2016年11月15日

首なしの家(三話)


三 話


 謙傲の小説に濡らした中学生の自分への回想、そしていま隣にその謙傲がいる不思議な感覚と、謙傲への複雑な感情。それらのすべてが一瞬にして吹き飛んだ。加奈江にもはや声はなかった。
 黒いロングローブをまとって現れた久利は最初から裸足。首から上をすっぽり黒い全頭マスクで覆っていたのだが、そのマスクは伸縮するしなやかな生地でつくられていて、鼻の穴があるだけで目の穴さえもないものだった。近づくと目の穴には黒いストッキングを縫い付けたような透かし穴が開いていて、遠目には黒一色で目さえないように思えるもの。
 そんな姿で久利は主と加奈江の間まで歩み寄ると、謙傲は「はじめなさい」と言いつけた。
「はい、ご主人様」
 黒いローブを脱ぐ久利。加奈江は心臓が壊れたように脈動が狂っていた。

 一糸まとわぬ全裸。陰毛さえ奪われた白いデルタに淫らな女陰が剥き出しとなっていて、久利は着痩せするらしく、腿も腰も、乳房も豊か。くびれて張る美しい体をしている。
 乳首にも性器にも想像したようなピアスなどはされていなく、真っ白な裸身には鞭痕のようなものも皆無であった。全裸となった久利は、まず最初に加奈江の足下に平伏して言う。
「どうぞ私をお楽しみいただいて、お笑いいただければ幸いです」
 それから謙傲の足下へと裸身を移し地べたに額をこするように平伏す久利。
「でははじめさせていただきます。ふふふ、嬉しいです、ご主人様」
 久利は笑った・・どうして笑えるのか・・主への思慕の念を物語る久利の声に、加奈江は胸が熱くなる。謙傲は手を差し出して全頭マスクの頭を撫でる。
「うんうん、楽しんで踊りなさい」
「はい! では」

 背を向けて、ほんの一歩の流れを渡って向こう側に立つ久利。背中にも尻にも傷らしきものはない。そして、そんな久利を見送るような謙傲の慈愛に満ちた面色に可愛い可愛いと書いてあるようで、それだけで加奈江は打ちのめされていたのだった。
 流れを渡ってこちら向きになったとき加奈江は背景の暗幕の意味を悟った。艶のない黒背景に艶のない黒い全頭マスク。久利は首をなくした全裸の女体。首から下だけで存在する女のように見えるのだ。
「今日はお客様がおいでだ、いつもより激しく。乳首からだよ」
 久利の黒い頭がうなずくのはわかったが久利は返事をしなかった。首がなければ言葉もないということか・・。
 Cサイズアップの美しい乳房の先で、乳首が乳輪をすぼめて尖り勃つ。久利は両手で乳首をつまみ上げると、力を込めてツネリつぶし、乳首で乳房を吊るように引き延ばすと振り回し、そうしながら全身をしなしな、くねくね、S字を描くように揺れ踊る。
 謙傲は言う。
「だんだん激しくなってきます・・ふふふ、踊らなければいられない。スプレーさせてないのでね」
 ヤブ蚊の総攻撃。動きがちょっとでも止まると刺されてしまう。

「はぁぁ・・ンっンっ!」
 痛いのだろう、恥ずかしいのだろう・・だけど感じて感じてたまらない。
 調教された牝奴隷の声は最初から甘かった。
「もっとだもっと。尻を振って」
 黒いマスクがうなずく。それからはセックスの腰使い。尻がすぼみ、肉がゆるみ、腰が回って裸身がしなる。
「あっ! ンンーっ!」
「いいのか? 嬉しいんだな?」
 黒いマスクが大きくうなずき、けれども乳首が悲鳴を上げるようにツネリつぶされ、円錐に伸び上がった乳房が振り回される。
「女たちはこうして踊り、そのときマスクの中にあって僕にさえ見せなかった、もっとも美しい牝の顔だけを持ち帰って大切にしている。いまでもときどき訪ねて来ては、こうして踊って帰っていく・・」

 濡れていた。加奈江はとっくに濡らしていた。

 喘ぎ・・呻き・・よがり悶え・・裸身をまたたく間に汗だくにしながら踊り狂うマゾ牝、久利。方々からヤブ蚊に責められ、動きを止めるわけにはいかなかった。
「よし、乳を揉みしだけ」
 大きく何度もうなずいて、両手で乳房を揉み上げる久利。脚を開いてバランスを取りながら、しかしときどき内腿をぴったりつけてこすり合わせる。クリトリスが刺激されて感じるからだ。もっと感じたいのに主は性器を嬲ることを許さなかった。
 踊るというより飛び跳ねる・・左へ一歩、右へ一歩、素早く回ってくねくね踊る。
そうしなければヤブ蚊はますます増えていく。
 ものの五分で球の汗・・。
「よし嬲れ」
 何度もうなずく黒い頭。片手で乳房を揉みしだき、いよいよ片手がデルタの底へと忍び込み、そうなるともうガニ股となってしまい、狂った手指に犯される。

「あぅ! んっんっ・・ぅく・・ぅく・・うくーっ!」
 言葉を封じられているからだろう。ぅく、ぅく・・それはイクイクという言葉。
 加奈江はパンティを透かすほど濡れ出す自分の性器を感じていた。
 立ったまま果てていながら倒れることを許されない。倒れて動きが止まったとたんヤブ蚊どもにボロボロにされてしまう。
 全身が痙攣している。乳房も・・腹も・・たぷたぷ揺れる太腿も・・真っ白な尻肉もぶるぶる震えて痙攣している。
「よし、探れ」
 待ちに待った主の声らしく、久利は透き通った流れに飛び込むと、体に水をかけて汗を流す。流れは浅い。
 汗の匂いが薄らいで肌が冷えればヤブ蚊はいっとき遠のいてくれるもの。流れの中にしゃがみ込んで、水に両手を突っ込んで底をまさぐる久利。
 あった! それは茄子のような形をしたすべやかな石。
 久利はそれを主に見せると、ふたたび向こう側の岸に上がって、がに股に腿を開く。断面の丸い太い石が、いともたやすく膣に没した。

「はうぅーっ! ああぁーン!」

 腰を使いながら右手に握った石のディルドを突き込む久利。牝らしい声が竹林に吸われて消えていく。
 うくーっ、うくぅーっ・・イクイクと限界を告げる首なし女。それでも倒れるわけにはいかなかった。乳房をバウンドさせて踊りながら、尻を振ってもがく久利。
 加奈江は涙をこらえていた。変態的な光景だったが、心の中にあるものは羨望・・ああして果てていければ幸せだろうと考える。

「キィィーッ! ぁキィィーッ!」

 金属的な悲鳴に変わり、腰の動きが止まったとき・・。
「よし流せ」
 ズボリと抜き取られた石のペニス。久利は流れに崩れるように踏み込むと、裸身を横たえて汗と愛液を流しきる。
 朦朧としているのだろう。ふらふらになって流れを去り、主の元へと歩み寄る久利。謙傲は両手をひろげ、久利は声もなくしなだれ崩れて主の腕に抱かれていた。謙傲は体にローブを掛けてやり、黒い頭ごとすっぽりと抱きくるむ。
「ご主人様・・ああ、ご主人様・・」
「うむ、よくやったぞ、気持ちいいな?」
「はい溶けそう・・あぁ溶けそう・・」

 口惜しい・・快楽の沼に沈んだような首なし女。
 どうして私にはそんな快楽がやってこないのか・・口惜しさだけが加奈江にあった。寄り添って主に抱きかかえられるように歩く久利が羨ましい。黒い頭をすりつけて甘えている。
 家に戻って、久利だけが板の間に倒れ込み、そばに座って膝枕をしてやりながら謙傲は言う。
「原稿はそこにある。しかし加奈江」
「は、はい・・」
 加奈江・・呼び捨てにされたとき、加奈江はいきなり襲いかかる寒気を抑えることができなくなった。
「まだちょっと早いが、よければ久利と飯でもどうだね。そうだな久利?」
 時刻はまだ四時前だった。
「はい・・ぜひご一緒に」
 主の膝で顔を向けた久利。マスクを取れば笑っているだろうと思える口調。

 加奈江は断れない。
「はい、ご迷惑でなければ・・ありがとうございます」
 そのとき久利が言うのだった。
「先にお風呂にしますね、濡らしておいででしょうから」
 カーッと燃え上がる羞恥。パンティを素通しにする粘液を早くどうにかしたかった。
 謙傲が意地悪く微笑んで言う。
「だそうですよ。濡らしておいでか?」
 加奈江は唇を噛んでうつむきながら言った。
「はい、すごく・・久利さんが羨ましくて・・」
 謙傲は真顔でしばし見つめると破顔してうなずいた。
「では支度をさせましょう」
 久利は言われる前に主の膝を離れて立って、奥へと消えていく。
 謙傲が言う。
「女は女体の上に首がつくから苦しいもの」
「・・はい」
「気に入りましたよ、加奈江のこと」
 誰に何を言われるよりも震えるほど嬉しかった。

 この人だと心に決めた。
 加奈江は用意された原稿をショルダーバッグにしまうと、手伝いますと言ってその場を離れた。一緒にいると、いますぐ責めて欲しくなる。
 裏へ回ると、土間にある薪を使う古い廚とは別に台所が造られていて、その横から外に出ると風呂の小屋が建っていた。久利は風呂の焚き口に火を入れて戻ったところ。黒いマスクもローブも脱いで、あたりまえの女の姿に戻っていた。
「楽しんでいただけましたでしょうか?」
 加奈江は、違う、そうじゃないと首を振り、はにかむような上目づかいで言うのだった。
「もうべちょべちょ・・困ったわ」
 久利はちょっとうなずくと、すっと歩み寄って加奈江の頬にキスをした。

「ご主人様のおそばへ来て五年になります」
「ええ」
「ご主人様のお書きになるご本が好きで読み耽っていたんです。どうしてもお会いしたくなり、出版社に無理を言って合わせてもらった。だけどそのとき首のないお人形は三体だけ。決まった愛奴さんもいなかった」
「それは私も。中学の頃に読んだ宇宙エッチに笑い転げて、でもいつの間にか感動していた・・」
 久利はうなずく。
「私は失踪した身」
「失踪・・」
「悲しいことがありすぎました。もう嫌・・たまらない。それでね、私が来てからなんですよ、お人形が増えだしたのは。人伝に聞いて・・あるいは私と同じように出版社に掛け合う人も多いようで。それまでご主人様は受け付けなかったものなんですが」
 謙傲の本を出している出版社は、かつては他にもあって、この久利もルート違いでこの家にたどり着いたようだった。

「じつは私・・もうすぐここを出るんです」
「え・・」
「こんな私でもいいと言ってくださる方がいて、その方のおそばへ行くの」
「結婚?」
「そうです。ご主人様は、そのために私をそばにおいたと言ってくださって・・ほんとの父より父のようで・・」
 女の人生を変えてくれる謙傲。やっぱりそうだ、物語に描かれる情愛を持った人。加奈江は心が騒いでいた。

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