2017年12月15日

きりもみ(十話)

kirimomi520

 十話 静かな苦悶


  ぅぅむ・・むぅぅン。

  奈良原と、着衣を許され女王の眸色の戻った智江利に微笑まれ、これこそが奈良原の真骨頂という厳しい縄に呻く美希。両腕を背に回されて手首の交差ポイントから伸びる麻縄が乳房を醜いまでに張り詰めさせ、二つの柔らかな乳首が乳輪ごと飛び出してしまっている。鴨居に背縄で吊っておき、片脚だけを膝で吊る英文字のhの形。陰毛を失った陰唇は赤黒く充血して牝ビラの厚みを増し、苦悶とは裏腹にある牝の発情が透き通った蜜液となって玉をつくって垂れている。限界までの片脚開きに牝ビラは閉じていられず粘膜ピンクの膣口までも覗かせる。吊られてすでに一時間。美希は長い髪をだらりと垂らし、弱くイヤイヤと首を振るのだが、そのうちに口が開いて唾液がダラダラしたたり落ちる。眸がイッて虚ろ。かろうじて体を支える片足が、いまにも膝が抜けて崩れそう。
  田崎は洋子をお持ち帰り。どうせそこらのホテルだろうが、洋子は洋子で泣きわめいているはずだった。

 「美希」
 「・・はい」
  どろ溶けた性欲の双眼なのだが、眉間に波打つ苦しげな甘ジワが残された力を振り絞って切なさを表現しているようだった。
 「奴隷として生きるということとマゾとして生きるということは少し違う。静かな縛りは自分を見つめるときになる」
 「はいご主人様」
  ほとんどもう息の声。主の声へ応えたとたん美希の首ががっくり折れて、ふたたび口が開いてきて唾液を垂らす。膣口から滲むように漏れ出す蜜の本流は白い内腿を伝って流れ、支流となった流れが牝ビラへと迷い流れてキラキラ輝く玉をつくる。
 「ぅぅ・・ンふぅ」
  甘い呻き。そろそろ頃合いか。
 「智江利、三点責めだ」
 「ンふふ、はいご主人様」
  ちょっと眉を上げて微笑む智江利。下着から整えられた乳房の張ったTシャツ、ホワイトジーンズのミニスカート。ストッキングは穿いていない。抜けるように白い脚線。そんな姿で智江利は革の厚い黒い房鞭、それに乳首責めのステンのクリップを手にして、甘く呻く美希の裸身に歩み寄り、ひろげられた尻の谷へと指を忍ばせ、いたぶった。
  カギ状に曲げた指二本の異物。いつでもどうぞというように奴隷の穴は受け入れる。無造作に突っ込まれ、美希の眸はカッと開かれ、腰をクイクイ入れてくる。
 「はぁぁ、んっ、ンふ、ンっふぅ」
 「ふふふ、ほんといい声。気持ちよさそう。欲しかったもんね美希?」
 「はい女王様、いい、感じますぅ」

  しかし、ボウルに残った生クリームをさらえるように指先で膣壁をこすりあげて指は去り、吊られ女の前に回った智江利は、バネの強いステンのクリップの嘴を開き、乳縄に張り詰めて血の筋が浮き立った乳房を揉むと、乳輪ごと醜いまでに飛び出した乳首をコネて、左へ右へ、ステンの嘴で乳首を捉えて潰しにかかる。
 「ぁくぅぅ! むむむ、痛いぃ!」
  にやりと笑って貌を覗く智江利。美希の眸は血走って、涙とは質の違う潤いに満ちていた。
 「痛い痛い、可哀想ね。でもダメよ、もっともっと痛いから」
  吊りで朦朧とした意識が覚醒し、覗かれる女王の眸を見たときに、美希は奴隷の人生を覚悟した。覚悟しなければならないと思い込むように自分の思考を操作した。
 「クリトリスを打ってやれ」 と奈良原の声がする。
  魔女を操る魔王の意思。そうに違いないと美希は思う。ここは日常の延長線に存在する、まるで異質の悪魔の世界。そして私はそんな世界に迷い込んだ迂闊な女。二度ともう元の私には戻れない。

  智江利は黒い房鞭をだらりと垂らして片開きの尻の後ろに立ち、バサバサ軽く振って間合いを見切り、革の束の先端のカットされた硬い角がクリトリスに食いつくことを確かめると、下振りのフルスイングで尻の底を越えて前へと回る鞭を打つ。
  ベシーッと湿りきった音。革はすでに洋子の膣液にまみれていたから濡れて重い。
 「あきゃ! きゃぅぅーっ!」
  片開きの尻を、腰を使って振り立てて、しかし乳首を振り回すステンクリップの痛みを感じて尻が止まる。
  智江利が言った。
 「いくつ欲しい? 十、二十、五十。さあいくつ!」
 「はい女王様、五十ください」
  そして美希は貌を上げて囲炉裏の向こうの奈良原へと眸を向けた。こいつが魔王。魔女を操る張本人。
 「ご主人様、女王様、どうかどうか可愛がっていただけますよう。美希はきっといい奴隷になります、お誓いします、きっときっといい奴隷になりますからぁ」

  ふむ。奈良原は思う。
  思ったとおり創造するタイプのマゾ。頭がいい。置かれた状況をちゃんと処理して悦びに変えようともがいている。奈良原は眸を細め、しかし智江利に打てと目配せしたのだった。
  智江利は片開きの尻を撫でながら言う。
 「いい心がけね。だったらなおさら可愛がってもらえる資格を身につけないと」
 「はい女王様」
  そして美希は自ら腰を張って尻を開き、打たれる性器を突きつける。
  バシーッ!
  きゃぅ! ぎゃぅ! ぎゃぁぁーっ! ぐわぁぁーっ!
  声がどんどん獣の叫びに変化していく。乳首が痛い。それもかまわず腰を振り、重いクリップに乳首を振り回されて、とっくに泣きじゃくっていて、それでも尻を開いて鞭を待つ。
  智江利もそのへん心得ていて、数打しては性器を撫で、後ろから手を回して両方の乳房をつかんで痛い乳首を振り回し、泣き声を叫ばせておきながら、次には性器を撫でてやる。
  クリトリス打ちは十数打で終わった。しかし乳首は許されない。乳首の痛みは角のある激痛から丸みのある疼痛へと変化しているはず。
  智江利は鞭を手にしながらも、片開きに晒される牝の性器を仰ぎ見る股間に潜ると、腿に垂れる蜜液から舐め取って、肉ビラが開いてしまって膣口を隠せない歪んだ性器を舐め上げてやる。
 「ご褒美よ、嬉しいわね?」
 「はいぃ! ああ女王様ぁ、イッてしまいますぅ! あぁぁ感じるぅ!」

  なんて子なの。智江利はちょっと信じられない。はじめての調教ですでにマゾ牝。真性マゾとは美希のことだし真性レズとも言えそうだった。
 「いい子。乳首も許してあげましょうね」
  前に回って泣き濡れる奴隷の貌に微笑んで、クリップを両方一度に解放する。
 「ぐあぁぁーっ痛いぃ! 痛いぃ!」
  もがくもがく。智江利の指先がぺしゃんこの乳首を両方つまみ、そうすると美希は両方の乳首を交互に見て恐怖に引き攣った貌をする。
 「丸くしましょうね。いい声を聞かせてちょうだい」
  ツネるようにコネ回し、乳首で乳房を吊るようにして房を振る智江利の指先。
 「ぐわぁぁーっ! がぁぁぁーっ!」
  顎を上げて虚空を睨み、かぶりを振り、片開きの足先をぴょんぴょん暴れさせて叫ぶ美希。尻が締まり腹圧が上がったことで牝腹に留まっていた蜜液が搾り出されて床に垂れる。
  涙を垂らす貌を覗く智江利。
 「気持ちいいみたい?」
 「はい女王様、気持ちいいです」
 「もっと?」
 「はい女王様ぁ!」
  ツネり上げられ、のたうち、もがき、けれどそのうち声に糖度が増していって女のイキ声に変わっていく。総身の毛穴が脂汗を搾り出し、白い裸身がヌラヌラてかって生々しい。

 「浣腸もちゃんとするのよ。浣腸なんてされなくたってご主人様の目の前でできるようにしないとね」
 「はい女王様」
 「私やご主人様のお体から出て捨てられるものも美味しく飲むの」
 「はい女王様」
 「いい子にしてればイカせてあげる。失禁したって許さない快楽よ」
 「はい女王様、美希は奴隷です、どうか可愛がってくださいませ」

  弾けた。キレた。壊れた。
  さまざま言い方はあるだろうが、このとき奈良原は、得体の知れない性の化け物がサナギの甲殻にヒビをはしらせ、産まれてこようともがいていると感じていた。最低奴隷はもしかしたら美希にとっては至福の時ではないだろうか。
  吊り縄は智江利によって解かれ、美希は腕背縄で乳房を搾り出されたままの姿で板床に崩れ落ちた。腕縄が解かれて血流が回復すると、腕も脚も痺れるのか、ふるふる身を震わせて切なげなじつにいい貌をする。
 「智江利、コーヒーを」
 「はい、ただいま」
  智江利が部屋を出て、コーヒーを二つ支度して持ってくる。その間美希は崩れたまま、熱い息を吐き続けた。

  囲炉裏のこちらに魔王と女王、囲炉裏の向こうに最低奴隷。奈良原は囲炉裏のそばにきて脚を開き、クリトリスだけでオナニーしろと命じた。自慰を許されるのは褒美。美希は板床に尻をついて脚をひろげ、片手で上体を支えながら空いた手でクリトリスをこすりあげる。
  甘い息と甘い喘ぎ。泣き濡れて乾きかけた二つの眸が閉ざされて、長い睫毛にふたたび涙があふれてくる。
 「なぜ泣く?」
 「はいご主人様、嬉しくて泣いてしまいます」
  奈良原はちょっと笑って、傍らに座る智江利のスカートの奥へと手を入れた。智江利もまた腿を弛めて逆らわない。うっとりと溶けた女王の眸が、陰毛を失ってあさましいまでに濡れる奴隷の陰唇を見つめている。性器打ちで股間が赤い。牝ビラは焼かれたばかりの肉片のように充血して腫れていて、クリトリスは包皮を飛び出し、こすられてなお真っ赤になってしまっている。
 「充分こすったな」
 「はいご主人様、イキそうです」
 「だったらそこまで。おい智江利」

  主に言いつけられて智江利が手にした真っ赤なパンティ。股間にポケットがついていて小さなローターがおさめられるようになっている。
  下着を許された美希だったが、智江利は言う。
 「奴隷に許される唯一のパンティよ。穿きなさい」
  股間にこんもり硬いものが入っていて、それはちょうどクリトリスにあてがわれる部分。パンティラインの前のところに小さなソケット。コンパクトなスイッチボックスから伸びるプラグがつながれ、スイッチがごくわずかな振動をもたらした。スイッチボックスはパンティラインの腹の前にマジックテープで固定される。
  ブッ、ブッと、間欠して震えるわずかな振動なのだが、責めとオナニーで敏感になっているクリトリスには悪魔の愛撫。
  美希は腿を固く閉じ、眉根を寄せて眉間に甘ジワ。鼻孔をひくひくさせて、くぅ、くぅと、振動のたびにかすかな喘ぎを息にのせて吐いている。
  冬のいま、花柄の可愛い浴衣と真っ赤な帯が許された。
 「さあ美希、お夕飯の支度よ、手伝って」
 「はい女王様、ぅっ、ぅく」
 「ふふふ気持ちいい気持ちいい。パンティをぐっしょり濡らして後で舐めて吸い飲むの。甘くて美味しい蜜が採れる」

  二人が連れ立って、キッチンとは言えない古い台所へ去って行く。奈良原は、明日からの一週間を智江利に任せ、調教が甘ければ智江利に仕置きだと考えていた。次の週末また試す。一週間という日々はサナギに羽化を促す充分な時間だと考える。
  さてしかし。洋子はどうする? 洋子には家庭があり田崎との時間も限られる。それで二人を並べてはアンフェアというものなのだが・・。
 「鉄は熱いうちにか・・ふふふ」
  そんなこと茫洋と考えて、ちょっと笑う奈良原だった。

  流れる涙で化粧を崩し、仁王立ちとなった田崎の股間に頬を擦りつけすがる洋子。
  横須賀から少し横浜側へ戻るルート上に見つけたラブホ。田崎のクルマはステーションワゴンだったのだが、今日はそれ用の道具を積んではいなかった。女を持ち帰ることになろうなどとは思っていない。けれどそれが洋子を少しは安心させた。そんなものをクルマに常備しておいて隙あらば女を狙うチャラチャラ男のイメージはない。話していてもやさしくないし、でもだから素顔を見せてくれる男だと安心できる。

  ホテルに入って、奴隷はもちろん裸にされ、膝を着かない両手両脚の猿這い姿。田崎はスラックスのベルトを手に、パァン。一打でくらくらするほどの痛みが襲い、尻にも背にも赤いシールが貼られたような痕がつく。
  散々泣いて、それで最後に性器打ち。仰向けに寝てM字に脚をたたんで開き、毛群ら穴を晒しておいて、革の厚いベルトで、パァン! 泣き叫んで五打耐えて、股間にすがってペニスに頬ずり。痛みがひいて、それからまた五打耐えて、涙とペニスの垂れ汁とが一緒になってヌラめくペニスにすがりつく。奴隷の穴も主の剣も燃えるように熱かった。

 「あの女は化けそうだ」

  どきりとする言葉。最低奴隷をあっさり受け入れた美希に対して、洋子は勝てたとは思っていない。あの子はマゾ性が強い。マゾに耽溺してでも牝を謳歌しようとする知性もある。
 「おまえはママだそうだな?」
 「五つになります」
 「であればなおハンデ」
  洋子はちょっとうなずいて、田崎の尻を抱きながら真上を見上げた。田崎は若く、彫像を見上げるような体をしている。
 「実家ですけど、あの子をお風呂にいれたりしますから」
  陰毛をなくすわけにはいかない。肌に鞭痕を刻むわけにはいかず、ボディピアスなんて増して無理。何より時間が自由にならない。美希には勝てない。わかりきったことだった。
  田崎は洋子をほとんど知らない。洋子は田崎をまるで知らない。突如現れた男に痴態を晒し、運命を委ねなければならなくなった。恐怖でもあるのだが、美希のことはともかくも、性欲が暴れ出していると認めなければならなかった。

  髪をつかんでさらに貌を上げさせて、田崎は言った。
 「それは二人になるとき決まるもの。おまえとあの女が二人になるとき、M対Mでせめぎ合う」
 「そうでしょうか、やっぱり?」
  ご主人様や女王様といっても、日常の中では美希との間がいちばん近い。それまでのスタンスは壊れ、接し方も微妙に違ってくるだろうと思っていたし、それは美希のほうでも同じことを考えているはずだ。
  ふいに田崎は言うのだった。
 「ハマ(横浜)にはいい場所があるじゃないか」
  え? 洋子は田崎の眸を見上げた。
 「MM」
  いたずらっぽい田崎の笑い眸。
 『みなとみらい』のMMですか? 駄洒落?

 「陸は海を侵食する。人の勝手に従って港となるが、いざ海が暴れると陸は決して海には勝てない」

  こっちは裸で泣いてるんだよ、つまらない駄洒落を言わないで・・と感じたとたん、ゾッとすることを言う。
  カーペットフロアに膝で立ち、洋子は田崎の勃起にしがみついて硬く締まる男尻を抱き締めた。

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