに勃ってしこる乳首をこれでもかとヒネられる。
 「むくぅ! いたぁい」
  そして前からラビアを嬲られ、クリトリスに媚薬を塗られ、媚薬はラビアが隠す膣口にまで塗られていく。
  嘘よ、そんな。ああ感じる。
  美希は混濁する意識の中で、堰を切ってあふれ出す牝の情念に戸惑った。
 「ほうら濡れる、もうくちゅくちゅ、ふふふ」
  鼻先に顔を寄せながら笑う智江利。後ろから乳房を嬲る洋子の唇がうなじを襲い、ぶるぶると痙攣するように震える奴隷の裸身。
 「ぁぅ! はぁう、うっうっ!」
 「ふふふ感じるみたいよ」・・と小声で智江利は洋子に言って、性器を嬲る指先をそろりそろりと動かした。
 「ほうらいい、すごくいい、感じるね美希。もうダメよ、おまえは奴隷。躾けていくから覚悟なさい」
  目眩が襲う。
  でもそれは目眩なのか、波濤となって襲う性感なのか。美希はデルタの毛群らを突き上げて智江利の指を欲しがった。

  お願いもっと、貫いて!

  しかし二人は離れ、性器がいよいよ熱を持ち、痺れるようなむず痒さに変わっていく。媚薬が暴れ出していた。
  黒い革の房鞭。ここにそんなものがあったのかと美希は思うが、思考は輪郭をなしていない。あのときの洋子のように脱がされたパンティを口に突っ込まれてガムテで遮声。黒と赤の房鞭ふたつが智江利と洋子の手に握られて、美希は頭をぐらぐら回して毒に酔う。
 「痛みが正気に戻してくれる。さあ洋子、愉しみましょう」
 「はい女王様。ふふふ、覚悟なさいね、よくも私を狂わせてくれたわよ」
  バサバサと裸身の前と後ろを撫でるように打つ房鞭。それだけで美希の白い尻が締まって弛み、波紋を伝えて震えている。

  バシーッ。バシーッ。

  乳房に弾けた智江利の黒い鞭と、たわたわ揺れる尻を打つ洋子の赤い鞭。
 「はぅぅ! ぐわぃい!」
  痛い・・言葉になってはいなかった。
  互いに数打を浴びせかけ、智江利は洋子ににやりと笑った。
 「こうするのよ、アソコがもうたまらないんだから」
  前から、縦にリストでスイングした革の束が毛群らを打ち据え、革の先が濡れる性器へ潜り込む。ベシッと湿った音がする。

 「きぃぃぃ!」
  後ろから洋子の赤い鞭がアナル打ち、性器打ち。
  ベシィーッ!
 「ぅいぃぃ! あぁンあぁン、嫌ぁぁぁーっ!」
  激痛が意識を引き戻し、腹の底から搾り出す声が言葉として聞こえはじめた。口の中にパンティを突っ込んであっても腹からの悲鳴はきっぱり声になっている。
 「マゾらしい声を出す子だわ。さあ、洋子は写真よ」
  写真と聞いて美希は自由にならない逆Y字の裸身を暴れさす。洋子が言った。
 「ほんとおしまい、美希は終わりよ、あっはっは」
  智江利が言った。
 「洋子もマゾ、だけどおまえはもっとマゾ。友だちをハメようなんて悪い子には拷問からはじめるの。私もマゾよ、ご主人様がちゃんといて、ご主人様にはお友だちもたくさんいる。おまえの躾は逐一ブログに載せていき、パスワードをかけておくからいいけれど、目線さえない顔出しで晒していくの。逆らったり逃げようなんてしようものなら全世界に公開よ。わかったわね!」
  洋子が小さなカメラを構える。ショートムービーが撮れるモード。
  そしてそのとき智江利がバイブを手にし、股ぐらを覗き込んでヌラヌラの性器を笑い、無造作に突き立てて、バイブの尻に縄をかけてウエストで固定。どうもがいても抜けたりしない。

 「さて、これからよ美希。じきにご主人様も駆けつける。マゾへの一歩は劇的に。そうだったわね? 私はそれにワンワードを加えてあげる。劇的に奈落の底へ。ふっふっふ」
  バイブのスイッチが一段オン。弱く震えて膣の中でシャフトがくねり、クリトリスにあてがわれたラバーリップが激震する。
  ブゥゥン
「はぁう! ぐむぅぅーっ、きゃぅぅ!」
  腰を振ってセックスダンス。乳房がたわんで弾み、尻肉が締まっては弛み、艶めかしい波紋を伝える。
  カメラを覗く洋子の口許が歯を見せて笑っていた。
  智江利の房鞭が腹を襲い、次には、揺れる乳房の先端の尖り勃つ乳首を襲う。
  バシーッ!
 「あっあっ! きゃぅーっ!」
 「きゃあきゃあなんて悲鳴じゃないのよ、甘えるんじゃないよ!」

  房鞭の乱打が美希の裸身を赤いヌードに変えていく。途切れることなくはらわたを襲う悪魔の振動。美希の目が溶け、鼻孔がひくひく痙攣し、尻を振り立ててイキ続ける奴隷。鞭の度に血走った目を見開いて、激しくかぶりを振って、それでいてイキ続ける奴隷を撮る洋子。高笑いしながらシャッターを切っている。
  私は終わったと美希は悟った。着てきたセーターさえも切り裂かれ、服従しないと着るものさえ与えられない。
  性奴隷。尽くして尽くして与えられるほんの少しの快楽。そして圧倒的な安堵。もうポーズはしなくていい。愛に迷うこともない。一度は結婚しておきながら私が悪くて壊してしまった。これってきっと悪い妻へのお仕置きなんだ・・都合よくそうでも考えないと、あまりにもすさまじい拷問そのものの快楽が自ら望んだものになってしまう。

  意識が消える。もうダメ。狂っていく私。

  房鞭のフルスイングが尻を襲い、とっさに尻を締めたとたん、膣まで締まり、突き抜けるピークがやってきた。がっくり首を折って膝が抜け、垂れ下がる美希。タラタラと失禁した。三十路の女のすることか。失禁の確かな恥辱を感じながら美希は意識を失った。

  女には陵辱を想像する時期が必ず何度かあるものだと、美希はつねづね考えていた。思春期の恐怖、男を知るときの怖気、不安を振り切って踏み出す新妻の時期、そして決定的だったのが、妊娠できないまま独りになってしまった自分への後悔。
  壊してほしい。陵辱への切望が、そのとき偶然に再会した洋子に向いて憎しみの感情になっていく。ピュアじゃない。自分がひどく汚れた気がする。私は私をリセットするべき。陵辱されて、拒むけれども果てていく性感情こそ、牝の本音。そこへ行けばリセットできるとわかっていながら、それのできないつまらなさ。ぐるぐると言い訳じみた感情が逆巻いて、私がなおさらおかくしなる。
  もがく。叫ぶ。だけど振り向いてももらえない。自我を見失って必死になって取り繕い、だから解放された同性が憎くてならない。
  これは夢だとわかっていながら、美希は錯乱する思考に振り回された。

  暖かい。頬もそうだし裸の全身に熱気を感じて目を開けた。
  誰かの膝を枕に気絶していた私。でも誰の膝枕? 意識が輪郭を帯びてきて、そしたら囲炉裏に火が入って炭が燃え、その向こうに智江利と洋子が座っていた。二人ともに服を着て、微笑んで私を見ている。まるで不思議なシーンのような光景を美希ははっきり意識できていたのだが・・。
  体を丸めて膝枕をされていて、体をそっと撫でられている。
  あなたは誰? そう思って顔を上げると、見慣れた男が目に入る。
 「奈良原さん?」
 「うんうん、辛かったね、うんうん」
  嘘だよ、そんな・・じゃあマスターが智江利のご主人様だったって言うのかしら。美希は次に、床に横たわる自分の姿を確かめようとしたのだが、チラと見て、男の膝にしがいみつて目を閉じた。

  私一人が素っ裸。男が一人加わるだけで全裸の意味が違ってくる。

  智江利が言った。
 「これからはご主人様と呼びなさい。お店にいても二人のときにはご主人様。私のことは女王様、洋子のことはお姉様でもいいけれど、おまえはもっとも下級の奴隷ですから言葉を間違うと許しませんよ」
  声にはならない美希だったが、主の膝で確かにこくりとうなずいた。
  奈良原の大きな手が二の腕越しに回されて、右の乳房をくるまれて、房揉みしながら乳首をそっとコネられる。美希はとたんに火のつく残り火を感じ、主の膝にしがみつく。
  奈良原が言った。
 「智江利に可愛がってもらって嬉しかった。洋子を憎んでいた自分が嫌でならなかったし、陥れるような真似をして本心では苦しかった。この子はちゃんとわかっているよ」
  乳首をほんの少しツネられて、美希は幾度もうなずいて主の膝を抱き締めた。
 「マゾだな美希は?」
 「はい」
  乳首が強くツネられて美希は膝を抱く手に力を込めた。
 「はい、ご主人様、申し訳ございませんでした」
  乳房の揉み手がやさしくなって、しかしそのとき戸口で男の声がした。

  智江利が笑って眉を上げ、不安そうな面色をする美希に言う。
 「ご主人様のお友だちよ。マゾへの一歩は劇的に奈落の底へ、だったわね? ふふふ」
  美希はゾゾっと背筋を突き抜ける悪寒を感じてならなかったし、それはブリザードとなって襲いかかる冷気の嵐のようなもの・・。