2017年01月13日

氷川冷子(二話)


二 話


 女は母となる性だから、やさしい性だと言う男どもがいる。それ
 は女のある側面であって、それだけを捉えてやさしい性などと
 言うのは視野狭窄のなせるわざだよ。母がやさしいのは子に
 対してのみであり、その精液を誰からもらったなどとは、さして
 重要なことではない。
 夫がもし危害を加えるようなら、女は即座に夫を葬る。葬り去っ
 て、わが子にだけは微笑むだろう。
 女の心には魔女の入り込む部屋があり、私などいつでもそこ
 を訪ねることはできるのだ。私は血の魔女、ルイーザ。幾多の
 女たちを癒し、苦悩から救ってきている。
 出ていけと言うか? ふふん、魔界で眠っていた私を呼び寄
 せたのは冷子だよ。二十年前・・私にとっては数秒前の出来
 事にも等しいが、冷子は心の中の魔女の部屋に私を呼んだ。
 そしていま、タカという変態奴隷を私は捕獲し、与えてやった。
 冷子とルイーザを同一視したとしても、それは大きな間違いで
 はないだろう・・。


 体に毛のない奇妙な生き物が私のクルマを洗う姿を、私は窓
のこちら側からほくそ笑んで見ていたわ。鬱蒼とした森の木々
は打ちつける雨粒を霧として草木に配り、そんな中で異様に白
い裸男はいっそう際立ち、乾ききった私の心に風邪なった霧の
雨を届けてくれた。カーポートととまでは言えない半屋根の下、
タカの白い全裸は不気味に蠢き、子供のような小さなペニスを
ちょろちょろさせて・・だけどクルマだけは綺麗になった。
 乾ききったミイラの私に、ほんの少し霧を与えてくれるもの。そ
れがいまのところのタカの存在。もう少し霧を吸えば、乾いた肌
も潤って、そのうち指先ぐらいは動くようになるのかも・・。

「終わりました女王様」
「ちゃんと綺麗にしたでしょうね」
 言いながら私は、全身スキンカラーの奴隷の肌が、霧の雨に
潤っていると感じていた。全裸では寒いのか、大人にしては小
さすぎるペニスは、縮こまってさらに小さく、少し可愛がってみよ
うと思い立つ。
「それでタカ、私のことはルイーザ様と呼びなさい」
「ルイーザ様ですか?」
「そうよルイーザ。そんな声が聞こえたの、ルイーザと呼ばせるよ
うにって」
 手の中に黒いロープを握った私は、タカの両手を縛り上げ、
その縄尻を天井を横切る丸太の梁に通して吊ってしまう。つま
先立ちになった奴隷は、縮み上がるペニスを突き出して体が伸
びきっていたのよね。
 着ているものを脱いでやり、黒い上下の姿となって、タカの裸
身にまつわりついた。このときの私はニタニタと恐ろしく笑ってい
たと思うわよ。
 私の裸に奴隷はどう反応するのか・・。

 椅子を引き、陰毛を失ってなおさら幼く見えるペニスの頭をつ
まんでやったわ。
「何よコレ、小指ほどしかないじゃない。あははは、こんなもん、
あってもなくても一緒よね」
「はい、ルイーザ様」
「女と見るとすぐに勃てる男が嫌い。いいことタカ、勃起厳禁よ。
私に対してもしも勃てたら、そのたび拷問。決めたわ、射精なん
て生涯させない。どういじっても勃起しない奴隷にするから」
「は、はい、ルイーザ様」
 まっすぐな目で残酷な命令を受け取る奴隷。
「ふーん、それでいいの? おまえは何のために生まれてきた
の? 心にもないことを・・」
 小さな亀頭を指先でコネ潰し、ツネり上げてやりました。
 タカはちょっと呻いたけれど、目を閉じてすっかり観念したよう
です。

「ねえタカ、私は綺麗? 私もチビよ。胸だってぺしゃんこだわ。
こんな私でも慕ってくれる?」
「はいルイーザ様、とんでもないことです、とてもお若くお綺麗で
す、心よりお慕いいたします」
「そう・・ありがとう。では私の意のままね。勃起は厳禁、射精はな
し! 与えられる辛さを悦びとするように」
「はい! お誓いいたします!」
 亀頭をいじり、ツネり伸ばしているうちに、なんだか少し血が集
まって硬くなってきたようで・・ふふふ、もう誓いを破ったわ。

「ふふん、心にもない証拠に、もう大きくなりだしてる」
「・・はい・・気持ちいいです、ありがとうございます」
「ありがとうございます? それもまた不思議な言葉ね? お仕
置きです!」
 薄い胸に二つくっついた小豆粒ほどの男の乳首を洗濯バサミ
で挟みつけ、吊られて揺れるタカの背に下着姿でまつわりつい
て、小さな尻を揉んでやり、髪の毛がなくなってぴょこんと飛び
出す妙な耳たぶを舐めてやったり噛んでやったり・・そうするとも
うお仕置きのまぬがれないペニスになる。
 て言っても、所詮は小さな勃起。真上を向いても十センチある
かないかの性器です。

 前に回って椅子に座り直し、真上を向いた奴隷の欲情を見据
えてやったわ。醜い。ひたすら汚い男性器。
「乳首を責められて感じるんでしょ。体中に触れられて嬉しいん
でしょ」
「はい嬉しいです、ルイーザ様」
「それで勃起させてるわけね・・なるほど・・もうダメよ、お仕置き
は厳しいわ」

 あのとき、二十歳だった私はもちろん処女ではなかったけれど、
中年男の紫勃ちするイチモツが恐ろしく、ひいひい喉で啼いて
耐えていた。好きでもなく好きになれそうもない男のペニスよ。
 悲しかった・・苦しいだけの夜が続いた。体の小さかった私は
膣も狭いらしくって、結婚からしばらくは痛くて痛くてならなかっ
た。濡れなかった。愛してないから。なのにあついはツバをつけ
てブチ込んで来たのよね。
 タカの勃起に腹が立つ。奴隷のくせに私を欲しがり大きくして
いる。穿いていたスリッパを手にしたわ。氷川のモノとは比べも
のにならないちっちゃなモノを、スリッパの裏でひっぱたいてや
ったわよ。横から茎を、縦に振って亀頭をね。

 叫んだわ。吊られた裸身の尻を退いて逃げようともがいてる。
 ペシペシと・・パシンパシンと、怒りのままに振りは強くなってい
く。乳首の洗濯バサミがぶらぶら暴れ、奴隷の肌から脂汗が浮
いてくる。目を見開き、白目を血走らせて、奴隷は叫んだ・・。
 可哀想などとは思いません。母性は今日は眠っているよう。サ
ディストの性感は奴隷の悲鳴でさらに高ぶり、ゾクゾクし、私はき
っとヌラヌラに濡らしていたと思うのです。
「ほうらタカ、紫色になってきたわよ、気持ちいいでしょ。何だか
妙に曲がってきたわね。内出血で変形してる」
「はいルイーザ様・・痛いです・・痛いぃぃ・・」
「いいわ、少し萎びてきたから許しましょう」
 私は乳首に手を伸ばし、洗濯バサミを開かずに引きちぎるよう
に外してやった。そしたら・・うわぁぁ! ぎゃぅぅ! ・・だって。
 ふふふ、いい声で叫びます。

 滅多に吸わない煙草に火をつけ、涙だらだらの泣き顔を見上
げ、紫煙を吹きかけてやったのです。奴隷は怯えていましたね。
 一口二口と吸ってオレンジ色の火種を見せつけ、肉棒まるご
と紫色に変色したペニスの先に近づけてく。
「焼いてあげようか」
「嫌ぁぁ嫌ぁぁ! ごめんなさい嫌ぁぁ!」

  ふふふ、可愛いものでしょ男って。
  「そうかしら・・ぜんぜん・・醜いだけの生き物よ」
  あらあら、魔女の私より生きてる女は怖いわね・・。

「身にしみた?」
「はい! ごめんなさいルイーザ様、お叱りを受けないよう頑張り
ますから、少しだけ時間をください、お願いしますぅ!」
「時間をくれか・・それでどう変わるのか見物だわ。ペニスが嫌な
ら乳首にしましょうか」
 煙草の先を近づけていくと泣き叫びます。面白い。ゾクゾクす
るほど面白い。
 溜息をついて立ち上がり、奴隷の後に回り込む。
「お尻がいいか・・この綺麗なお尻を焼け焦げだらけにしましょう
か」
「ああ嫌ぁぁ! お願いしますぅ、嫌ぁぁ嫌ぁぁ! えぇーん! え
えぇーん!」
 体をじたばたさせて号泣する奴隷・・私は煙草を持たない左
手の指先でお尻をちょっと突いてみた。
「ほうら熱い!」
「ぎゃぅぅ!」
「あっはっはっ! 煙草じゃないわよ、あっはっはっ!」

 吊りを許し、そしたら奴隷は足許に平伏しました。
「お許しくださり、ありがとうございます」
「何でお仕置きされたか、わかるわね?」
「はい! ルイーザ様に対し、いやらしくも勃ててしまいました」
「うん、そうよ。身にしみて反省したなら足にすがりついてキスな
さい。生涯の忠誠を誓うのです」
「はい!」
 足許ににじり寄り、平伏す姿をつくり直して足先にキスします。
「思い知らせるために今日はエサ抜き、わかったわね。奴隷部
屋で反省なさい」
 裸のまま部屋に押しやって閉じ込めた。ウオークインクローゼ
ットだった場所。中は一畳ほどしかありません。薄い布団と毛布
だけは与えてあり、トイレはバケツ。押し込めて扉を閉ざし、鍵を
かけてしまいます。中はほんとに豆電球がひとつだけ。水さえ
飲むことはできません。

 そしたらタカは・・うふふ、まさかの声を上げたのです。

「ルイーザ様ぁ! 嫌ぁぁ! ああ嫌ぁぁ! 狭いところはダメな
んですぅ! 怖いんですぅ! ああ嫌ぁぁ! 助けてぇーっ!」
「あらま・・もしや閉所恐怖症? あはははっ! 苦しめ苦しめ、
泣きわめけ!」
「嫌ぁぁーっ! うわぁぁーっ! 助けてぇぇーっ!」
「うるさい! 静かにしろ!」

 放置してやりました。狂う寸前まで追い詰めてやるつもり・・。

 男がその気になれば蹴破れるぺらぺらのドア一枚・・私はパ
ンティに手を突っ込んで、二十歳だったあのとき以来、嬉しくて
濡れるおまんこをまさぐった。

氷川冷子(一話)


一 話

 私は冷子。主人を亡くした翌月に四十になった。主人の氷川
は七十五で世を去った。くしくも氷の川に冷えた私は嫁いだの。
どれだけ私は冷たいのって可笑しくなるわ。
 短大を終えようとした二十歳の頃、父のやっていた町工場が
倒産しかけた。負債が五千万はあったらしい。そのほか家のロ
ーンなども含めると命と引き替える保険金でもまかなえる額じゃ
ない。
 取引先に氷川という資産家がいたのよね。二度も奥さんと別
れたようなどうしようもない奴よ。私と引き替えに負債分の五千
万、当座の運転資金としてさらに二千万用意する。それでどう
だ?
 私には妹が二人いて、すぐ下が高校を出たばかり、末の妹は
高校一年生。そうするよりしょうがなかった。父親よりも母に泣き
つかれたことがすべてだったわ。大好きだった母でさえ私を捨
てたということです。私が犠牲になれば一家は救われる。

 だけどそれにしたって相手は五十五。いいえ歳なんていいの
よね、愛せる人なら歳の差は気にならない。その歳にしては若
く見えたしハンサムな部類だった。しかしまあ、お金が有り余っ
てて見た目がよければ、ろくなもんじゃないでしょう。あの人はま
さにそんな男だった。子供なんて最初からつくるつもりもなかっ
たし、嫁ぐときこっそり避妊手術を受けていた。
 あの人には先妻二人との間にもちろん子がいて、当時、長男
が二十六、次女が二十四。それに腹違いの三女が十六よ。二
十歳の私がどうやって母親になれますか。
 皮肉そのもの、名前も氷川。それこそ冷え切った二十年だっ
た。七千万で売られた娘。避妊手術を受けて嫁ぐ二十歳の娘
の気持ちがわかる?
 父の工場は持ち直し、それからも度々融資を受けて、都合一
億近いお金を回して不況を乗り切ってきたのです。

 私は帰る実家さえなくしてしまった。父や母には会いたくもな
い。妹たちだって会えないわけではなかったけれど、一緒にい
ても笑えない。あの子たちは幸せな結婚をして子供にも恵まれ
ていた。手術をして、だから子供ができないなんて、私は誰にも
言ってなかった。
 その氷川がとうとう逝ったわ。妻としてしかるべきお金は手にし
ましたが、私は何のために生まれてきたの。氷川が死んで氷川
の家とも縁を切った。この二十年私につきまとったすべてをもの
をデータを削除するように切り捨ててしまいます。離婚すると金
銭的に不利ですから氷川を名乗っているだけなのよ。

 小淵沢の別荘地で廃屋同然だった物件を見つけて移り住ん
だ。ここだってそうだわ。どこかの小金持ちの所有だったものが
長い不況でうち捨てられた。
 でもロケーションは最高。別荘地の中でも自然のままの山に近
く、住んでる人もまばらだわ。都会はもう嫌、人の顔なんて見たく
ない。山の中の小さな家は、私にとって女を生き直す場所だった
のです。
 そしてあるとき買い物で街へ降りた私は、カフェで思ってもい
なかったものを見る。田舎のことですから表紙のむしれたような
古い女性誌が片づけもせず置いてあり、なにげに手に取ったの
です。
 ペットを飼う妻たち・・どこにでもいる普通の女が、じつは男を
飼って君臨している。そしてそれを望むマゾ男が増えているとい
うのです。雑誌は半年ほども前のもの。その頃ちょうど氷川が倒
れ、そう言えば雑誌なんて読んでなかった。

 頬を打たれたような気がしたわ。なんてひどいと思いながらも
息が詰まり、そのときになっていきなり孤独が襲ったの。二十年
もの間の救いがたい孤独です。
 家に戻って早速ネットを見渡した。それまで見たこともなかった
FEMDOMの世界の中にのめり込んでいったのです。
 私はまだ四十よ。女の炎は残っていたし、自由となれたこれか
らこそが人生なんだと思ったとき、心の底から黒い炎がごうごう
と燃え立った。男が憎い。いいえ相手が女でも同じこと。私は母
さえ憎んでいました。
 そうやってもやもやとネットを見ているうちに、世の中の女王た
ちが奴隷を探す掲示板に行き当たる。キイを打つ手が震えまし
たね。

  消えることができるなら 男でも女でも
  小柄なほうが私は好きよ 氷の魔女より

 氷の魔女・・最後にそれをタイプするとき、まさにそうだと思っ
たわ。私は怖い女です。ネットで見たSM的な言葉はどれもがう
まくハマらなかった。そうなのか違うのか、私には、私が何をした
いのかがわからない。
 メールはなかった。一日また一日と過ぎていくほど、メールな
んて来なくてよかったと思い直す。募集した意味が私の中で消
化されて答えとなって見えてきていた。失われた二十年への復
讐です。情や慈愛などは一切持てず、人を一人壊してしまう。
 そんなことにならなくてよかったと思うのですよ。

 一月ほどが過ぎていき、すっきりとした秋空に変わる頃、気持
ちの持ちようが変化したのか、もういいやと思えるようになってい
た。散歩した。近くにゴールデンレトリバーを飼う人がいて、マイ
ク君て犬ですけれど、どういうわけか私に懐き、楽しく遊んで来
たのよね。
 気分を変えて家に戻り、なにげにパソコンに目をやると、メー
ル着信のランプがチカチカ。

  僕のほうにもひとつだけお願いがございます。
  過去のことは訊かないでくださいね。
  本橋行孝、27歳。157センチと、とてもチビです。

 ご機嫌をうかがうような余計なことは書いてなかった。それだけ
にピンと来ましたね。この子は本気。そう思う。
 一度だけメールをやり取りし、そのとき写真貼付で返事が来て、
会うことに決めました。電車で小淵沢まで来るという。四人兄弟
の三男坊。知りたかったのはそれだけでした。彼が消えても彼
の家は困らない。
 その日は土曜日。小淵沢の駅で待ち合わせ、私はクルマの
中から駅を見ていた。電車が着いて駅から人が出てくると、そ
の子は申し合わせた通りの姿で現れた。黒と茶のツートンのナ
ップサックを肩にかけ、上下ジーンズ。髪の毛の中途半端に長
いいまどきの若者です。二十七では若者とは言えないかも知れ
ませんが、こうして外で見ると顔が小さく、チビで痩せ。全景がコ
ンパクトだから学生のようにも思えたわ。
 しばらく様子を見ていると、言葉通り一人で来たようで、道ば
たの縁石に座ってしまう。こちらは女が一人ですからね。用心す
るにこしたことはないでしょう。
 クルマの中から電話して、目の前のカフェを指示します。

「本橋君ね」
「あ・・はい」
 ふふふ、私を一目見て、えって言うような面持ちに。
 白いジーンズミニにジャケットを羽織っただけの普段着であり、
私も背は小さくて、百五十もありません。細身だし、胸は寄せて
上げてBがやっと。童顔で、とても四十には見えなかったことでし
ょう。
 この子ってそばで見ると鼻も口も顔の造作がコンパクト。男の
くせになまっちろく、華奢な印象。向こうもきっと同じことを考えて
いたのでしょうけど。
「はじめまして本橋行孝です、今日はお会いいただきありがとう
ございました」
 礼儀のきっちりできた子です。子供じゃないから当然ですけど。

「私を一目見てどう? イエスかノーかよ?」
「はい」
「お話ししたように無条件でいいのね?」
「はい」
「わかりました。それでいつから?」
「三週間お待ちください」
 丸いというより円らな眸・・こういうことの経験はないと言う。
「約束したように何も訊かない。でもそれはお互いによ。それと
ひとつ、これからのことは私の意のまま。誓えるから今日来たと
思っていいわね?」
 唇を噛んでうなずきます。意思のある面持ちでした。
「私の家、覗いてみたい?」
「いいえ、どうぞよろしくお願いいたします」

 その日はそれでおしまいでした。

 三週間。住むお部屋を引き払い、仕事も辞めて、携帯さえ解
約する。そのぐらいの時間はかかるでしょう。早い方だと思うわ
よ。それだけの覚悟はできている・・いよいよ明日というときにな
って、私はちょっと心が痛んだ。
 でもそれはすぐに消え去り、燃え上がる黒い炎に焼かれてい
たわ。

 平日の火曜日でした。昨日からずっと雨。別荘地のこのへん
は閑散としています。
 このあいだのナップサック、それに大きなスポーツバッグを提
げて現れた。荷物を二つともトランクに入れさせて、クルマをスタ
ートさせました。クルマはダークブラウンのゴルフGTI。このとき
の私はジーンズにジャケット。あの子はライトブラウンのコットン
パンツに、あのときのジージャンを合わせている。
 北へハンドルを切っていく。このあたりは県境が入り組んで山
梨と長野を行ったり来たり。クルマはいよいよ山の中に入って行
きます。

「しばらく見ることのない景色だわ、よく見ておきなさい」
「・・はい女王様」
 前を見て運転していて、女王様というその言葉にちらと横目を
流すと、静かで弱く、それでいて新しい生き方を受け入れようと
する潔い横顔だった。鼻筋は通っていても鼻が小さく、女装させ
ると女の子でもイケそうよ。

 雨で飛ばせない山道を三十分ほど。道はあちらへこちらへ枝
分かれして、あるところから舗装されていない家への道に踏み
込みます。舗装はなくても道はそれほど悪くなく、森の中へと延
びる遊歩道の感覚かしら。木々が茂り、夏の残るいまは下草も
はびこって、クルマはまるで陸の孤島へ走るよう。
「さ、ここよ、降りなさい」
「はい、素敵な別荘です」
「別荘だったのよ。私が一人で住んでるの」
 放置された薄汚れた白い洋館ふうの建物でしたが、外壁を茶
色にし、自然に溶け込むように手直ししていた。このへんには
外灯さえなく、夜になると闇に溶けて窓明かりでしか家があるこ
とがわからない。平屋に見えますが裏手が落ちくぼむ斜面にな
っていて一部二階建てというのがほんとのところ。
 荷物を持たせて家に入れ、すぐさまキッチン続きの板床に正
座をさせます。

 木のチェアを引いて私は座り・・このときは私の眸はもう恐ろし
いほど冷えていたと思うのです。
「行孝だからタカと呼ぶわね。奴隷部屋はそこ。ウオークインク
ローゼットだったところを改造したの。ドアには鍵がかかり、中に
は豆電球があるだけで窓さえなく、もちろんトイレなんてないか
らね。バケツを持ち込んでおきなさい」
「はい女王様」
「それからのことはおまえ次第ですけれど、ひとつ最初に・・」と
言いかけて、お喋りするよりはじめたほうが早いと思う。
「脱ぎなさい」
「はい女王様! 懸命に励みます、厳しく躾てくださいませ」

 恥ずかしいのでしょう、頬を上気させて脱いでいく。色が白い
から女の子みたいに頬が赤らむ。
 華奢な体。胸が薄く乳首が小さく、おなかなんて、少ししかな
い筋肉が浮いている。体毛の薄い子で陰毛も濃くはなく、脚に
も毛がありません。
「小さなペニスね、使い物になったのかしら」
「・・はい、コンプレックスでした」
「ふんっ、おまえみたいな者でも好きなった女がいたんだ? ほ
んと弱そうな男だわ。いいわ、お座り」
 正座をさせると萎えたペニスが股間に隠れてしまうほど。包茎
ではなく亀頭はちゃんと出ていますが、だからよけいに小さく見
える。お尻も小さく子供のようです。情けない姿だわ、男のクセ
に女にかしずく変態マゾ。
 私は早速、用意しておいた手製の首輪を手に首に回す。革
ではなく、小指ほどの太さの黒い綿ロープを三つ編みにしてお
いたもの。首に回し、長さを決めて、針と糸で縫い合わせてしま
うのです。丸い金輪がついていてリードだってつけられます。
「これでもう外せないから。最初はこれで充分よ、いい奴隷に育
ってきたら素敵な首輪に替えてあげます」
「はい!」

 それから・・素っ裸で裏のテラスに連れ出して、ハサミでザクザ
ク髪を切り、カミソリで剃り上げて・・もちろん陰毛も、眉毛までを
も処理してしまい、全身に毛のない化け物にしてやった。体中に
へばりつく毛の残骸をホースの水で吹き飛ばし、ふたたび今度
はテラスのコンクリートに正座をさせた。
「吐きそうな姿だわ、情けない変態男にぴったりよ」
「はい女王様」
 消えそうな顔色です。いい気味だわ。厳しく見据えてやりまし
た。
「言いかけたことだけど、よくお聞きね!」
「はい女王様!」
「髪の毛が肩に届くまで射精なんて一切禁止よ。溜まって漏ら
すのはしょうがない。おまえには快楽なんて一切やらない。寝る
ときもいじれないように後ろ手に縛っておきます!」
「はい女王様・・」
「言いつけにそむいてオナニーなんてしてるところを見つけたら
亀頭を煙草で焼きますからね。一切しないと誓いなさい!」
「はい女王様、一切の快楽は求めません、お誓いいたします」
「よろしい。しばらく食事は一日一度。身分をよく考えて過ごしな
さい」
「はい女王様!」
「わかったらクルマ洗ってらっしゃい。舗装がないから泥だらけ
なのよ。クルマはいつも綺麗にしておくよう。わかったわね」
「はい女王様!」

 すっ飛んで出ていく気味の悪い裸奴隷を、私はもう人間だと
思ってはいなかった。