2016年12月15日

自虐~ふたつの心を持つ女(九話)


九話


 翌日お店は休みです。日頃早くに起きていて休みの日ぐらい寝てい
たい。夕べはちっとも眠れなかった。玲子のことです、嬉しくなって
責めをエスカレートさせている。火を見るより明らかだった。
 九時頃になって起き抜けた私は、寝ている間にも濡らしてしまうア
ソコを洗い、それしか許されていないバケツのトイレに吐きそうな匂
いを出して蓋をして・・そしたらちょうどそのときメールが来ました。

 今日は半日。でも戻ってもお店はお休みなんですね。
 ありがとうございますママ。夕べは泣いてしまって眠れなかった。

 可愛いことを書いている。いまさらですが信じてみようとこのとき
思った。それで返信。

 お休みですけど、いろいろあるからシャッターの中にいます。
 お昼一緒にどうかしら。何かつくれると思うわよ。
 シャッター半分開けておくね。

 仕事に入っているんでしょう、それへの返信はありません。
 なんとなく気怠い体でデスクを見つめ、どうしようと考えます。
 シャッターの裏側に玲子と二人。はぁぁ・・ため息が漏れてくる。

 パソコンには向かわない。それでなくても股縄パンティ。朝から
丸椅子に責められていては、逢ったとたん、玲子を抱き締めてしま
いそう。
 抱き締める? そうなることは明らかでした。
 性的気分を振り払うように、お洗濯と掃除を済ませ、今日は辛い
麻縄パンティを食い込ませてお部屋を出たわ。下はジーンズ、厚手
のトレーナーを着込んだ私はブラだってつけていない。

 お店に入ってシャッターを閉ざしてしまい、そうすると照明だけ
の夜のムードになってしまう。
『脱げ』
「・・そんな、ダメです、ご主人様」
『脱げと言った!』
「はい、ああ、はい!」
 キツく食い込む股縄が、お部屋からお店に来る間にすっかり濡れ
てしまっている。下も上も脱ぎ去って、だけど店内は見慣れた景色。
そこらの席にお客さんがいるようで・・衆人環視・・晒し者にされ
てるようで、全身に鳥肌が立って膝が震える。

 股縄だけの全裸です。厨房に洗ったタオルが干してあり、動き回
って引っかけても落ちないように洗濯バサミ。
 ああ嫌・・お願いします、ご主人様・・だけど許していただけま
せん。両方の乳首を挟み付け、痛みと性感にガタガタ震えながら、
テーブルと椅子をどけてフロアにモップをかけていく。店内の壁際
にガラスエリアがあり、鏡となって変態女を映している。

「玲子・・早く来て玲子・・ああ感じる・・」

 いまでも信じられない想いです。自虐が引き合わせた玲子。私は
彼女の姿に私を重ねて、すでにもうどっちがどっちがわからなくな
っている。これが怖いの。相手が男性でも好きになったら崩れてい
く。信じ切って・・のめり込んで・・私はそうやって壊れていく。

 お店は満席。その中で私はマゾ・・猥褻物陳列カフェ。
 ダメよ馬鹿! こんなことをしてちゃダメ!
 ハッと正気に戻った私は、乳首の責めを許してあげて服を着込ん
だ。でもそのままカウンターの席に座り、呆然とするしかなかった。
 いつのまにか私のM性は大輪の花を咲かせていたんだわ・・実感
したし、そう思うと玲子に逢いたくなってたまりません。

 ふと気づくとお昼を過ぎてしまってた。夕べが眠れず、カウンタ
ーにつっぷしてうつらうつら。少し開けたシャッターがノックされ
た。そのとき時刻はお昼の一時を過ぎていた。
 シャッターを開けてあげると外は晴天。光の中に白いジーンズス
タイルの玲子がいた。お化粧も薄くして、いつもの仕事帰りとは
ムードが違う。
「はいケーキ、一緒に食べようと思って」
「うん、ありがと。入って」
 こくりとうなずく玲子の顔がキラキラしている。可愛い人です。
それが玲子のほんとの姿。信じた人の前だから素直になれる。玲子
もほんと女性なんです。

 カウンターに座らせて紅茶をつくりながら・・。
「サンドイッチならすぐできるよ」
「はい、ありがとうママ・・夕子さん、ありがとうございます」
「何よ、その言い方・・さては王様に何か言われたな?」
「はい、夕子さんに従えと。どんなことでも・・」
 やっぱりね・・私もご主人様に似たようなことを言われたわ。
「王様は、さらけ出せる相手に出会えたことを感謝しろとおっしゃ
いました。生涯出会えず苦しむ女ばかりだぞって」
「・・うん、そうよね。それはそう思うわよ私だって」
 サンドイッチをつくりながらでしたけど、カウンター越しの玲子
がとてつもなく可愛く思え、はにかむような笑顔に、私の中にもあ
って解放できない女の色香を感じたわ。

「ごめんね」
「え? どうして?」
「ブログに顔まで出してくれた。私のほうは最初は違った。そこま
では怖かった。信じ切れていなかった。ごめんなさい謝ります」
 そしたら玲子。じっと見つめる二つの目に涙が湧き上がってくる
のです。私だって玲子の姿が涙に揺らいだ。

 できあがった二人分のサンドイッチとありあわせのサラダを置い
てカウンターに並んで座った。
 私がそっとあの子の腿に手を置くと、玲子はハッとしたように隣
りの私に向き直り、もうね、弾けるような笑顔を向けて抱きすがっ
てくるんだもん。
 ほんの一瞬、唇が触れ合うだけのキスをした。孤独の闇がすーっ
と流れて消えていく・・。

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