2016年12月11日

自虐~ふたつの心を持つ女(三話)


三話


 私自身への虐待をマゾヒズムだとは思っていない。究極の自己愛
なんです。そうとしか言えません。
 私の中で煮えたぎる人一倍の愛への激情が恐ろしい。それが相手に
向いたとき、私の存在は災いそのものとなるでしょうし、内向きに
なったとしたら徹底した自己否定で私という女が許せなくなる。

 マゾヒズムでいいのなら人並みのM女となってリアルな性へと
溺れていけるのでしょうが、私の願望はその程度のものではない。
 快楽など与えられない可哀想な女。どれほど叫んでも応じてくれる
人のいない絶望的な孤独。そのぐらいの悲劇に身を置いて、他人には
一切危害を加えなく、私独り、ひっそり生きて死んでいく・・。

 妄想には限りはなく、リアルなご主人様との接点には限度がある。
もしもお相手が妻子持ちなら、独占される女でいたくて、いずれきっと
奪ってやろうと思うでしょうし、それはつまり男女の行き先そのもの。
 限りない妄想の中で、限りなく残酷な幻のご主人様に、限りなく
嗜虐的な私自身が、限りなく恐ろしい責めを受けていく。

 男性に本気になれば、その人の中へと私はしなだれ崩れていくで
しょう。それでもし捨てられたりしたら・・いいえ、死によって
分かたれる別離さえ嫌。
 私の中の主は私とともに朽ちていき、墓石の下でも永遠に主と奴隷。
 恋愛に臆病すぎる私を、私はあの頃からずっと嫌悪してきたんです。
パンティにはじめて血がついて、毛も生えて胸もふくらみ、どんどん
女になっていく。恐ろしくてたまらなかった。自分を可愛がる以上に
お相手に突っ込んでいき、それでもしも破綻したら・・私は私という
女を生かしておくことができそうにもありません。

 可哀想なほど濡らしていながら・・愛してほしくて狂いそうになり
ながら、やさしい抱擁など一切ない、めくるめく快楽など一切ない、
女の幸せなど一切ない・・そんな世界でのたうちもがき生きていく。
 現実にはあり得ない奴隷の世界ですから現実の主では満たされない。

 妄想が妄想を生んで、感情を整理できないまま、婚期という女の
定めにさらされた。これほどの淫欲をなかったことにして、素知らぬ
顔でウエディングドレスなんて着られない。
 もやもやしたものはいつかきっと抑えきれずに爆発する。そう思う
と自己嫌悪に陥って、結局オナニーするしかない・・自虐への想いが
周期的に私を襲い、進学で独り暮らしをはじめたころ、とうとうそれ
を実行してしまったの。

 あのころ私は十八・・いえ十九だったかな。

 一人旅で混浴のある温泉に出かけ、若い男性ばかりがたくさんいた
露天風呂へ独りで入った。恥ずかしくて、恐ろしくて、なのに
見られているというだけでイキそうになっていた。
 私の中に生まれた妄想のご主人様は、これまで出会ってきた男たちの
本音だけを寄せ集めたようなお方なのです。
 私の中の主の声はずっと前から聞こえていた気がします。
 耳を塞いで逃げてきたし、逃れようと人並みの恋もした。だけど
そんなものはウソっぱち。結婚なんてウソっぱち。三十三になった
いま、私はようやくご主人様と向き合えるようになっていた。

 お店で一日縄パンティに苦しんで、ふらふらになってお部屋に戻った
とき、私を待っているのは日課としてる私への拷問なのです・・。

トラックバックは許可されていません。

コメントは許可されていません。