2016年12月08日

自虐~ふたつの心を持つ女


一話


 その日の私は揺れていた。私は夕子、三十三歳。
 世間で言う、結婚しない女です。
 結婚をしないというより結婚を選ばなかった女と言えばいいのかしら。
 小さなカフェをはじめて一年になる。それまではOLでしたが、
 いつの日からか私に棲みついたご主人様の声に衝き動かされて、
 自由な性世界に身をおきたくなっていた。

 自虐こそ究極の愛だと思う。そのときそのときで衝き動かされる
 私の感情にしたがって、私は私に君臨する。
 女の私に棲みついたのは男です。弱い私では決して逆らえない
 孤高の男性。男のやさしさを恐怖で表現するような、身震いするほど
 素敵なお方。よく言う女の本音とは次元の違う私の人格のもう一方。

 SMではありません。そんなもの、所詮は男と女で、終わって
 しまえば苦痛の得られない孤独に泣かなければならなくなる。
 カラダの老いた女の行き先に待つものは、誰一人振り向いては
 くれない虚空のような命の残滓。絶望的な孤独。やがて消えゆく私。

 その日の私は揺れていた。私に多重して存在する主の声を聞いた日。

「しないことを減らせ」

 しないことを減らせ・・女にはしないことがたくさんあります。
 したくてしたくてウズウズしながら、意味のない力に引き戻されて
 しないこと。いいえ、できないこと。

 こんなところにいてもダメ。オフィスを去ろうと思った瞬間・・。

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