2016年12月03日

FEMDOM 花時計(十二話)


十二話

 マゾヒズムって何? サディズムって何? 激情に衝かれるまま残酷になれてしまう私って異常なのかしら?
 そういう世界を考えたこともなかった私が、いきなり男を飼うなんてことをした。これほどの暴挙はないと思うのですが、と言って、そんなことをあの人に訊くなんて、きっと愚問にしかならないのでしょうね。
 わかっていても・・それは彼が性癖を告白してくれたから、私も言いやすくなったということなのでしょうが、自分の中だけでは処理しきれない想いがあった。

「じつは私ね」
「うん?」
「突然・・ほんとに突然、降って湧いたようにSM的なことを知る機会がありまして」
「うん?」
「二十歳の男の子なんですが、きっと可愛いと思っていながら、信じられないくらいひどいことをしてしまう。そんな自分が怖くなりますし、その子の私への想いにしても冗談ではないだけに怖いというのか」
「なるほど。で、奴隷クンは何て?」
「捧げる・・慕う・・そんなふうに言うから」
 なぜかこのとき、愛してるという言葉をはしょってしまった私です。館脇さんが遠くへ行ってしまう気がしたから。きっとそうだわ。これほどの男性はそうはいない。水商売の中で男を見抜く目はできていた。

 そしたら彼ね、リビングの棚に置かれた大きな額をちらりと見て、微笑む奥様・・彼にとっての女王様に笑うんです。
 いいなぁ。いい感じ。ものすごくやさしい空気が漂っているんです。他の女の前で隠さない、むしろ誇れる。それこそ愛だって思います。
「まあ互いに探り合っていくしかないものですよ」
「そうですね」
「人のことはともかくも、僕の場合は」
「はい?」
「喜びでした」
「喜び?」
「そうです、喜びなんですよ。マゾというと、見返りを求めない愛だとか、自己犠牲・・人によっては宗教的なものを思うかも知れないが、そんなややこしいことじゃないんです。心をそっくり預けておきたいような、ただまっすぐ女王様だけを見つめていて何者も入り込む余地のない、神にかけてそうだと思える真実というのでしょうか。生きる軸。うむ・・こういうことはうまく言えないし、リクツにしようとすることが間違ってる。SMの成分分析など、してみたって意味のないことだから」
「そうね、それはそう」
「僕の場合は女王様は女神様。一心に見つめるだけの存在で、それが僕の喜びだったし、すべてだった」
「素敵な言葉。でも・・」
「うん? でも?」
「奴隷を飼ってる女はお嫌?」

 私のことを素直に見つめて、眉を上げてちょっと笑い、それから彼がどう言うか・・私は少し怖くなる。

「いいえ、とんでもない。いまがあって明日につながり、明日が連なって歴史になる」
「いまがなければ明日はない?」
「そうではなくて、明日のためにいまをつくっていきたいなと思うだけ。もしもパラシュートが開かないことを思ったら、愛は決して進まないものですから」
 パラシュート・・それは逃げ?
「うん、そうですね・・いま少し、ちゃっかり女になってましたわ」
 私は今日、あのとき彼が言ったその意味を確かめようとしていたのかも知れません。『行為では違うが、心はMでいたいと思う』・・いまの私にとっては、とても及ばない高みにある言葉。

 ソファに深く座る彼の逞しい太腿に、なぜか目がいって動かせません。ドキドキ・・心臓が高鳴っているんです。
 甘えたい。大きなこの人に甘えてみたい。私は寄り添うように体を傾け、腰に手を回して抱きつきながら、頬を腿に載せたのでした。強い筋肉の動きまでが伝わるような山男の体です。
 ズボンの前に頬を擦りつけ、萎えた彼の感触を感じたとき、私は彼のおなかに向き直ってはっきり性欲を表現し、ズボンを開けて彼を外へ連れ出して、大きな亀頭をほおばっていたんです。


 ああ凄い、狂っちゃう。
 いつから私は淫乱になってしまったの?
 写真になった彼にとっての女王様に笑われながら、ソファの前のカーペットのフロアで、アクメに悶えていたんです。急上昇した性のカーブが下り坂になって、乱れた息が静まってきた頃でした。
 彼が・・横倒れの私の後ろから、お尻越しに濡れたアソコを舐めてくれた。
 ひどく大切なものを扱うような・・それはまさにご奉仕でした。お尻の穴までまわった濡れをそっと舐め取ってくれるんです。

「ぁああーっ!」
 棒と穴の関係とは次元の違うピークが来たわ。意識が甘く消えていった。

 それから・・互いの歳も考えない恋人ごっこのような時が過ぎ、その夜もちろん泊まった私は、逞しい体に抱かれていながら涙が止まらなくなっていた。
 女が独りで生きてきたこと。意識なんてしてなくて、お店もやって普通に過ごした時間なのに、じつは壊れる寸前まで私を追いつめていたんだと思い知らされていたのよね。
「辛かったね・・うんうん・・」
 少女みたいに背中をぽんぽんされて抱かれていながら、恥ずかしいほど泣いてしまった。

 翌日、彼のクルマで富士山麓のカーブを走り、渋滞にハマってしまって遅くなった私は、マンションのそばまで来てもらい、そこで別れた。
 お弁当。ウナギにした。特上を作ってもらった。あの子に食べさせてやりたくてたまらないのよ。

「寂しかったね、頑張ったね」
「はい、お母様・・ぅぅぅ・・」
「ふふふ、また泣く・・可愛いのよ、泣きべそのこと」
 抱いて抱いて、抱き締めてやりました。
 あの子ったら手づかみでお弁当をがつがつ食べて、拘束をすべて外してお風呂に連れ込み・・。
「おいで、一緒に入ろ。ご褒美よ」
「はい」
 ところが、泣きべそ・・あまり嬉しそうにしていない。
 いい人ができて、だからやさしくしてくれて・・捨てられる。
 と、そう思ったに違いないんです。わかりやすい子なんだもん。

 バスタブで抱かれながら悲しそうな目をするわ。

「嬉しそうじゃないわね?」
 上目がちに泣きそうな目をしてる・・あははは!
「もうお母様はやめましょう、あの女のことは忘れることにする」
「はぃ」
 消えそうな声なんです。
「女王様に戻します。躾ていくわよ、本気だからね!」
「はぃ」
「おい泣きべそ! おしっこ!」
「ぁ?」
「ふふふ・・あははは! そこへ寝なさい、おしっこしたいの!」

「はい女王様・・ぅぅぅ・・」
 ほっとしたような泣き声。
「あー、可愛い、たまらない子ね」

 にわか女王の鎧のようなものが脱げていた。泣きべそだって泣きべそなりの「きっぱり男」なんだと思い、私だけがちゃっかり迷っていたわけですね。
 この数日でお尻の傷はかなりよくなって、元気な勃起が戻ってきている。シャワーの下で後ろから抱いてやり、爆発しそうなペニスをしごいてやったわ。
「ぁぁん女王様ぁ・・ぁぁん・・」
「そんなにいい?」
「ああ出ます・・ああダメぇ、出ちゃいます」
「ふふふ・・いいわよイキなさい。もうね、堅苦しく何かを決めるのはやめたのよ。気分次第。おまえは黙って委ねていなさい」
 こくりとうなずく泣きべそ。そして・・。

「もうダメですぅ・・うっ、うーっ!」
 脇越しに見ていたペニスが亀頭をさらにふくらませた瞬間、若く白い迸りが飛び散りました。

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