2016年11月14日

螺旋の舌(四話)

四 話


 こうなることはわかっていたし、怖いと思う反面、それ以上の期待もあり、またそうなったときの自分がどうなるかにも興味があった。二十五年前の流美は十五歳から十六歳への狭間。あの出来事が起こるちょっと前、それを予見するように流美ははじめて自分の性器を鏡に映して凝視した。
 遅いぐらいだと自分では思っていたが、男の子に惹かれる何かを感じだし、恋を予感しだした頃。しかしあるとき、それは結局性への開花であって、セックスへの準備なのだと考えるようになっていく。父と母の性器が結合したから私ができた。男女の性がどういうものかはもちろんわかるし、身につまされるものとして実感できる時期に来ている。
 そしてそう思ったときに、ペニスを受け入れる女の性器を知っておきたいと、ほとんど衝動的に鏡に映して覗き込む。

 若い男二人の射精を受けたご褒美に・・男二人に板床に押し倒されて、下着を剥ぎ取られ、そのときに、欲情しきった激しい濡れそぼりを男たちにも、朋子にも香子にも富代にも見られてしまった。
 この集まりは乱交パーティではなかったから挿入を伴うセックスへは発展しない。押し倒されて脱がされて、全裸の体を開ききって舐められる。二人の若者に奉仕される・・というか・・ともかく舐められる。性器を鏡に映して見たあのとき、男ってよくこんなところを舐めるよと思ったところを舐められる。
 そのとき私は激しく濡らし、濡れたラビアを開かれて膣口までも淫らに晒し、よがり、悶え、のたうって果てていく・・きっとそうなる・・そうなることはわかっていると考えた記憶が、いまになって現実のものとなる。

 素っ裸で横寝になって脚を開き、前から後ろから若者たちの激しい舌が性器もアナルも陵辱する。男たちに囲まれて錯乱して果てていく。同性に見つめられる気恥ずかしさが快楽を倍加した。心の隅にしまってあった淫らな夢が二十五年の隔たりの後にふたたび私を狂わせた。
 そう、流美は狂った。狂ったようにのたうち、もがき、女友だち三人にも淫婦たる正体を晒しながら、あられもない声を上げて不思議な世界に耽溺していく。二十五年前のあのシーンが蘇る。女としての自信を感じた瞬間だった。朦朧としていく意識の中で、いま私は若い二人の勃起を両手に握りながら、性器とアナルを舐められている・・でもそれが何だって言うの・・私は独身なんだからいいじゃない!

 飲精パーティは次のステップへと昇華していく。
 男たちは最初から全裸。女四人もいよいよ全裸。男たちに目隠ししておき、全裸の熟女四人が尻を突き上げた四つん這いで底部を晒し、目隠した男たちが匂いだけで誰かを当てる。そのとき男の二人以上に当てられた女だけが男を総取りできるというゲーム。そのために最初の射精は一度にとどめた。若者は実弾を残している。勃起させる精力にあふれている。
「ぁぁ・・恥ずかしい・・」
 四つん這いの尻の底へ熱い息が吐きかけられて、女たちは尻を振って甘い声を漏らしていた。女が四人横に並び、男が三人、先ほどとは逆にローテーションして匂いを嗅ぐ。性器とアナル、牝の匂いのすべてを嗅ぐ。
 一度のローテーションで決まらなければ、女たちが並び順を変えてふたたび尻を突き出した。一巡目、続く二巡目では決まらなかった。

 三巡目。
 目隠しをした最初の一人が言った。
「富代さん・・流美さん・・朋子さん・・香子さん」
 男の二人目が言った。
「流美さん・・朋子さん・・香子さん・・富代さん」
 そして三人目。正しい答えがかぶれば女が決まる。
「朋子さん・・富代さん・・香子さん・・流美さん」
 香子がかぶり、女の三人目が香子だった。女が決まった。
 少し肉付きのいい香子が輝く眸を見開いて男三人を見渡した。
「当たり。目隠しを取ってごらん」
 と、香子が言った。
「ちぇっ・・あーあ・・」
 と、富代がほくそ笑む。
 香子が言うのと、外れた女三人が退くのが同時だった。
 四つん這いになったまま白い尻を振り立てておどける富代に男三人が群がって押し倒す。板の間ではじまった男三人対香子のセックス。男たちは激しく勃起させていて、寄ってたかって女を愛撫。香子が獣の声を上げはじめる。

 逞しいペニスに女陰とアナルと口を一度に犯され、狂乱する女の正体・・それは牝そのものであり淫獣そのもの。
 外れ三人がほくそ笑んで見つめ、その中の富代は我慢ができず、バッグに忍ばせて持ち込んだ振動するオモチャを取り出して自分の膣に打ち込んだ。
 女二人の狂った声が妙なハーモニーを奏でていた。
 朋子と流美はロングソファに移って、女二人の本性を鑑賞した。
 朋子が流美を抱き寄せて言った。
「あさましいものね・・でもそれが女だわ・・」
「・・そうね・・そうだと思う」
 と、ふいに朋子が言い出した。
「いまから二十五年も前のことだった。その頃あたしは刑事課に配属されたばかりのペーペーだったの」
「ええ?」
「妙な事件があったのよ。いいえ、事件かどうかもわからないまま終わってしまった。被害者もなし届け出もなしでは警察は動けない」

 横抱きにされながら流美は悶える二人の姿を見つめ、朋子の横顔へと視線を移した。朋子は目を細めて微笑んで性にイカレた女二人を見つめて言った。
「狂った色彩・・いまでもはっきり覚えている」
「狂った色彩?」
「赤でしょ、青・・黄色もあれば緑もあった・・それの幾何学模様なのね」
 流美は声を失った。
「ビルの谷間に取り残された古い倉庫の地下なのよ。窓のない閉鎖空間なんですけど、そこで爺さんが一人倒れたの。心臓麻痺で結局死んだんですけど、そのときに駆けつけた救急隊員が、あまりの異様さに驚いて警察に通報した」
「・・はい」
「鉄パイプをひん曲げたような椅子のようなものが三つあって・・見方によっては婦人科の診察台のようでもある。とにかくよ、そこら中に複数の女の生理の血が散っていて、複数の男の精液が飛び散っていた。それでその倒れた爺さんですけどね、胃の中から経血が検出された・・どういうことだかわかる?」
「・・さあ」
 流美は息をするのも苦しくなった。

 朋子はすがりつく流美にいまさら気づいたように振り向いて、流美の裸身を抱き締めた。
「まあ、そんなことがあったのよ。やがて警察を辞めたあたし・・だけどそのときの記憶だけは消せなかった。あの空間で、儀式なのか・・それとも変態どもの集まりなのか・・何かがあった。生理の血を舐めたとしか思えない状況であの椅子でしょ。生理の女たちに男たちが群がって・・ふふふ、それでこういうパーティを思いついたの。女の人生なんて尻すぼみよ。セックスの部分では特にそうで、輝ける時期なんてフラッシュのようなものでしょう」
「・・ええ、それはね。子供ができて生殖終了したとたんセックスの意味がなくなっちゃう」
「そうなのよ。それからはストレスストレス・・寂しいし、もはや感じなくなってくる。それでこんなことを思いついた。若い男を楽しもうとしたときに精液の意味を考えたの。あたしに対して欲情してくれる男の姿は嬉しいものだし、フェラにたまりかねて射精する子たちは可愛いわ。生命の根源が噴射される。だったら飲んであげたいって思ったし、それからセックスへと発展したっていいじゃないって考えるようになっていた。普通のそれだと不倫になっちゃう。ありきたりだし、いまさら外に恋人を決めるのは違うと思った」
「不倫は嫌・・と言うか、欲しいのは挿入を伴うセックスじゃない」
「まさにそう、求めるものはそうじゃない。女として濡らしていたい。逞しい男を感じ・・いいえ、それは相手が女だっていいんだけれど、錯乱を共有できる仲間が欲しいと言うべきか・・」

 この人があの場所に・・そう思うと、流美はいやおうなく二十五年前に引き戻された。倉庫の地下に娘が三人。そのうちの一人は私ですとは言えなかった。

 十五から十六への狭間の私・・厳しすぎる家に嫌気が差して家出をしようとしたけれどお金がなかった。グレた友だちが妙な話を持ってきた。
『生理中なら稼げるよ』
 生理を研究している人がいる。経血を欲しがっていると言う。
 それで指定された古くさい喫茶店に行き、何かを飲まされて意識が崩れ、あの場所へと連れて行かれた・・。

「さあ、脱いで」
「脱ぐって、そんな・・でもあたしバージンなんだし」
「うんうん、そういうことじゃないから。大切なものは奪わないよ」
 喫茶店で飲まされたのは何だったのか・・朦朧とする意識に極彩色の空間が歪んで見えて、娘だった体が燃えてくる。
 脱いだ・・と言うか、脱がされた。
 パイプ椅子のようなものに座らされ、両足をMの字に大きく開かされて縛られた。だけどそのとき私は全頭マスクをかぶらされて、同じように全頭マスクをかぶった二人の娘らと一緒に縛られ・・そのうちにパンツだけの半裸の男たちがぞろぞろとやってきて・・五人だったか六人だったか・・男たちは目の見えない黒縁のサングラス・・そのほかよく覚えていなかった。

 そして私は・・。

 朋子に抱かれながら流美はあの頃の娘の自分に戻れていた。
「ほうほう、これはこれはいやらしい・・ふっふっふ」
「まったくですな・・若いアソコが赤い血を流している・・美味そうだ」
 年配の男の一人が、誰にも見せたくない・・男に見せたことのない・・生理中の性器を見つめて生唾を飲んでいる。
「嫌ぁン嫌ぁン、お願いします見ないで・・あたしバージン・・」
「うんうん、わかったわかった、犯したりはしないから・・さあ、お嬢ちゃん、泣かなくていいんだよ・・舐めてあげる・・美味しい血を舐めてあげる」

「ぁン! 嫌ぁン、ああ嫌ぁン!」
 嫌ぁン嫌ぁンという自分の声が朦朧とする意識の中でワァァンと響いていたような・・いろんな声が混じっていた・・。
「ほうら、ここがクリトリス・・吸ってあげよう」
「あぁン! 感じちゃう!」
「アナルだって舐めてあげるよ・・ほうらいい・・ちょっと匂うかな」
「ヤだぁ・・恥ずかしい・・あぁン!」
 自分の声なのか誰の声なのか・・ワァァンと頭の中で響いていて、そんなとき流美は、衝撃的な光景を見てしまう。
 赤ちゃんのおしっこポーズにされて動けない性器のところへ別の顔がやってきて、黒いサングラスがズレたとき・・流美は今度こそイキそうになってしまう。
 イクという感覚を、あのとき確かに感じたと流美は思う。

「ほうら、お嬢ちゃん、今度は私が可愛がってあげようね」
「もう嫌ぁン・・おかしくなっちゃう・・ぇ・・」
「ふふふ、いい子だ、君はいい子だ・・可愛いアソコ・・可愛いアナル・・男なら誰もが憧れる性を誇る娘さんだよ」
「ほんと? あたしって素敵な子?」
「もちろんだとも、綺麗なアソコだ、自信を持って開けばいい」
 このとき流美は心の中で叫んでいた。
『パパ、あたしだよ、ねえパパ!』
 厳しかった父がパンツだけの裸でそこにいた。娘は全頭マスクで父親でも見抜けない。
 父への反感・・しかし反面、厳しい父に男の威厳を感じていたし、まだ見ぬ男性への憧れを父に重ねて私は見ていた・・そのことに気づかされた流美。
 もっとも近く、もっとも好きな男性に私はすべてを認められた。醜悪だと思った女の股間を美しいと言ってくれる・・性への不安が消えた一瞬だった。

「ねえねえ、ダメぇ・・イッちゃう・・嫌ぁン」
「それでいい、心おきなく楽しめばいいんだよ」
「あたしヘンな子じゃない? ねえ、おかしくない?」
「うんうん、ちっともヘンじゃない・・ヘンじゃない・・最高の女は淫らであること。可愛いよがり声を誇って生きなさい」
 口の周りを実の娘の経血に染めた父親の微笑みには、流美を女へと脱皮される力があった。
『パパ好き・・もっとちょうだい・・ああイク・・』
 マスクの下で嬉しくて泣きながら果てていった私の姿が蘇る・・。
 青年三人に犯され抜かれて発狂している香子の姿が、とてつもなく幸福な女の姿に思えてならなかった。

 ところがそのとき、とんでもないことが起こってしまう。
「北川さん! どうしました北川さん! おい救急車だ!」
「いや待て、片付けが先だ」
「何を言っている、救急車! これは危ない!」
 薬の朦朧とアクメの朦朧とが重なったふわふわする意識の中で私は連れ出され・・どうやってそこへ行ったのか・・気づいたときには、どこか深い山の中の家のベッドに寝かされていた。
 見たこともない男性がいた・・年寄りではない・・中年の素敵なオジサマ。
 そのときも流美は全裸だったし、女は流美一人だった。
「気づいたかい」
「はい・・あの、ここはどこ? そんな・・あたし裸?」
「ふふふ、全裸だね。ちょっとあったものだから、かくまったんだ。ここは山の中の別荘だよ」
「山の中・・」
「と言っても、それほど遠くではないんだが・・それより君は・・」
「はい?」
「恥ずかしかったね・・だけど娘から女へと変身していく時期にいる。素敵だよ、お嬢ちゃん。君はほんと素敵な子だ」
 もちろん父ではなかった。薬の切れたはっきりした意識の中で、私は女になれたと自覚した・・。

「オジサマも・・あの中に?」
「もちろんいたよ、君を舐めてあげていた、アナルまでね」
 カーッと燃えだす体の火照りを流美はどうすることもできなかった。激しい濡れが襲ってくる。
「・・あたしバージンだったんですよ?」
「それはいまでもバージンさ、卑劣なことはしていない。ちょっとした秘密のパーティでね。我々はもっとも神聖な娘の血を授かって、可愛いアソコをじっと見つめ、自分で自分を慰めて射精する・・女は女神さ」
「・・女神?」
「そうだとも、女とはそういうもの。やがて恋もするだろうが、そのとき君は自信を持って脚を開いて、恋人にもっと舐めろとせがむがいい。可愛い声で歓び、淫らに果てていけばいい・・君は素敵だ・・愛される権利を持つ」
 そのとき森のそこら中で野鳥の囀りが聞こえていた。鮮烈な記憶として残っている。

 それからだった。自信を持って鏡越しの濡れる性器を見つめることができるようになっていた。

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