2017年11月25日

きりもみ(六話)

kirimomi520

 六話 ブリザード


 もう十二月だというのに台風なんて、地球はよほど狂ってきている。南の海の水温が下がらない。夏のような雲が次々にできている。北上するとさすがに寒気にのされて低気圧に変わるというが、それにしたって豪雨になるのは避けられないはず。影響は火曜から。今日は日曜で平気だろうと思った美希だが、帰り道のないところへ向かっているとは思いもしない。
  性奴隷への一歩は劇的に。あのとき智江利と話したことが自分に向けられることになるなんて。

  洋子のクルマ。走り慣れた道を行きながら、美希は不思議な生き物を見るような思いでハンドルを握る洋子を見ていた。
  シートに座るとたくし上がって赤いデルタの覗くミニスカスタイル。三十路の女が穿くものなのかと思う反面、性の世界へ突き抜けた女の解放を感じてしまう。それは日頃の調教というのか裸を強制されて濡らしている姿を見ていても、ちょっと信じられない何か・・あふれる性への想いがあったとしても、あたりまえの女なら、水が表面張力で崩壊を踏みとどまるような、自制と言うべきか、観念と言うべきか、崩れたら元には戻せない怖さがあるはずなのに、常識的なモラルさえも捨て去って振る舞える牝の浅ましさを感じさせるもの。他人のアナルを舐めるなんて、奉仕を愉しんでいるとしか思えない。
  なんなんだコイツ? 美希は洋子の変化を通して美希自身の中に棲むもう一人の美希の存在を感じだしていたのかも知れなかった。

  着いた。いつものように智江利の赤いポロの隣へ停める。季節外れにもほどがある台風の接近で南風が入っているのか、渡した板を外された囲炉裏にも火はなくて、エアコン弱の暖房で暑いぐらい。
  クルマの中で迷走した思考を振り切って、今日一晩、洋子を悶え泣かせてやる。ことさら敵意を呼び起こすように、わざとらしくほくそ笑んで家へと入った美希。さっそく洋子を下着姿にしてやって、とりあえずはお茶にする。
  あのときの智江利の罠が仕掛けられているとも知らず。さらに今日は、ハシリドコロを煎じた幻覚剤の量が少し多い。飲んでほどなく、美希は軽い目眩を覚えていた。体から力が抜けていくようだった。

 「ぅぅ、おかしいな、どうしちゃったの、あたし・・」
  智江利は今日もミニスカートを素足で穿き、洋子は奴隷らしい真っ赤な下着姿でTバック。そんな二人の姿がゆらゆら揺れて、眼球が回って景色がぐるぐる回っている。
  二重にされたケバ立つ麻縄で輪をつくり、両方の手首をくぐって絞られたとき、美希はハッとしたが遅かった。手足をばたつかせてもがくのだが蹴り足に力が入らない。
  同じような体格の洋子に後ろから脇の下に手を入れられ、抱き上げるように立たされて、そのとき智江利は、天井下の太い梁に縄尻を投げ上げて、つま先立ちになるまで吊り上げて、手首で固定。美希はいまにも崩れそうになる体を懸命に支えている。眸が回る。なのになぜか吐息が熱を持ってたまらない。朦朧とする意識の中でも、美希は崩壊していく自我を感じ、それと同時に濡れはじめた自分の性器に戸惑っていた。

  顔を寄せて智江利が言った。
 「さあ、もうおしまいよ、おとなしくすることね」
 「そんな、嫌よ、嫌ぁぁ」
  少しぐらい声を上げても締め切った外戸が声を家に閉じ込める。
  智江利にミニスカートを脱がされて、今日は青いパンティ。断ち物バサミを持つ洋子に、上に着たセーターもシャツもザクザクに切り裂かれ、Cサイズの乳房を包む青いブラ、そしてパンティだけの裸にされる。美希はかぶりを振り乱して暴れたのだが、頭が揺れるとますます意識が崩れだし、体の芯から力が抜けて膝が抜け、手首の痛さで脚を突っ張り、かろうじて立っている。

  長さ一メートルほどの丸い鉄パイプが板床に置かれた。二重にした麻縄が中を通されて輪をつくり、片方の足首に通されて、もう片方の足が力ずくで開かれていき、鉄パイプの片方で輪をつくって通される。両手首を頭上に差し上げた爪先立ち。そこからさらに足を開かされ、両脚の先がわずか床に触れる、逆Yの字に吊られた美希。
  断ち物バサミがパンティをくぐり、続けてブラをくぐって断ち切られ、白く艶めかしい奴隷の裸身が晒される。どれほどかの恐怖が全身に鳥肌を呼び起こし、まっ白な乳房も豊かな尻肉もわなわな震える。眸が充血して眼球が定まらない。ハシリドコロの毒が回り、言葉を話そうとしても呂律が回らない。
 「思ったよりも毛が薄いね、割れ目が透けてる」
  デルタの毛群らをまさぐって智江利は冷えた笑みを浮かべると、白く小さなチューブから淡いピンクの透き通ったゼリーを少しすくって人差し指に球をつくる。
 「これは媚薬よ。欲しくて欲しくてたまらなくなり、どんな命令にも従うようになっていく。ほうらこうしてクリトリスに塗っていく」
 「嫌ぁわぅ、嫌ぃやわ」
  呂律が回らない。激しくイヤイヤをする首がぐらりぐらりと力なく揺らいでいる。

  デルタの黒い毛群らを手荒くまさぐり、ゼリーをのせた指先をクレバスへと這わせる智江利。美希は渾身の力で腿を閉ざそうとするのだが、わずかにX脚となるだけでガードの役は果たさない。
 「美希だって私にしたこと! おとなしくしろ!」
  背後から洋子に両手を回されて、乳房を揉みしだかれ、すでに勃ってしこる乳首をこれでもかとヒネられる。
 「むくぅ! いたぁい」
  そして前からラビアを嬲られ、クリトリスに媚薬を塗られ、媚薬はラビアが隠す膣口にまで塗られていく。
  嘘よ、そんな。ああ感じる。
  美希は混濁する意識の中で、堰を切ってあふれ出す牝の情念に戸惑った。
 「ほうら濡れる、もうくちゅくちゅ、ふふふ」
  鼻先に顔を寄せながら笑う智江利。後ろから乳房を嬲る洋子の唇がうなじを襲い、ぶるぶると痙攣するように震える奴隷の裸身。
 「ぁぅ! はぁう、うっうっ!」
 「ふふふ感じるみたいよ」・・と小声で智江利は洋子に言って、性器を嬲る指先をそろりそろりと動かした。
 「ほうらいい、すごくいい、感じるね美希。もうダメよ、おまえは奴隷。躾けていくから覚悟なさい」
  目眩が襲う。
  でもそれは目眩なのか、波濤となって襲う性感なのか。美希はデルタの毛群らを突き上げて智江利の指を欲しがった。

  お願いもっと、貫いて!

  しかし二人は離れ、性器がいよいよ熱を持ち、痺れるようなむず痒さに変わっていく。媚薬が暴れ出していた。
  黒い革の房鞭。ここにそんなものがあったのかと美希は思うが、思考は輪郭をなしていない。あのときの洋子のように脱がされたパンティを口に突っ込まれてガムテで遮声。黒と赤の房鞭ふたつが智江利と洋子の手に握られて、美希は頭をぐらぐら回して毒に酔う。
 「痛みが正気に戻してくれる。さあ洋子、愉しみましょう」
 「はい女王様。ふふふ、覚悟なさいね、よくも私を狂わせてくれたわよ」
  バサバサと裸身の前と後ろを撫でるように打つ房鞭。それだけで美希の白い尻が締まって弛み、波紋を伝えて震えている。

  バシーッ。バシーッ。

  乳房に弾けた智江利の黒い鞭と、たわたわ揺れる尻を打つ洋子の赤い鞭。
 「はぅぅ! ぐわぃい!」
  痛い・・言葉になってはいなかった。
  互いに数打を浴びせかけ、智江利は洋子ににやりと笑った。
 「こうするのよ、アソコがもうたまらないんだから」
  前から、縦にリストでスイングした革の束が毛群らを打ち据え、革の先が濡れる性器へ潜り込む。ベシッと湿った音がする。

 「きぃぃぃ!」
  後ろから洋子の赤い鞭がアナル打ち、性器打ち。
  ベシィーッ!
 「ぅいぃぃ! あぁンあぁン、嫌ぁぁぁーっ!」
  激痛が意識を引き戻し、腹の底から搾り出す声が言葉として聞こえはじめた。口の中にパンティを突っ込んであっても腹からの悲鳴はきっぱり声になっている。
 「マゾらしい声を出す子だわ。さあ、洋子は写真よ」
  写真と聞いて美希は自由にならない逆Y字の裸身を暴れさす。洋子が言った。
 「ほんとおしまい、美希は終わりよ、あっはっは」
  智江利が言った。
 「洋子もマゾ、だけどおまえはもっとマゾ。友だちをハメようなんて悪い子には拷問からはじめるの。私もマゾよ、ご主人様がちゃんといて、ご主人様にはお友だちもたくさんいる。おまえの躾は逐一ブログに載せていき、パスワードをかけておくからいいけれど、目線さえない顔出しで晒していくの。逆らったり逃げようなんてしようものなら全世界に公開よ。わかったわね!」
  洋子が小さなカメラを構える。ショートムービーが撮れるモード。
  そしてそのとき智江利がバイブを手にし、股ぐらを覗き込んでヌラヌラの性器を笑い、無造作に突き立てて、バイブの尻に縄をかけてウエストで固定。どうもがいても抜けたりしない。

 「さて、これからよ美希。じきにご主人様も駆けつける。マゾへの一歩は劇的に。そうだったわね? 私はそれにワンワードを加えてあげる。劇的に奈落の底へ。ふっふっふ」
  バイブのスイッチが一段オン。弱く震えて膣の中でシャフトがくねり、クリトリスにあてがわれたラバーリップが激震する。
  ブゥゥン
「はぁう! ぐむぅぅーっ、きゃぅぅ!」
  腰を振ってセックスダンス。乳房がたわんで弾み、尻肉が締まっては弛み、艶めかしい波紋を伝える。
  カメラを覗く洋子の口許が歯を見せて笑っていた。
  智江利の房鞭が腹を襲い、次には、揺れる乳房の先端の尖り勃つ乳首を襲う。
  バシーッ!
 「あっあっ! きゃぅーっ!」
 「きゃあきゃあなんて悲鳴じゃないのよ、甘えるんじゃないよ!」

  房鞭の乱打が美希の裸身を赤いヌードに変えていく。途切れることなくはらわたを襲う悪魔の振動。美希の目が溶け、鼻孔がひくひく痙攣し、尻を振り立ててイキ続ける奴隷。鞭の度に血走った目を見開いて、激しくかぶりを振って、それでいてイキ続ける奴隷を撮る洋子。高笑いしながらシャッターを切っている。
  私は終わったと美希は悟った。着てきたセーターさえも切り裂かれ、服従しないと着るものさえ与えられない。
  性奴隷。尽くして尽くして与えられるほんの少しの快楽。そして圧倒的な安堵。もうポーズはしなくていい。愛に迷うこともない。一度は結婚しておきながら私が悪くて壊してしまった。これってきっと悪い妻へのお仕置きなんだ・・都合よくそうでも考えないと、あまりにもすさまじい拷問そのものの快楽が自ら望んだものになってしまう。

  意識が消える。もうダメ。狂っていく私。

  房鞭のフルスイングが尻を襲い、とっさに尻を締めたとたん、膣まで締まり、突き抜けるピークがやってきた。がっくり首を折って膝が抜け、垂れ下がる美希。タラタラと失禁した。三十路の女のすることか。失禁の確かな恥辱を感じながら美希は意識を失った。

  女には陵辱を想像する時期が必ず何度かあるものだと、美希はつねづね考えていた。思春期の恐怖、男を知るときの怖気、不安を振り切って踏み出す新妻の時期、そして決定的だったのが、妊娠できないまま独りになってしまった自分への後悔。
  壊してほしい。陵辱への切望が、そのとき偶然に再会した洋子に向いて憎しみの感情になっていく。ピュアじゃない。自分がひどく汚れた気がする。私は私をリセットするべき。陵辱されて、拒むけれども果てていく性感情こそ、牝の本音。そこへ行けばリセットできるとわかっていながら、それのできないつまらなさ。ぐるぐると言い訳じみた感情が逆巻いて、私がなおさらおかくしなる。
  もがく。叫ぶ。だけど振り向いてももらえない。自我を見失って必死になって取り繕い、だから解放された同性が憎くてならない。
  これは夢だとわかっていながら、美希は錯乱する思考に振り回された。

  暖かい。頬もそうだし裸の全身に熱気を感じて目を開けた。
  誰かの膝を枕に気絶していた私。でも誰の膝枕? 意識が輪郭を帯びてきて、そしたら囲炉裏に火が入って炭が燃え、その向こうに智江利と洋子が座っていた。二人ともに服を着て、微笑んで私を見ている。まるで不思議なシーンのような光景を美希ははっきり意識できていたのだが・・。
  体を丸めて膝枕をされていて、体をそっと撫でられている。
  あなたは誰? そう思って顔を上げると、見慣れた男が目に入る。
 「奈良原さん?」
 「うんうん、辛かったね、うんうん」
  嘘だよ、そんな・・じゃあマスターが智江利のご主人様だったって言うのかしら。美希は次に、床に横たわる自分の姿を確かめようとしたのだが、チラと見て、男の膝にしがいみつて目を閉じた。

  私一人が素っ裸。男が一人加わるだけで全裸の意味が違ってくる。

  智江利が言った。
 「これからはご主人様と呼びなさい。お店にいても二人のときにはご主人様。私のことは女王様、洋子のことはお姉様でもいいけれど、おまえはもっとも下級の奴隷ですから言葉を間違うと許しませんよ」
  声にはならない美希だったが、主の膝で確かにこくりとうなずいた。
  奈良原の大きな手が二の腕越しに回されて、右の乳房をくるまれて、房揉みしながら乳首をそっとコネられる。美希はとたんに火のつく残り火を感じ、主の膝にしがみつく。
  奈良原が言った。
 「智江利に可愛がってもらって嬉しかった。洋子を憎んでいた自分が嫌でならなかったし、陥れるような真似をして本心では苦しかった。この子はちゃんとわかっているよ」
  乳首をほんの少しツネられて、美希は幾度もうなずいて主の膝を抱き締めた。
 「マゾだな美希は?」
 「はい」
  乳首が強くツネられて美希は膝を抱く手に力を込めた。
 「はい、ご主人様、申し訳ございませんでした」
  乳房の揉み手がやさしくなって、しかしそのとき戸口で男の声がした。

  智江利が笑って眉を上げ、不安そうな面色をする美希に言う。
 「ご主人様のお友だちよ。マゾへの一歩は劇的に奈落の底へ、だったわね? ふふふ」
  美希はゾゾっと背筋を突き抜ける悪寒を感じてならなかったし、それはブリザードとなって襲いかかる冷気の嵐のようなもの・・。

トラックバックは許可されていません。

コメントは許可されていません。