2020年10月13日

長篇小説に棲む女(四)

keikoku520
四話 妻と嫁の温度差に


 翌日の日曜日はあいにくの曇天。いよいよ季節が動き出したと思わせるように北風が強かった。昨夜の夕食にと買い込んだパスタをつくり、その片付けに台所に立とうとしたとき佳衣のスマホがバイブした。そのとき時刻は朝の十時前。
 飛騨に住む友人、笠井美鈴(かさい・みすず)からだった。
「えーっ、もう途中まで来てる? 十五分で着くって? ウソでしょう」

 そんな電話に新島は笑った。佳衣にはいい友だちがいると想像できたからだった。
 美鈴は、ここからだと山を三つ四つ越えた向こうにいて、クルマで一時間ほどの距離に住む。早朝だと起こしてしまうということで、行ってみていないならいいと見切り発車。佳衣は今日は一日主と一緒に家の中を整理したいと思っていたが、そういうことならしかたがなかった。
 佳衣が富山に越して何度か往き来はしていたが、そう言えばここ一月ほどは会えていない。思い立ったら突撃する性格の美鈴らしいと佳衣は思う。
 しかし妙だ。それにしたっていつもなら前もって電話ぐらいはくれるはず。
「飛騨のほら、友だちですけど」
「うむ、聞こえてるよ、筒抜けだ。行かないと向こうが先に着くぞ」
「はい。もう美鈴ったら・・」
 とにかくバッグをつかんで飛び出した。紅葉のはじまった山々の稜線も神通峡もあいにくの空模様で沈んでいる。クルマが少ない。一目散で十分ほどで部屋に着き、部屋着に着替えたところで家の前にエンジン音。美鈴は黄色のコンパクトカーの四駆にスタッドレスタイヤ。飛騨は豪雪地帯。それでも雪が来ると身動きできなくなってしまう。

 美鈴は同い年の三十歳。旧姓は坂本美鈴。東京の大学で知り合ってからの付き合いで仲のよかった友人だった。152センチのスリムボディ。佳衣と並ぶと11センチの身長差がある。佳衣は栗毛に染めていたが、あの頃茶髪だった美鈴はすっかり黒く戻っていた。専業主婦。家は農家で夫の実家。林業を兼ねていて、なりふりかまわず主婦してるといった感じ。東京で遊んだ美鈴とは雰囲気がまるで違った。
 履き古したジーンズにスタジャン。化粧も手抜き。部屋に入るなり畳にペタッと座った。
「泊まってくね」
「あそ? もちろんいいけど・・ぅあっ!」
 しまった、布団が一組しかない。焦って飛び出して、そこまで考える余裕がなかった佳衣。
「お、どしたどした?」
「お布団が一組しかないのよ。つい昨日クリーニングに出しちゃって」
 女の話にはちまちましたウソが多いもの。
「いいよ布団なんて、どうにかなる。それよりなんか寒いよね? あんたいなかったでしょ?」
 そういうところに女は鋭い。戻ってすぐ石油ストーブに火を入れたが熱が回っていなかった。美鈴はジトと横目で見た。
「ははぁ・・そういうことか」
「・・何よ?」
「さては男だな? へっへっへ。そんで布団を運んじゃったとか? まさか敷き布団までクリーニングしないでしょ?」
「・・ったく、ああイライラする、そんなはずないでしょう」
 ハラハラしていた。男の匂いがついてないか、なんとなく部屋の匂いを嗅いだ佳衣だった。考えてみれば冷蔵庫も空っぽ。主の家へ運んでしまった。

 佳衣の部屋は二階の角部屋で1DK。六畳和室に六畳相当のキッチン、それにバストイレ。築後まだ新しい掘り出し物で、窓の外には山々の緑がひろがった。一部屋しかなくベッドだと狭くなるということで布団にしていた。
 とにかく珈琲を用意して座って向き合う。
 佳衣は言った。
「で? どうしたっていうのよ急に?」
「それがさあ・・あーあ」
 見た目がボーイッシュで溌剌としていた美鈴だったが、もの悲しげに眉を寄せた。
「もう三十じゃん。結婚五年」
「うん?」
「あたしは岐阜の市街だけど旦那はいまのところでしょ。お婆ちゃんが元気で旦那の親もどっちもぴんぴん。敷地の隅に家をもらって住んでいる。あ、そうだ思い出した、後で写真撮らせてね」
「写真?」
「旦那が言うのよ、ここだろうなって。男じゃねえだろうなって意味で。あたし頭にきちゃって、そんなら写メールしたるって言って飛び出して来たんだわ」
 なるほど、うまくいってないわけか・・だいたいのことは想像できた。
「お医者にも行くけどね、言われるのよ旦那の親に。いい嫁だけど子供ができないっていうのはちょっと・・みたいにさ。旦那はかばってくれてるけど板挟み。田舎だから特にそうで、跡取りがないと肩身が狭いみたいなのね」

 佳衣は言った。
「彼のことはどうなのよ? 嫌いになった?」
「ううん、な訳ないじゃん、もちろん好きよ。好きだけど間に立って苦しい姿を見てるとさ、別れてあげたほうがいいのかなって思っちゃう。実家に住むと妻じゃなくて嫁ってカンジ?」
 佳衣はちょっとうなずいて目を伏せた。新潟の友人には二人もできて、それはそれでしっちゃかめっちゃか。けれどできないというのは女にとってはもっと辛い。都会は他人に干渉しないが、ここらでは人があたたかい分、余計なお世話も多いもの。
 佳衣は共感。
「妻じゃなくて嫁か・・まさにそうだね、ろくな話を聞かないし」
「ウチはましなほうなのよ。嫁姑の諍いなんてないんだし、あたしはお婆ちゃんとうまくいってる。お婆ちゃんはかばってくれるよ。いまどき古いって旦那の親に説教してるぐらいだもん。だけどそれにしたって余計な気を使わせてるわけだから、たまらんのだよ、あたしとすりゃあ」
「旦那さんはどう言ってるの?」
「しょうがないって。おまえと仲良くできてりゃいいって」
「いい人じゃんか」
「いい人よ、もちろん。まあ、そこいくと佳衣はいいなって思うんだ。洋子なんかてんやわんやで、なりふりかまわずだって嘆いてた」
 新潟に住む友人の名は洋子。やはり同い年の三十歳。学生時代三人でつるんで遊んだ仲間。

 それでとにかく二人並んでスマホで写真。メールで送りつけてやったのだが、即座に『今朝はごめん』と返信が。ちょっと笑ってスマホを見せる美鈴。
「ほらね、こういう人なのよ。だから余計に苦しくて・・」
 しみじみ言う美鈴を見ていて、佳衣は女の人生の変化のようなものを感じていた。学生だったあの頃から美鈴の彼氏を三人知ってる。その三人目と大失恋。裏切られたと言って酒に溺れ、べろんべろんになっていたもの。それが二十五歳の頃。そのちょっと前に佳衣が郷里の愛知へ戻り、後を追うように美鈴が郷里へ戻っていた。
 夫の笠井彰彦(かさい・あきひこ)とは高校からの知り合いで彰彦が一級上。郷里に戻って間もなく、ばったり会ったと美鈴は言う。
 誰でもよかった・・それが本音だったのだろうが、彰彦はルックスもよく高校時代はサッカー部。再会したときそのイメージのままに付き合った。結婚して飛騨に住み、そろそろ五年というわけだ。
 佳衣はそれまで美鈴を羨んでいたものだ。洋子と三人遊ぶときだって牽引するのは美鈴。夏になれば一人だけビキニだったし奔放で行動力があったもの。
面白い子だわ・・先々楽しみ・・どうなることやら・・と、ひそかに思って見ていたものだ。そんな美鈴があっさり結婚、意識になかった洋子にまで先に行かれ、ますます佳衣は意固地になった。

 しかし、それはそれ。ひさびさ会えた女同士、話が尽きずに時間ばかりが過ぎていく。昼食はカップラーメン。雨が振り出して出るのがおっくうになってくる。
 二時を過ぎて近くで買い物。夕飯はホカ弁ですまそうということになる。じきに冬。そうなると飛騨では雪が深くて動けなくなってしまう。二人でのんびりしたかった。
 佳衣は言った。
「農家の暮らしってどう?」
「それは全然。いまは農閑期だからともかくも、朝は早いし暗くなったら寝てしまう。昔のまんま。のんびりしてて好きなんだ」
「そうね、あたしの場合はOLだけど、それにしたって東京とは違う。富山は人間らしく暮らせる場所だよ」
「だよね、あたしもそう思う。うまく言えないけどさ、だからなおさら、これで子供ができればなぁって考えちゃうの」
「結局そこへ戻っちゃう?」
「戻っちゃうよ。あたし言ったのよ、奴に」
「何て?」
「不妊治療なんてやめようって。そうして運良くできたとしたって、大きくなって山ん中に細々いたいかって言ってやった。跡継ぎなんて発想こそが古いのよ。いまの子たちは我慢できない。過疎はもう止められないって」
「そうかもね、あの頃のあたしらだって東京に出たくてうずうずしてた」
「女でさえそうなんだもん、男だったらなおさらでしょ。残ったのが娘なら最悪で婿養子ってことになる。ますます無理だわ。奴もそこはわかってる。問題は嫁という立場だけ。お婆ちゃんはそれを言うの。妻として幸せでいてくれればいいってね」
「素敵なお婆ちゃんよね」
「マジそうだわ。あたしもあんなバアさんになりたい」

 そして美鈴は、眉を上げた妙な視線を佳衣に向けた。
「あんたはどうなの? ずっと独りでいるつもり?」
「わからないよ。相手がいないってこともあるけど、あたしはずっとそうだった、結婚のための恋愛に疑問を持ったし、妻になって母になる、そんな自分がイメージできない。仕事に特別なものがあるわけじゃないけど、まあつまり、いまのところは相手がいないってことなんだ」
「ふーん・・なんかやっぱり羨ましい。強いもん。あたしはダメだわ、離婚して独りになったことを考えると寂しくてやってられない。佳衣はぜんぜん来ないしさ」
「おろろ、あたしのせいかい? ふふふ、行くよまた。じつを言うとね、いまの職場も考えてんだ」
「辞めるとか?」
「近々そうなる、きっとなる。OLやってちゃ東京にいるのと一緒じゃん。パートでいいから自由にやって、せっかく富山に来たんだから、ここでしかできないことをやってみようって思ってる」
「あてはあるの?」
「写真とか」
「写真? いまさらカメラマン?」
「じゃなくて趣味としてよ。絵でも小説でもいいんだし、富山で生きたってことを心に刻んでおきたいの。そうすれば次の自分が見えてくる。きっとそうだと思うんだ。飛騨・・五箇山・・景色は最高。そういう意味でもしょっちゅう行くから。雪が来る前に往き来しようね」
「うん、そだね。何だか佳衣って変わったみたい?」
 美鈴の眸がキラキラしていた。女は鋭い。
「あたしのどこが?」
「何となくだよ。眩しいもん」

 気がつけば十一時を過ぎていた。雨はやまず、強くもならず、風が冷えて寒くなる。風呂。美鈴を先に、後始末を兼ねて佳衣が入り、出てみると美鈴は下着姿で布団にくるまっていたのだった。
「あんたパジャマは?」
「忘れた。今朝イライラしてたから、途中で気づいたんだけど取りに帰るのもムカついちゃって」
「寒いでしょ裸じゃ?」
「でもないよ。冬はまだまだ、いまならおっけ。それに・・」
 ジトッと視線。
「何よ、その眸?」
「抱き合って寝るっつうのもいいかもしらん。ひひひ」
「ばーか。でもそうね、それもいいいかも」
 美鈴は黄色の上下、佳衣は青の上下で、ひとつ布団にくるまった。考えてみれば迂闊なウソだった。敷き布団どころか枕もひとつだけ。即座にバレたウソである。ひとつ枕に頭をのせて、明かりを消した。遮光カーテンなのだが、隙間から雨の音と冷気が忍び込む。
 佳衣は黙って枕の下に腕を差し入れ、美鈴のスリムな体を抱き寄せた。二人が横寝でそっと抱き合う。
「佳衣・・マジなん?」
「マジ。あたし思うのよ、想ってくれる人に尽くしていたいって。性別なんて小さなことだわ」

 美鈴は腕を突っ張って佳衣を一度は遠ざけて、そして二人で見つめ合う。
「好きよ美鈴」
「佳衣・・ねえ佳衣ってば・・」
 微笑みを浮かべて佳衣は目を閉じ、寄せられる唇に美鈴は戸惑い、けれど美鈴は受け取った。触れるキスから舌がからみ、佳衣の手が美鈴のブラの背をまさぐった。しかしリアにそれはない。
 佳衣はちょっと笑った。
「はじめてよ、女のブラを外すなんて」
「女のブラって・・男がブラするもんか」
「ばーか・・黙ってろ・・ふふふ・・それもフロントホックだし」
 浅い谷間でブラがはだけた。
「悪かったな、ちっちゃくて」
「ふふふ・・ほうら綺麗なおっぱい・・乳首がツン・・」
 佳衣は薄い乳房をそっと撫で、先端で硬くしこる乳首を唇に捉えていた。美鈴は弱く抱きすがり、それが強い抱擁へと変わっていった。
 佳衣の手が黄色いパンティのフロントラインから滑り込む。美鈴は腿を閉ざしたのだが、そのときキスをせがまれて、ふわりと力が抜けていた。
「ンっ・・ねえ佳衣・・あぁぁ佳衣・・」
「好きよ、行けなくてごめん。これから行くね」
 薄いデルタの性毛を撫で回し、谷底への入り口に指を這わせて落としていった。開かれた腿の底の可憐な花は閉じていて、乾いたラビアを揉むように撫で回し、それから指を立ててクリトリスを転がした。
「佳衣っ、ねえ感じちゃう・・あたしも好き・・ねえ佳衣が好き・・」
「うん、嬉しいよ、仲良くしようね・・ふふふ」
 美鈴は躊躇しなかった。佳衣のブラを背で外し、弾む乳房にキスをして、青いパンティを双臀から滑らせ抜き取った。佳衣は黄色のパンティを滑らせながらキスで腹を這い降りて、デルタの底へと顔ごと突っ込み、そうしながら美鈴をまたいで濡れる性器を突きつける。
 美鈴の舌先がクリトリスをはじき、佳衣の尖らせた舌先が濡れる花弁を分けて侵入する。美鈴は喘ぎ、佳衣の双臀を抱いて引き寄せて、同じように性花を嬲る。

「美鈴、いい・・ああ素敵・・震えちゃう」
「佳衣、あたしも濡れる・・ねえ濡れちゃう・・」
 薄闇の底で互いに舐め合い、二人の白い裸身がぶるぶる震えた。佳衣の手が双臀から回って、二本をまとめた指先がずぶずぶ没する。根元まで突き刺して掻き回す。シュボシュボと激しい濡れ音。
「あぁーっ佳衣ぃ、ダメぇぇ、おかしくなっちゃうーっ」
 美鈴の指が、それならと、濡れをからめてアナルを揉んで、閉じた小菊へ突き刺さる。
「きゃ! ああ美鈴、美鈴ぅ・・嬉しい、好きよ美鈴ぅーっ! 感じるぅーっ!」
 佳衣は変わった。女心が外向きに咲いている・・と美鈴は思った。
 よかった。男嫌いなのかと心配したが、女が好きならそれでもよかった。萎んだ佳衣じゃなかったことが美鈴は嬉しい。

「ほう・・それで? どうしてあげた?」
「はい、美鈴が可愛い、たまらなく可愛い。何でもできると思った私は、あの子のアナルを舐めてあげて、クリトリスを吸い立てて、指で犯して・・そしたらあの子もしてくれて、ぼーっと霞む闇の中で狂っていました」
「続けろよ、その関係」
「はい、きっと一生、大切に」
「そうか、よかったな、よくやったぞ佳衣」
 主の声がとてつもなくやさしかった。翌々週の月曜日。土日と出勤になった代わりに月火と二日休みが続いた。しかしあいにくの雨となり、明日の火曜日も曇りだとニュースが告げた。
 新島とはあれ以来。仕事の帰りに寄る時間はあったのだったが、佳衣には独りで考えたいことがある。行くなら週末と思ったのだが、その週の土日が仕事になって、次の月曜日というわけだ。

 佳衣は赤々と炭火が燃える板の間に、今日は黒い下着の上下で平伏した。白い女体にレースが映えて美しい。時刻は昼前。美容院へ先に行き、買い物へと回って、その時刻。
「おいで」
 両手をひろげる主。佳衣はパッと笑顔になって飛び込んだ。犬になれた女は主の愛が嬉しくてたまらない。抱いてもらい、キスしてもらう。それだけで性器が濡れてヌチャヌチャになれていた。
 抱き締められて耳許で主が言った。
「主と女王様が一緒にできた。すなわち、おまえは二人を幸せにできる女であるということ。淫らな自分に胸を張れ」
「はい、ご主人様!」
 すがりついてキスをねだる佳衣に、主は触れるだけのキスをした。
「縄を仕入れた、ほらあそこ」
 それは藁縄の大きなロールが二つ。今日ここへ来て最初に眸についたもの。台所への降り口の上がり框に重ねてあった。佳衣は横目に見て微笑んだ。買い物ついでにホームセンターに寄ったとき、縄を気にした佳衣だった。
「目的は四つある」
「四つ・・ですか?」
「ひとつはもちろん女を縛る。藁縄は凶暴だ。肌に食い込み、さぞ痛い」
 佳衣は主の腕の中で老いてなお輝く二つの瞳を見つめていた。
「次に適度に切って水を含ませ重くなった縄が鞭となる。女は泣いて、なのに濡らして果てていく」
「・・はい・・ふふふ」
 次に何を言うか、佳衣は楽しみでならなかった。

「えー、さて次だ。道筋に杭を打って縄を張る。雪が来ると脱輪する」
「ふふふ、確かに・・そうですよね」
「うむ。で最後は雪吊りだ。井戸にも屋根をつけんとならんし、縛りのテクニックが何かと活きる。その四つ」
「それだけですか? ディルドとか・・」
「おぅおぅ、それは木を削って張り型をつくるんだが、そのために杉の苗を植樹する。数年すればどうにかなる」
「うぷっ・・バイブとかは?」
「それも考えたが、そのうち俺がぷるぷる震えてキモチいい」
「あっはっは、可笑しいぃ、あっはっは!」
 笑う佳衣の頭を手荒く撫でて主も笑った。この話術にメロメロだ。
「ま、そっちはそっち。思う物を自費で揃えろ」
 吹き出した。佳衣はすがりついて抱かれて甘えた。これほど楽しくさせてくれた男はいない。どうにでもしてほしいと考えた。

 佳衣は言った。
「じつは報告がもうひとつ」
「ほうほう?」
「昨日のことです、職場に辞表を出しました。今月いっぱい。それから私、手記を書いてみるつもりです。小説の中の私をほんとの私が見ているような。それと写真もちゃんとやりたい」
「そうか。ならデジタル一眼が二台ある。持ってけドロボー」
 この人は私に本気・・佳衣は涙を溜めていた。
「泣くな馬鹿」
「はい、すみません」
「えー、それと、これは命令だが」
「はい?」
「昼飯を早くせよ、腹減った」

「ご主人様、大好き・・大好きです」
 佳衣はさっと立って背を向けた。涙が頬を流れていた。

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