2016年12月16日

自虐~ふたつの心を持つ女(十話)


十話


 自虐はどうして?
 そういうことを私は玲子に訊くのはやめようと考えました。
 私は玲子の王様の奴隷じゃない。玲子だって私のご主人様の奴隷
じゃない。うまく言えませんが、抱き締めてあげるのはよくても
玲子にそうされたくない。誰かに感化されてしまったら純粋な自虐
ではなくなってしまうでしょうし、結局誰かに操られる私になって
しまいそう。

 そうやって私は突然湧き上がる玲子への激情をごまかそうとして
います。相手が女性でも愛してしまえば別れが怖い。女同士、いつ
彼ができて、それまで孤独を舐め合った同性がいらなくなるかもし
れないのだから。

 玲子とのスタンスが難しい。ネットの中の玲子を目撃する。鑑賞
すると言えばいいのか、それだけだったらむしろ玲子を肌身に感じ
ていけると思うんです。
 そのへん玲子はどう思っているのでしょう。互いに探り合ういま
の段階では、愛欲を解き放つ彼女を尊敬できても信頼しきってつき
あえない。そうは思っていながら、こうして一緒にいるとどんどん
のめり込んでいってしまう。

「夕子さん、私ね」
「うん?」
「夕子さんのご主人様には平伏さない。私にとっていとおしい王様
だけ。だけどよ、それが王様のご意思であるなら夕子さんには委ね
られるの」

 同じことを考えてる。私は言ったわ。

「隠すなとおっしゃるの、私のご主人様が。目撃されて、見ていた
だける人のために苦しむ姿が、俺は見ていて好ましいと」
「わかる。私もそうだし。王様がおっしゃるのは、共有ではない、
おまえ自身の吐露なんだ。吐き出す姿を笑っていただけ・・と」
 玲子もまた自虐を考え抜いている。答えはそれぞれ違っても考え
抜いた上での姿なら、それは私と同質のもの。

 玲子が言います。
「マンションなのね。七階に住んでるの」
「ウチもそうよ、三階ですけど」
「戻るとまず全裸。玄関先で裸にされて私は平伏し、王様に忠誠を
誓うんです。お部屋の中で着衣は一切許されない」
「・・うん」
「おトイレはバルコニーに置いたバケツ。雨の時だけお部屋の中を
許してくださる」
「・・うん」
「パソコンに向かうときは椅子に王様が勃起していて、突き刺され
て喘ぎながらブログを書いたりしてるんです」
「・・うん」
「デスクにプラの定規があって、それを鞭代わりに乳首を打たれて
泣いたりしている。洗濯バサミで責められたりも・・」
「・・うん」
「お買い物に出るときなんてノーパンならいいほうで、股縄をした
り、ディルドの付いたパンティを穿かされる。ちょっとでもイヤイ
ヤすると浣腸されて放り出され、青ざめながら歩いてる」
「・・うん」

「でもね」
「うん?」
「厳しくされればされるほど、月に一度アクメを許されたとき、天
にも昇るキモチよさで果てていける。日々服従、日々泣いて、だか
ら毎日幸せで・・」

 抱き締めてあげたくなる。玲子のそんな姿は私そのもの。心が震
えてくるのです。
 私は言った。
「嬉しいよね」
「嬉しい」
「私は死が分かつ別れでも嫌。ご主人様は私と重なるように生きて
おられて、私が死ぬとき一緒に眠っていただける」
「わかる。私もそうだし」
「お店で私はパンティは許されない。陰毛のないアソコに股縄を食
い込ませ、バレるんじゃないかって怖くてならないんだけど、素知
らぬ顔をしながらも半分イッてすごしてる」
「・・うん」
「デスクではディルドと乳首責めが義務なのよ。トイレだってお部
屋に置いたバケツだし日に一度しか処理することを許されない」
「・・うん」
「いちばん辛いのは、私のご主人様はアクメを許してくださらない。
悶々として、いつも濡らして・・どれだけ泣いても丸椅子で腰を浮
き沈みさせることは許されない」
「辛いね。厳しいご主人様だわ」

『すべてを脱いでお見せしろ』
「・・え」
『さあ早く!』

 恐れていた声がついに聞こえた。唇までがあうあうと震え出す私
です。

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