2016年12月03日

FEMDOM 花時計(十三話)


十三話


 それからの一週間、心の凪いだ日々が続いていました。館脇さんとの出会いが、幸せではなかった結婚生活の残滓のようなものを洗い流してくれたのです。
 彼はお店に来てはくれません。それでいいと思っています。
 帰りがけにタクシーで向かい、少しでも顔を見る、それだけで充分だった。彼も私も大人ですから時間を貪るようなことはしたくない。お酒を一切やらない彼が飲み屋に来ないのは自然なことですし、他のお客さんの目もあって、むしろ気が楽なんです。

 泣きべそに対しても、私の側に妙なゆとりが生まれていて、考える時間を与えていたんです。私が家にいるときは拘束は一切なし。私のパンティやスカートなんかを、着せ替え人形で遊ぶように着させて笑っていたわ。
 お尻の鞭傷が綺麗になるまで。姉への憎しみを泣きべそに叩きつけていた感覚をリセットしたかったのだと思います。自然体の私のまま、性癖としての調教がしたかった。ただそれだけ。だからね、泣きべそにもそのつもりでいて欲しい。
 目を盗んでパンティで遊んだ非礼なんて、もうどうでもよかったの。はじめからたいしたことではなかったし、あの子にもリセットするチャンスをあげたくて。

 互いに明日がお休みの金曜日の夜、館脇さんとのいい関係を少しだけ前に進め、土日は泣きべそと一緒と決めていた。お尻の傷もよくなって、リセットして向き合える条件が整っていたんです。
 館脇さんとは男と女・・それは泣きべそ相手でも同じことで、私にとってはやっぱり男と女なんですね。
 息の詰まる奴隷部屋から連れ出して、そのときは拘束具をさせたまま、リビングのソファのところで向き合っていた。手枷で後ろ手にさせた泣きべそは正座をしていて、その腿に私は素足を載せていた。透明なペニスカバーに可哀想な欲望が閉じこめられているのを、なぜか新鮮な想いで見ていたわ。

「私に仕えることは悦びなんでしょうけれど、おまえを悦ばせるために私がいるんじゃないからね。見定めると怖い女よ。私を喜ばせるためにおまえはいるの。気分次第でしたいことをする。それが私」
「はい、女王様」
「女王様か・・それでもそう呼ぶのかな。お尻も治って、せっかくリセットできたのに。それにしても、ちょっと疲れちゃった。今日はダメ、少し寝たい」
 それで私、気まぐれにもほどがあり、泣きべその拘束をすべて外してやったのでした。貞操帯まですべてです。
「シャワーしといで」
「はい」
「済んだらお部屋にいらっしゃい。私の寝室」

 私が先にベッドにいて、素っ裸の泣きべそがやってきました。
 毛布をめくってやって、視線で居場所を教えます。私の横へ。
 緊張した様子で隣りに寝た泣きべそを、押し倒して抱いてやる。そのとき私までが全裸だったことに、あの子はグピって喉を鳴らした。ほんと可愛い。
「抱き枕ね・・ふふん、少し寝ましょ」
 後ろを向かせて抱いてやり、種馬みたいにおっ勃てるペニスを握ってやったわ。亀頭を揉むようにして握ってやったの。
「ぅふ・・ぁは・・」
 感じ入る泣きべそのお尻が蠢き、それがおなかにあたって心地よかった。

「おまえの好きにはしてあげない。だけどそれは悪いことばかりじゃないのよ。こうして抱いて寝てもらえるときもある」
「はい、嬉しいです」
「少し寝なさい、女王と一緒のベッドなんて滅多にないことだわ。ずっとつながれてて疲れてるでしょ」
 喋っているうち私は寝てしまったの。なんだかね、徹夜のあくる日みたいに沈むように眠っていけた。

 ベタ凪のようなこの時間は、水面だけが静かでも、すぐ下では流れが逆巻き、紀代美という女の組成を組み替える作業をしていた気がするの。私には残酷で満たされるところが確かにあって、でもそれと、館脇さんに対するものとは違うのです。いらなくなった過去のことも組成から排除しなければなりません。

 サナギか・・うふふ、そうねサナギよ。
 面白くないイモ虫の暮らしから、羽を持って飛べる私へ。静かな殻の内側ではもの凄い変化があって、それに疲れていたのでしょう。体の疲れではないこの怠さは、心の分子を組み替える作業の反動なんだと思います。

 私もうじき三十七よ。女盛りなのでしょうが、それからこそ花時計はくるくる回る。若いという曖昧を、円熟の先にある輪郭のある心へと変えていかなければならないの。
 夢を見たわ。あの花時計の鬼薔薇が、いよいよ勢いを増して猖獗しだす。触手をのばし、根付く土を探しあてて新しい株をつくり、そうやってどんどんはびこっていくのです。

 その鬼薔薇の群生は、館脇さんと泣きべその二人の男を取り込んで、血の色に咲く花を愛液に濡らしているんです。

「・・ぅぅん」
「お目覚めですか?」
「何時なの?」
「はい、もうすぐ七時になります」
「七時? え? 七時って・・」
「夜の七時です」
「ふ・・あははは! 何てこった、あははは!」
 お昼過ぎに横になって六時間以上も眠ってしまった。泣きべそが眠れたのかどうなのか。もしかしたら、すっぴんの寝顔をずっと見られていたのかも知れません。
 距離は怖いわ・・キスの距離だと衰えがごまかせない。

「おまえ、寝乱れる私を見てたでしょう?」
「はい。少しは寝ましたが」
「シワだらけのババアだと思ったな?」
「いいえ、そんな・・まさか」
「どう思った?」
「素敵だなぁって・・可愛いなぁって・・」
「可愛い? あははは! ほんと可愛いこと言うよね、あははは、たまらない、この私が可愛い? あははは!」

 ナヨナヨでも男の泣きべそを組み伏せて、女体ごと浴びせていって、唇をひったくり、体中にキスをして・・そして怒り狂う若いペニスを口にしてやったのです。
「ああ、そんなぁ・・嬉しいですぅ・・」
 張り詰める亀頭を舐め回し、ほおばって、ングング×十回ほどでイッてしまう。卵の白身のような実体のある塊が私の中にぶちまけられて、それを私は口移しで飲ませてやった。若い若い匂いの強い精液を。そしたら泣きべそ、感激の極みらしくてポロポロ泣いているんです。

 起き出して、寝室を出て、それからは母と子のような時間が続いた。柔和な夜・・そんな表現がぴったりだったことでしょう。
 夕食を済ませ、部屋着だけを着た私は、脚を開いてソファに沈み、拘束具を許したままの泣きべそにアソコを舐めさせていたのです。
 波形の穏やかな快感がずっと私を濡らしていたわ。

 そしたら、ある一瞬・・クリトリスを吸われてビクリとしたとき、何かが弾けたように心の所在が変化した。
「どうせ今夜は眠れないわ。リセットしたおまえを今度こそ奴隷にしようかしら」
「はいっ女王様!」
 ゾクゾク腰が痺れるような不思議な震えに襲われて、それでソファを離れたのです。
     

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