2016年11月16日

三人姉妹(三話)


三 話


 この子は実の姉をどうするつもりだろうと、早苗は怖くなる思いがした。
 妹二人に組み伏せられて全裸に剥かれた亜希子は、睡眠薬の朦朧もあるのだろうが、逆らって暴れるでもなく、まるで子供が得体の知れないものを怖がるように、両手で乳房を抱いて震えていた。恐怖のあまり顔色が白くなっている。

 ちょっとヘンだと早苗は思う。日頃あれほど強い態度をみせる姉が、裸にされたとたん萎縮してしまっている。いつだったかアメリカの大学で行われた実験を思い出す。心理学的にどう言うのか詳しいことは覚えていなかったが・・そうだ身体境界・・皮膚境界とも言うらしいが、性的に満たされない女ほど裸にされることを怖がるのだと言う。
 そういうことかも知れないと、異常なほど怖がる亜希子を見ていて、日頃の姿がいかに殻に覆われたものだったかを思い知らされた気分だった。

 全裸にされた亜希子は美しかった。肌が白い。Cサイズの乳房は形よく張って、ほどよくくびれ、性のニュアンスに満ちた尻へと美しいウエーブを描いている。デルタの飾り毛も手入れされているようで、慎ましやかに女体を彩る。
 亜希子は潔癖症とまでは言えないだろうが考え方が完全主義で、その分女性はこうあるべきだという理想を抱えて生きている。それを妹たちにも押しつけるところが嫌味。自分の立つ位置まで引き上げてやりたいという思いなのかも知れないが、とりわけ二つ下で実の妹の希代美に対して厳しかった。
 そうした抑圧への反動が希代美を魔女に変えている。限度を超えさせるわけにはいかないが、こういうとき少しは合わせてやらないと女はかえってヒステリックになるものだし、こうなってしまっては共犯だという思いもあった。

 しかし妹二人は性的に虐待する道具のようなものは持ち込んでいなかった。 SM・・姉を性奴隷にするつもりはない。いいや、そんなつもりじゃなかったと言うべきだろうが、希代美は明らかに性的に興奮していた。おとなしいうじうじタイプだったから、鬱積したものが噴火のように衝き上げる。
 たまたまそこに巻いてあった使い古された細いロープ。後ろ手に手首を縛り、その縄尻を尻の谷をくぐらせて前へと引き上げる。二重にした縄が性裂に食い込んで、亜希子をますます追い詰めていく。
 顔色がなくなって全身に脂汗・・全身に鳥肌がぷつぷつと・・綺麗な乳房の先では乳首がしこって勃っていた。
「さあいいわ、外へ出なさい! 父さんの仕事場を見に行くの!」
 激しい羞恥と恐怖の両方が睡眠薬の効果を超えた。亜希子はがたがた震えながらも立てるようになっている。
「嫌よ・・ねえ希代美、ごめん・・謝るからひどいことしないで・・ごめんなさい」

 ああ可哀想・・女はこうも変わるものかと早苗は思った。
 しかし希代美は勝ち誇ったように君臨する。
 ロープを引くと性器に食い込み、デルタを突き出して歩くようになる。
「ほうら、こうしてあげる、感じるでしょ! あははは! 真っ昼間の全裸露出よ。上に行って濡らしていたら許さないからね! さあ出なさい! 歩くの!」
「嫌よーっ、嫌ぁぁーっ!」
「うるさい! 騒ぐと目立つよ! こうしてやる!」
 道に面した玄関先ではなく仕事場へと通じる裏口まで、希代美は縄を引いて素っ裸の亜希子を引きずり降ろし、そのとき柱に渡した針金に干してあったタオルをとめる青い洗濯バサミを毟り取ると、揺れる乳房の先で尖る二つの乳首を無造作につぶしていく。
「あっ・・あっあっ・・痛いぃ」

 そのときだった・・亜希子は唇を噛んで目を閉じて、痛みを楽しむような熱い息へと変化する。一瞬のことだったが早苗はそれを見逃さなかった。
「諦めな! 言うことをきかないと体中傷だらけにしてやるよ! そこらの枝で鞭打ちだからね! おまえなんか奴隷なんだよ! 泣いたって許さないから!」
 
 早苗は後ろから姉の綺麗な尻を手先で撫でた。
「ですってよ。おとなしくしたほうがいいわ。上で父さんが創ったものを見て来よう、いろいろあるから。父さんを馬鹿にして妹をひどく言い、私のことだって姉妹だなんて思っていない。私たちは妹なのよ。私たちの前でいっぺん壊れたほうがいいんだから」
 亜希子は可哀想な姉を後ろから抱いてやり、きっと痛い洗濯ばさみを外してやると、乳房を揉んで、少しつぶれた乳首の丸みを戻すようにコネてやる。
「ン・・ぁぅ・・ンふ」
 声が甘い。
「ふふふ・・感じるみたいね。おとなしくしてないと泣きわめくことになるからね」
 この状況で、亜希子にすれば、穏やかに話してくれる早苗にすがる思いだったのだろう。
 おとなしくなって、希代美に縄で引かれるまま、鬱蒼と茂る森へ出る。
「早く歩かないと蚊に刺されてぼろぼろよ」
 早苗はすぐ前を歩く白い姉の尻を撫でながら、その先にいてほくそ笑む希代美と目を合わせて微笑んだ。
 希代美が言った。
「おとなしくなったじゃない、それでいいのよ、さあ行くよ」

 引かれる縄が毛のデルタを分断して性器に食い込み、亜希子はますます熱い息を吐いている。
 重かったんだと早苗は感じた。姉は賢い。自分の性格の嫌なところを姉はもちろんわかっている。
 前を行く希代美が言った。
「ほらほら、もっと早く、おっぱい揺らして歩きなさい。ふふふ・・いい気味だわ」 希代美の引き手も力が抜けた。そうひどいことはさせたくない。姉妹に溝ができてしまう。早苗は姉を守ろうと考えていた。
 家の裏口から人一人が歩ける道筋がついている。坂はそれほどキツくなく、道筋は草が払われていて林床の土がむき出し。希代美と早苗はスニーカー。全裸の亜希子にもスニーカーだけは履かせてあった。
 傾斜がキツくなるところで道筋は右へ左へ折れ曲がり、振り向いても家が見えなくなる。怖いほどに茂る夏の森。前を行く希代美は左手に縄を持ち、右手には家にあった木の棒を持って足下を探りながら歩いている。蛇は怖い。

 距離にすれば遠くはなかった。山がそこだけ拓かれて、煉瓦で組んだ頭の丸い窯が見え、その奥に小さな小屋が建っている。小屋も古い。そこはかつて山に暮らした樵たちが休む場所として造られた。国産材が売れなくなって打ち捨てられていたものを宗太郎が手直しして使っている。小屋の奥は杉の林。
 窯の焚き口がススで黒くなっていて中には薪の燃え残り。さすがにここには電気はなく、大きな灯油ランプが置かれてあった。小屋のすぐ裏手には自然のままの湧き水があって、そこから樋で水を引き、大きな壺に透き通った水が満たされる。野鳥が濃い。小鳥の声がそこらじゅうから聞こえてくる。すがすがしい森の微風。
 窯のそばへと歩み寄ると、森が拓かれて空を覆う枝葉がなくなり、日溜まりのようになっている。時刻は五時過ぎだっただろうが夏の森は明るかった。
 素っ裸の亜希子はすっかりおとなしくなっていて、素直に脚を運んでいた。
 殻が割れた・・締め付けていた重圧から解放された女の姿だと早苗は思う。
 けれども希代美の残酷は失せていない。二十五歳の若い怖さが希代美を突き動かしているようだった。

 ガタつく板戸を開けて小屋へと入る。入ってすぐ、置いてあった殺虫剤を噴霧して蚊取り線香に火をつける。ヤブ蚊が多く、そうしないと蚊取り線香が効きだす前に刺されてしまう。
 小屋は、足踏み式のろくろが据えられた少しの土間と、四畳半ほどの板の間でできていて、泊まれるように布団が一組きっちりたたんで置いてある。土間の壁と狭い部屋の一面に分厚い板で棚が造られ、上薬をかけて焼き上がった器と、焼く前の粘土のままの器がいくつも並ぶ。
 小屋に入って、希代美は、後ろ手に縛った縄尻を天井の梁を通して引き上げて、そうすると亜希子は両手を背に引き上げられて立ったまま、前屈みに乳房を垂らしているしかない。
 そうやって裸の姉を動けなくし、希代美ははじめて見る父親の仕事を見渡した。

「へええ・・これを父さんが創ったんだ・・」
「そうよ。父さんなりに一生懸命。やっとちょっと認められるようになって、それでたびたび京都へ出かける。師匠のような人もできたんだって」
「ふーん・・凄いよコレなんか・・綺麗・・」
 早苗は嬉しい。
 希代美が見つめるのは、大きな巻き貝の口を上に向けたような花器だった。茶の湯の茶碗もあれば皿もある。一つとして同じ物のない手作り。不揃いだったが、それが陶芸の魅力でもある。

 しかし希代美の本意はそこにはなかった。
「さて・・」 と言って、横目に早苗をにやりと見つめる。
「この女よ・・どうしてやろうか・・ふっふっふ・・許さないから」
 狭い小屋の中。全裸で後ろ手に吊られた姉に歩み寄り、いきなり乳房を握りつぶしながら尻を撫でる希代美。右手が無造作に尻の谷底へと差し込まれていく。亜希子はとっさに尻を締めたが、パシと叩かれて力を抜いた。
「やっぱりね・・濡らしちゃってべちょべちょ・・ふんっ、すました顔して、これがこいつの本性よ。ほらもっと脚を開きな! 可愛がって欲しいんだろ!」
 亜希子は泣いてしまっていた。小屋に入ってますます恐怖が増したのか、総身震えて泣いている。
 後ろから性器をまさぐる妹の手・・亜希子は脚を開いて尻を突き出し、愛撫をせがむ姿をしている。クチュクチュいやらしい濡れ音が尻の底からしはじめた。
「ね、この通りよ」
「濡らしてるね・・じつはエッチな女だった?」
「欲求不満だわ。彼ができてもすぐおしまい。そりゃそうでしょ、性格最悪、口うるさいし、こんな女に惚れる男なんていないわよ。おいおまえ、ちょっとはわかったか! 彼はね、おまえなんか嫌だからあたしを口説いてきたんじゃない。なのに何よ、泥棒猫ってどういう意味! ふざけるな馬鹿女!

 まずい・・怒りがエスカレートしてきている。
 とは思うのだったが、早苗も腹に据えかねていた。父の作品を見るにつけ、道楽だの無能だのと蔑む姉が許せなくなってくる。
 と、希代美が置いてあった小枝を手にした。
「お尻がぼろぼろになるまで叩いてあげようか! 謝りなっ! アタマきてるんだよ、ずっとずっと! あたしら二人とも、おまえの子分じゃないんだから!」
 危ういと早苗は思う。体に傷ができるようなことはさせたくない。
「待って希代美、それよりもっと恐ろしい目に遭わせてやろうよ。体じゃなくて心が壊れるようなこと・・ふふふ」
「いいけど、どうするの?」
 楽しそうに、希代美の眸が煌めいている。
 早苗は後ろ手に吊られて長い髪を垂らす姉に歩み寄り、そっと顔を上げさせて、ほんの軽く頬を叩いた。
「わかってるもんね? 私たちに心から謝ることと、いままでのお仕置きだってこと。わかってるはずよ。姉さんは厳しすぎ。気持ちに余裕がまるでない。姉さん自身がそれで苦しんだはずでしょう? わかってるもんね?」

 亜希子は涙目でこくりを首を折る。
「ごめんなさい早苗・・希代美もごめん・・ほんとにごめん」
 早苗はそんな姉の頭を抱いてやり、体を撫で回しながら希代美に言う。
「こういうのはどう? 三日泊まるでしょ」
「うん?」
「三日間ここに独りぽっち・・日に一度ご飯の時だけ運んであげる・・夜になれば明かりはない・・真っ暗だし・・」
 希代美が面白がって言う。
「それいいかも! あははは! 怖いわよー。ここらには熊もいる、毒蛇だっているそうだし、明かりのない闇の中で幽霊だって寄ってくる・・落ち武者たちが裸の女を求めて群がる! ふふふ、それでなくても夜の森は漆黒の闇・・」
 声を上げて亜希子は泣いた。どんなことをされたって妹たちといるほうがやさしい責め。もっとも恐れる仕打ちだった。
「あたし・・あたし・・」
「何?」 と、早苗が顔を上げさせる。ぽろぽろ涙がこぼれている。
「ちゃんとしよう・・いい女でいようと思えば思うほど独りになってく・・寂しいのは嫌・・怖いの・・ねえお願い、どんなことでもしますから独りにするのだけは許してちょうだい・・お願いよー・・ぅぅぅーっ」

「おまえはいいんだよ! 好きにすればいいじゃんか! だけどね、それを押しつけられるこっちの身にもなってみな! ああムカつく! よく言えるわ、そんなこと!」
 早苗もそれには同調した。同調しなければ妹は暴走すると考えた。
「・・ほんとよ、よく言えるわ。姉さんは出来過ぎなのよ、何でもカンペキ。だけどね、他人がそうじゃないからって見下すことは許せない」
「ごめんなさい、きっと気をつけるから・・ごめんね二人とも」
 希代美がつかみかからん勢い。早苗は怒鳴った。
「二人ともって、そこが違う! 父さんだってそうだし、あたしのママのことだって内心よくは思っていない! 希代美のことだってそうじゃない! 事あるごとにチクチクと! もう嫌よ、いいかげんにしてちょうだい! お仕置きだからね!」
 そう言ってちょっと強く頬を叩く。
 希代美は黙ってそれを見ていた。姉の剣幕に驚いたのか、逆に静まっていたようだ。

 ここらの山は冬には雪深い。小屋は古くても立ち柱は太く、女が暴れたぐらいではびくともしない。
 土間から部屋への上がり框にある四角い柱を背抱きにさせて後ろ手に縛り上げ、ワラでできた古いムシロを敷いて座らせる。そしてその傍らにプラスチックの青いバケツと、ラーメンの器のような深い皿に水を満たして置いておく。
 希代美が笑う。
「トイレはバケツよ、垂れ流していればいい! ああ臭い! あははは!」
 水は飲み水。これだけあれば一晩は大丈夫だと早苗が置いた。
 全裸の亜希子を見下ろして、早苗が言った。
「よく聞いて。外で気配がしたら動いちゃだめよ、動物は気配で来るんだから」
 希代美がほくそ笑んで言う。
「毒蛇でも入ってきたらなおさらよ。体を這い回っても動いちゃダメ。噛まれたらおしまいですからね。ふふふ・・ざまぁないわ! きゃはははっ!」

「嫌ーっ! 怖いのーっ! ねえ怖いぃーっ! 奴隷になるから、それだけは許してぇーっ!」

 板戸を閉ざした小屋の中から声が響く。外は斜陽。じきに闇がやってくる。
「思い知るがいい・・傲慢な・・許せない・・」
 あえてつぶやく早苗に、希代美は興奮しきって抱きついた。

 姉はマゾ? 激しい性を求めていると早苗は感じ、可哀想な声を聞きながら坂を下った。

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