2016年12月24日

自虐~ふたつの心を持つ女(終話)


終話


 全裸の男たちに刺さるような視線を向けられ、私も玲子も錯乱して
しまったように興奮し、視姦されているだけで気が遠くなりそうなア
クメの波が襲ってきます。

 だからといって何かが起きるわけでなく、単にイカレた女が二人、
まったく勝手に濡らしているだけ。異常な性的興奮は私からも玲子か
らも冷静な思考を奪っていて、気がつけば、白髪のお方のお部屋に入
り込んでいたのです。誘われたのかどうかも覚えていない。はじめて
出会う第三者の目撃者。それは男性。

 女には計算がつきまとい、こうしたときでも相手は老人、抜き差し
ならない男女へは発展しない・・確信にも似た思いがあって、だから
安心してついてこられたのかもしれません。
 都倉さん。でも六十二歳? お歳を聞いてヒヤリとしました。
 お顔はともかくお風呂で見た体はどう見ても七十代。だから安心で
きたのに・・ノーマルならどうなのかはわかりませんが、SとMなら
男女関係の成立しそうなお歳です。お店のお客さんにもそのぐらいの
人は多くいて、まだまだ男性の力を失ってはいないから。

「大病を患いましてね、肝臓です」
 病気が生気を奪っていた・・いまだに通院なさっているとか。
 このとき私も玲子も全裸に浴衣一枚だけ。都倉さんは下着と浴衣。
知らない人が見たら父親に連れられる娘二人のようなもの。

「自虐・・なるほど」

 私と玲子の出会いからすべてをお話しし、幻想のご主人様と王様に
支配される女ですと打ち明けた。そういう話を聞いてくれると思うだ
けで私たちの自虐は深まっていくと考えた。
 二人のブログのこともお話ししたわ。どこかできっと目撃者でいて
くれる。顔を知る男性に正体を明かしていく恐怖・・いいえ興奮が、
私たちをさらに性の高みへ追い立てる。

「妄想のご主人様は絶対なんです。私とともに生きてくださって、死
ぬときともに眠ってくださる」
 玲子も横にいてちょっとうなずく。
「では、その妄想の主たちは、こうは言いませんか? 都倉という男
の声を聞きなさい・・私の声だと思いなさい・・と?」
 息が突如乱れだす。私も玲子も凍るような息を吐く。
 都倉さんはわずかに首を傾げておっしゃいます。
「狡いがしかし・・可愛い二人だ」
 おかしなことにはならないはず・・歳の差を見越してついてきた。
見透かされてしまっています。

「そして・・」

 何をおっしゃるのだろう・・私も玲子も全身に悪寒のような震えが
はしる。
「二人とも強い」
 私と玲子は互いに顔を見つめ合い、互いに放心するように・・ある
思いを抱きます。わかってくださる人がいた。嬉しくてならないの。
 そしてそのとき、私の中のご主人様がとんでもないことを言い出し
た。俺から去れ!
 玲子の中の王様がとんでもないことを言い出します。俺から去れ!
 私たちは同じ心を共有する性奴隷。玲子の顔色を見ていれば読み取
れます。

 自虐は、性への責任を自ら負う虐待。他人を巻き込まず私は私を罰
してきていた。玲子もそう。自分本位な自己愛ですから。

 私も玲子も、なぜか涙があふれ出し、私は男の方の右手を、玲子は
男の方の左手を・・しっかり握って、しなだれ崩れて両手の中へと抱
かれていった。

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