2016年11月14日

螺旋の舌(終話)

終 話


 いま七十歳の父も二十五年前には四十五歳。男盛りだったでしょうし、外に女の人の一人くらいはいたっていい。いまにして思えばそうだとしても父に妙な素振りは見られなかった。小娘だった私が見抜けなかっただけかもしれませんが、母とだって仲が良く、私にだけ可愛さあまって厳しすぎ。
 あのとき私は、実の娘の血まみれの性器を呆けたように舐める父に、軽蔑どころかたまらない可愛さを覚えたもの。『なあんだ、こんな人だったのか・・変態チックな性癖に苦しんできたんだわ』・・こんなことは誰にも言えない。父を守ってあげなくちゃ。
 波濤となって押し寄せる快楽に錯乱する意識の中で、私は性器を晒して父の愛撫を受け入れて、この人の娘でよかったと思ったもの。
 忘れられない性の衝撃が、頑なだったその頃の私の心を溶かしていた。

 そんなことがあってから、そう言えば一度だけ、私は父に全裸を見られたことがある。ママが体調を崩したとき静養をかねて行った家族旅行。ママは温泉を楽しんで部屋で休んでいたんです。夜でした。小さな旅館。いくつかある家族風呂が空いて父が先に入っていた。そのときの私は十八だったか・・高校を出た頃だったから。父はお風呂に入ると鼻歌を歌う癖があり、湯屋の外まで聞こえていました。
「父さんでしょ? 一人なの?」
「もちろん一人さ、貸し切りだ」
 湯屋の板戸を開けて私が入り、脱衣に立って脱いでいると声がした。
「流美、おまえ・・」
「一緒にいいでしょ、親子じゃない」
「それはまあ・・かまわんが・・」
 父は照れている。十五だった私じゃない。乳房も膨らみ女のヌードになっている。私は父に見て欲しかった。三年前、あなたに性器を舐められた娘です、こんなに女になりました・・って。

 ファザコンとは違う気がする・・でもファザコン?

 おかしなことを考えながらガラスの引き戸を開けて入っていった。狭い湯殿。父はそっぽを向いて困っている。笑っちゃうほど可愛い父・・いいえ、大切な男性だったのです。
「父さん見て、これが私よ、父さんに育てられた娘です」
 岩風呂の外に全裸で立った私。陰毛さえも隠していない。父はしばらく振り向こうともせず、でもそのうち、ちょっと怒ったような面色で振り向いてくれたっけ。
 恥ずかしかった。濡れはじめる予感がした。
「どうしたんだ急に?」
「いいから考えないで。女に育った私を見て欲しかったの。どう私? 女らしくなったでしょ?」
 わざとらしい咳払いで・・。
「まあ・・うむ」
「綺麗?」
「ああ綺麗だ、これからもっと綺麗になるし・・うん・・これからもっと色っぽくなっていく」
「抱きたいくらい?」
「馬鹿言え・・」
「ねえ応えて。抱きたいぐらいの娘かしら?」

 父は黙ってうなずき、その目に見る間に涙があふれてきていた。私は愛されていると実感できた。
 それで私は父のそばでお湯に沈み、後ろからそっと父を抱いたわ。心の中で『あのときみたいに舐めていいのよ』って思いながら。
 もちろん父との性的な接点はあのとき一度。普段の父は相変わらず口うるさくて、娘に好かれるタイプの親父殿ではありません。
「流そうか背中?」
「そうだな・・一度くらいこんなことがあってもいいだろう」
「一度くらいって?」
「恋のために育つ娘・・愛のための全裸。もはや俺のものではないのでね」
 さすが国語の先生だわ。
 父は私のすぐ前で向こう向きに立ち上がり、岩風呂を出ていった。
「父さんだって若いよ、いい体してると思うけど」
 それも、そのとき感じた私の実感。たるんだところのないスリムな父です。
「馬鹿かおまえは・・父親をからかうな」
 そして私がお湯を出て、父の背後にしゃがみ込む。ほんとに細い・・小さくて硬そうなお尻・・あのとき私はむしゃぶりつきたくなる衝動を抑えていたっけ。後ろから手を回してペニスを握ってあげたかった。ここから出た実弾がママを孕ませ私ができた。そう考えると父の性器はいとおしい。

 飲精パーティなんて猟奇的だわ。精子を生きたまま飲み込んで消化する。躍り食いのようなもの。
 だいたい熟女ばかりが若い子を奴隷扱い。それもまた変態チック。
 けれども理解できますね。女の中にある母性のすべてが向いたとき、女はどんなことだってできるもの。精液を美味しいなんて思いませんが、男性しかつくれない生命の根源を受け取ったと考え直すと・・それもまたセックスの原点みたいな気もするし。性器を可愛がるって究極の愛情表現だと思うんです。
 パーティが終わったのは深夜近く。それでも男の子たちはクルマで来ていて帰れます。残ったのは女ばかり。そしてそうなるととたんに虚しくなってくる。
 そうだよ。女ばかりの世界なんて寂しすぎ。私は男が好きでセックスだって大好きで・・それだから女を楽しんで生きていける。思い知らされた気分になったし、独り身の自分が悲しくなった。

 おかしなことになっていったのはそれからでした。広い和室に布団を並べて女四人が横になる。そこには性の嵐の余韻が残り、最初から妙なムードだったんです。そんな中で富代さんが言い出した。
「そう言えば、ねえ朋子」
「はいよ?」
「まんまよ、まんま。おかしな人たちっているものだわ。ホームページの掲示板に書き込みがあってさ、生理中の女性募集ってことなのよ」
 朋子は私の顔をちらりと見た。
 香子さんが言う。
「血を舐めるってことか」
「そうなんじゃない。でもなければ女を縛って血を垂らすアソコを楽しむとか? どっちにしたってマジ変態、あははは!」
 それでそのとき朋子さんが言うのです。
「やっぱりね、そういう連中、いまでもいるんだろうなって思ってた。だけどそれってわかる気がする・・」

 私たちは朋子さんを見つめます。彼女の二十五年前の体験は富代さんも香子さんも知っている。だからこういう集まりができたのだから。
 朋子は言った。
「やってることは一緒よ。男の体液か女の体液かの違いだけ。せつないまでに女している性器が可愛くてたまらない。あたしたちはそんな男がたまらない」
 そして唐突と香子さんが言うのです。
「いつも思うけど・・男がいなくなった女ばかりの空間でエッチがあればカンペキだって思うわけ」
 そっちに話を持っていかないで。それでなくてもドキドキしている私です。
「じゃあ・・うふふ、それいいかも」 なんて言いながら、富代さんがねちょっとした眸で私を見たわ。
「こういうのはどう? 新人歓迎会・・あははは!」
 このとき、朋子、私、富代、香子の寝並びでした。隣の富代さんが私の布団に入ってきて、それを追いかけるように香子さんが面白がってかぶさってくる。二人に浴衣を脱がされた私・・下は最初から素っ裸。組み伏せられた私は赤ちゃんのおしっこポーズにされてしまう。

 朋子までがほくそ笑み、朋子ったら私のアソコに顔を寄せてまじまじ見つめて言うんだもん。
「醜いわ・・あたしたちにもあるけれど、血と愛液と精液にまみれることになる女の花・・こうしてお花を開いてあげて・・」
 ラビアがつままれ開かれます。
「あぁン・・嫌ぁン・・」
 ハッとした。私はあのときと同じ声を出していて、同じ気分になれている。
 あのとき確か・・父は三人目に舐めてくれた人でした。

「ねえ嫌ぁン、私バージンだから」
「うんうん、やさしくしてあげようね、泣かない泣かない・・怖がらなくていいんだよ。ほうら、こうして可愛いクリトリスを舐めてあげよう・・いい子だいい子だ・・」
 このまま犯されるかもしれないと思っていたし、そうなったとき父だけは受け入れるわけにはいかなかった。そう思って泣いてみたのでしたが、父は誰よりやさしくアソコを可愛がってくれたのです。
 電撃のような気持ちよさ。ああダメ、おしっこ漏れちゃう・・イクという感覚を知った瞬間だったんです。最初の人と次の人は怖いだけ。だけど三人目が父だと知って、私は安心して酔えていた。
「あぁン、イッちゃう・・ねえダメ・・ねえねえ・・あぁーっ!」
 朋子に舐められ、ついさっきまでとめどなく垂らし続けた愛液が、ふたたびあふれてラビアを濡らす。
 はじめて知るレズ・・それは衝撃的な快楽でした。二人に押さえつけられていた体がふっと楽になったと思ったとたん、女三人に嬲られる。

 目眩がしました。瞼に星が舞うほどのピーク。
 ブィィーン・・と、なんだか妙な音がしたと思ったら、太いものがズブリ・・富代が持ち込んだバイブでした。そのときの絶叫は私自身が信じられないものだった。私は淫獣と化していた・・。
 私一人がのたうち、もがき・・狂うほどのアクメに最高の歓びを感じていた。
 意識が遠のき、雲に浮くよう・・気を失っていたようです。
 女たちのよがり声が輪郭を結んで聞こえてきます。フェイドインして声が聞こえた。朋子、富代、香子・・三匹の牝が絡み合って狂っている。

 なんて光景・・なんて幸せそうな淫獣たち。
 思えば渇いていた私の心が愛液に濡れた気分です。

「・・応募する、それに」
「応募する?」
「生理のとき・・応募する・・」

 帰りのクルマの中でした。運転は朋子、私は助手席。
「舐めさせてあげたいもん」
 ふと思ったことでした。その人たちの中に父がいるような気がしたからです。いまなら全頭マスクなんてしなくていい。娘として父親に経血を捧げたい。
 うまく言えませんが、そんな気持ちになれていた。

 朋子の静かな声が聞こえてきます。
「だったら言うけど、二十五年前にあの光景を見たとき、ひどく濡らした記憶があるの。胃から経血が検出されたって・・それって、どう考えたって、あの椅子三つに女たちが裸で縛られ、男たちに血を舐められたとしか思えない。そんなシュミもあるんだと思ったときに、拒絶できない何かを感じた。もちろんあたしだって男を知って精液を口に受けたことがある。それとどこが違うのって思ったわけよ」
「・・うん」
「ゆうべ富代に聞いたとき、一度くらい知っておいてもいいかなって思ってしまった。精液は涸れないけれど経血は涸れてしまう。だったらその前に男たちに奉仕させて・・ふふふ、おばさんくさい発想だけど・・」
 運転しながら苦笑する朋子が、まるであのときの私のような小娘に見えた気がする。朋子はまさに閉経年齢。いまはまだあるようですけど。

「飲精パーティ、ときとして経血パーティなんてどう?」
 私はなにげにそう言った。昨日のシーンで女が生理なら同じことになりはしないか。ところが朋子は否定した。
「相手がどんな人たちなのかわからない。普通なら相手にしない爺さんもいるかもしれない。恥辱に震えて泣くかもしれない。そこには緊張もあれば恐怖もあって、だから快楽が深くなる」
「・・そうか・・うん、そうかも」

 またしても、あのシーン。
 極彩色の空間で全裸にされた私は、身も竦む恐怖を感じながら、明らかに濡れてくる不思議な陶酔を感じていた。
 性器もアナルも隠せないポーズにされて、私は諦め、やがてくる性の嵐を期待した。こうなったらおしまいよ。いよいよ女にされるのね。バージンだった私は覚悟を決めて、そしたらその瞬間、体が熱を持って、いきなり牝の吐息になれている。
 パンツ姿の男たちを薬で朦朧とする意識の中で見ていながら、そんなことだけいまだ覚えているほど覚醒して考えられた。
「ふっふっふ、いやらしい・・いやらしい・・いやらしいアソコだね」
「嫌ぁン嫌ぁン、あたしバージンなんだから」

 などと可愛く泣いておきながら、心の中では・・。

『何よ、パンツをテントにしやがって! 早くどうにかしなさいよ! 濡れちゃってしょうがないでしょ! 気持ちよくシテ!』

「ふっふっふ、女ってそうかも・・猟奇のそばにあるセックスのほうが好きみたい」 可笑しくなって笑いが止まらない。朋子ったら、一緒になって笑いながらハンドルを握っていた・・。

螺旋の舌(四話)

四 話


 こうなることはわかっていたし、怖いと思う反面、それ以上の期待もあり、またそうなったときの自分がどうなるかにも興味があった。二十五年前の流美は十五歳から十六歳への狭間。あの出来事が起こるちょっと前、それを予見するように流美ははじめて自分の性器を鏡に映して凝視した。
 遅いぐらいだと自分では思っていたが、男の子に惹かれる何かを感じだし、恋を予感しだした頃。しかしあるとき、それは結局性への開花であって、セックスへの準備なのだと考えるようになっていく。父と母の性器が結合したから私ができた。男女の性がどういうものかはもちろんわかるし、身につまされるものとして実感できる時期に来ている。
 そしてそう思ったときに、ペニスを受け入れる女の性器を知っておきたいと、ほとんど衝動的に鏡に映して覗き込む。

 若い男二人の射精を受けたご褒美に・・男二人に板床に押し倒されて、下着を剥ぎ取られ、そのときに、欲情しきった激しい濡れそぼりを男たちにも、朋子にも香子にも富代にも見られてしまった。
 この集まりは乱交パーティではなかったから挿入を伴うセックスへは発展しない。押し倒されて脱がされて、全裸の体を開ききって舐められる。二人の若者に奉仕される・・というか・・ともかく舐められる。性器を鏡に映して見たあのとき、男ってよくこんなところを舐めるよと思ったところを舐められる。
 そのとき私は激しく濡らし、濡れたラビアを開かれて膣口までも淫らに晒し、よがり、悶え、のたうって果てていく・・きっとそうなる・・そうなることはわかっていると考えた記憶が、いまになって現実のものとなる。

 素っ裸で横寝になって脚を開き、前から後ろから若者たちの激しい舌が性器もアナルも陵辱する。男たちに囲まれて錯乱して果てていく。同性に見つめられる気恥ずかしさが快楽を倍加した。心の隅にしまってあった淫らな夢が二十五年の隔たりの後にふたたび私を狂わせた。
 そう、流美は狂った。狂ったようにのたうち、もがき、女友だち三人にも淫婦たる正体を晒しながら、あられもない声を上げて不思議な世界に耽溺していく。二十五年前のあのシーンが蘇る。女としての自信を感じた瞬間だった。朦朧としていく意識の中で、いま私は若い二人の勃起を両手に握りながら、性器とアナルを舐められている・・でもそれが何だって言うの・・私は独身なんだからいいじゃない!

 飲精パーティは次のステップへと昇華していく。
 男たちは最初から全裸。女四人もいよいよ全裸。男たちに目隠ししておき、全裸の熟女四人が尻を突き上げた四つん這いで底部を晒し、目隠した男たちが匂いだけで誰かを当てる。そのとき男の二人以上に当てられた女だけが男を総取りできるというゲーム。そのために最初の射精は一度にとどめた。若者は実弾を残している。勃起させる精力にあふれている。
「ぁぁ・・恥ずかしい・・」
 四つん這いの尻の底へ熱い息が吐きかけられて、女たちは尻を振って甘い声を漏らしていた。女が四人横に並び、男が三人、先ほどとは逆にローテーションして匂いを嗅ぐ。性器とアナル、牝の匂いのすべてを嗅ぐ。
 一度のローテーションで決まらなければ、女たちが並び順を変えてふたたび尻を突き出した。一巡目、続く二巡目では決まらなかった。

 三巡目。
 目隠しをした最初の一人が言った。
「富代さん・・流美さん・・朋子さん・・香子さん」
 男の二人目が言った。
「流美さん・・朋子さん・・香子さん・・富代さん」
 そして三人目。正しい答えがかぶれば女が決まる。
「朋子さん・・富代さん・・香子さん・・流美さん」
 香子がかぶり、女の三人目が香子だった。女が決まった。
 少し肉付きのいい香子が輝く眸を見開いて男三人を見渡した。
「当たり。目隠しを取ってごらん」
 と、香子が言った。
「ちぇっ・・あーあ・・」
 と、富代がほくそ笑む。
 香子が言うのと、外れた女三人が退くのが同時だった。
 四つん這いになったまま白い尻を振り立てておどける富代に男三人が群がって押し倒す。板の間ではじまった男三人対香子のセックス。男たちは激しく勃起させていて、寄ってたかって女を愛撫。香子が獣の声を上げはじめる。

 逞しいペニスに女陰とアナルと口を一度に犯され、狂乱する女の正体・・それは牝そのものであり淫獣そのもの。
 外れ三人がほくそ笑んで見つめ、その中の富代は我慢ができず、バッグに忍ばせて持ち込んだ振動するオモチャを取り出して自分の膣に打ち込んだ。
 女二人の狂った声が妙なハーモニーを奏でていた。
 朋子と流美はロングソファに移って、女二人の本性を鑑賞した。
 朋子が流美を抱き寄せて言った。
「あさましいものね・・でもそれが女だわ・・」
「・・そうね・・そうだと思う」
 と、ふいに朋子が言い出した。
「いまから二十五年も前のことだった。その頃あたしは刑事課に配属されたばかりのペーペーだったの」
「ええ?」
「妙な事件があったのよ。いいえ、事件かどうかもわからないまま終わってしまった。被害者もなし届け出もなしでは警察は動けない」

 横抱きにされながら流美は悶える二人の姿を見つめ、朋子の横顔へと視線を移した。朋子は目を細めて微笑んで性にイカレた女二人を見つめて言った。
「狂った色彩・・いまでもはっきり覚えている」
「狂った色彩?」
「赤でしょ、青・・黄色もあれば緑もあった・・それの幾何学模様なのね」
 流美は声を失った。
「ビルの谷間に取り残された古い倉庫の地下なのよ。窓のない閉鎖空間なんですけど、そこで爺さんが一人倒れたの。心臓麻痺で結局死んだんですけど、そのときに駆けつけた救急隊員が、あまりの異様さに驚いて警察に通報した」
「・・はい」
「鉄パイプをひん曲げたような椅子のようなものが三つあって・・見方によっては婦人科の診察台のようでもある。とにかくよ、そこら中に複数の女の生理の血が散っていて、複数の男の精液が飛び散っていた。それでその倒れた爺さんですけどね、胃の中から経血が検出された・・どういうことだかわかる?」
「・・さあ」
 流美は息をするのも苦しくなった。

 朋子はすがりつく流美にいまさら気づいたように振り向いて、流美の裸身を抱き締めた。
「まあ、そんなことがあったのよ。やがて警察を辞めたあたし・・だけどそのときの記憶だけは消せなかった。あの空間で、儀式なのか・・それとも変態どもの集まりなのか・・何かがあった。生理の血を舐めたとしか思えない状況であの椅子でしょ。生理の女たちに男たちが群がって・・ふふふ、それでこういうパーティを思いついたの。女の人生なんて尻すぼみよ。セックスの部分では特にそうで、輝ける時期なんてフラッシュのようなものでしょう」
「・・ええ、それはね。子供ができて生殖終了したとたんセックスの意味がなくなっちゃう」
「そうなのよ。それからはストレスストレス・・寂しいし、もはや感じなくなってくる。それでこんなことを思いついた。若い男を楽しもうとしたときに精液の意味を考えたの。あたしに対して欲情してくれる男の姿は嬉しいものだし、フェラにたまりかねて射精する子たちは可愛いわ。生命の根源が噴射される。だったら飲んであげたいって思ったし、それからセックスへと発展したっていいじゃないって考えるようになっていた。普通のそれだと不倫になっちゃう。ありきたりだし、いまさら外に恋人を決めるのは違うと思った」
「不倫は嫌・・と言うか、欲しいのは挿入を伴うセックスじゃない」
「まさにそう、求めるものはそうじゃない。女として濡らしていたい。逞しい男を感じ・・いいえ、それは相手が女だっていいんだけれど、錯乱を共有できる仲間が欲しいと言うべきか・・」

 この人があの場所に・・そう思うと、流美はいやおうなく二十五年前に引き戻された。倉庫の地下に娘が三人。そのうちの一人は私ですとは言えなかった。

 十五から十六への狭間の私・・厳しすぎる家に嫌気が差して家出をしようとしたけれどお金がなかった。グレた友だちが妙な話を持ってきた。
『生理中なら稼げるよ』
 生理を研究している人がいる。経血を欲しがっていると言う。
 それで指定された古くさい喫茶店に行き、何かを飲まされて意識が崩れ、あの場所へと連れて行かれた・・。

「さあ、脱いで」
「脱ぐって、そんな・・でもあたしバージンなんだし」
「うんうん、そういうことじゃないから。大切なものは奪わないよ」
 喫茶店で飲まされたのは何だったのか・・朦朧とする意識に極彩色の空間が歪んで見えて、娘だった体が燃えてくる。
 脱いだ・・と言うか、脱がされた。
 パイプ椅子のようなものに座らされ、両足をMの字に大きく開かされて縛られた。だけどそのとき私は全頭マスクをかぶらされて、同じように全頭マスクをかぶった二人の娘らと一緒に縛られ・・そのうちにパンツだけの半裸の男たちがぞろぞろとやってきて・・五人だったか六人だったか・・男たちは目の見えない黒縁のサングラス・・そのほかよく覚えていなかった。

 そして私は・・。

 朋子に抱かれながら流美はあの頃の娘の自分に戻れていた。
「ほうほう、これはこれはいやらしい・・ふっふっふ」
「まったくですな・・若いアソコが赤い血を流している・・美味そうだ」
 年配の男の一人が、誰にも見せたくない・・男に見せたことのない・・生理中の性器を見つめて生唾を飲んでいる。
「嫌ぁン嫌ぁン、お願いします見ないで・・あたしバージン・・」
「うんうん、わかったわかった、犯したりはしないから・・さあ、お嬢ちゃん、泣かなくていいんだよ・・舐めてあげる・・美味しい血を舐めてあげる」

「ぁン! 嫌ぁン、ああ嫌ぁン!」
 嫌ぁン嫌ぁンという自分の声が朦朧とする意識の中でワァァンと響いていたような・・いろんな声が混じっていた・・。
「ほうら、ここがクリトリス・・吸ってあげよう」
「あぁン! 感じちゃう!」
「アナルだって舐めてあげるよ・・ほうらいい・・ちょっと匂うかな」
「ヤだぁ・・恥ずかしい・・あぁン!」
 自分の声なのか誰の声なのか・・ワァァンと頭の中で響いていて、そんなとき流美は、衝撃的な光景を見てしまう。
 赤ちゃんのおしっこポーズにされて動けない性器のところへ別の顔がやってきて、黒いサングラスがズレたとき・・流美は今度こそイキそうになってしまう。
 イクという感覚を、あのとき確かに感じたと流美は思う。

「ほうら、お嬢ちゃん、今度は私が可愛がってあげようね」
「もう嫌ぁン・・おかしくなっちゃう・・ぇ・・」
「ふふふ、いい子だ、君はいい子だ・・可愛いアソコ・・可愛いアナル・・男なら誰もが憧れる性を誇る娘さんだよ」
「ほんと? あたしって素敵な子?」
「もちろんだとも、綺麗なアソコだ、自信を持って開けばいい」
 このとき流美は心の中で叫んでいた。
『パパ、あたしだよ、ねえパパ!』
 厳しかった父がパンツだけの裸でそこにいた。娘は全頭マスクで父親でも見抜けない。
 父への反感・・しかし反面、厳しい父に男の威厳を感じていたし、まだ見ぬ男性への憧れを父に重ねて私は見ていた・・そのことに気づかされた流美。
 もっとも近く、もっとも好きな男性に私はすべてを認められた。醜悪だと思った女の股間を美しいと言ってくれる・・性への不安が消えた一瞬だった。

「ねえねえ、ダメぇ・・イッちゃう・・嫌ぁン」
「それでいい、心おきなく楽しめばいいんだよ」
「あたしヘンな子じゃない? ねえ、おかしくない?」
「うんうん、ちっともヘンじゃない・・ヘンじゃない・・最高の女は淫らであること。可愛いよがり声を誇って生きなさい」
 口の周りを実の娘の経血に染めた父親の微笑みには、流美を女へと脱皮される力があった。
『パパ好き・・もっとちょうだい・・ああイク・・』
 マスクの下で嬉しくて泣きながら果てていった私の姿が蘇る・・。
 青年三人に犯され抜かれて発狂している香子の姿が、とてつもなく幸福な女の姿に思えてならなかった。

 ところがそのとき、とんでもないことが起こってしまう。
「北川さん! どうしました北川さん! おい救急車だ!」
「いや待て、片付けが先だ」
「何を言っている、救急車! これは危ない!」
 薬の朦朧とアクメの朦朧とが重なったふわふわする意識の中で私は連れ出され・・どうやってそこへ行ったのか・・気づいたときには、どこか深い山の中の家のベッドに寝かされていた。
 見たこともない男性がいた・・年寄りではない・・中年の素敵なオジサマ。
 そのときも流美は全裸だったし、女は流美一人だった。
「気づいたかい」
「はい・・あの、ここはどこ? そんな・・あたし裸?」
「ふふふ、全裸だね。ちょっとあったものだから、かくまったんだ。ここは山の中の別荘だよ」
「山の中・・」
「と言っても、それほど遠くではないんだが・・それより君は・・」
「はい?」
「恥ずかしかったね・・だけど娘から女へと変身していく時期にいる。素敵だよ、お嬢ちゃん。君はほんと素敵な子だ」
 もちろん父ではなかった。薬の切れたはっきりした意識の中で、私は女になれたと自覚した・・。

「オジサマも・・あの中に?」
「もちろんいたよ、君を舐めてあげていた、アナルまでね」
 カーッと燃えだす体の火照りを流美はどうすることもできなかった。激しい濡れが襲ってくる。
「・・あたしバージンだったんですよ?」
「それはいまでもバージンさ、卑劣なことはしていない。ちょっとした秘密のパーティでね。我々はもっとも神聖な娘の血を授かって、可愛いアソコをじっと見つめ、自分で自分を慰めて射精する・・女は女神さ」
「・・女神?」
「そうだとも、女とはそういうもの。やがて恋もするだろうが、そのとき君は自信を持って脚を開いて、恋人にもっと舐めろとせがむがいい。可愛い声で歓び、淫らに果てていけばいい・・君は素敵だ・・愛される権利を持つ」
 そのとき森のそこら中で野鳥の囀りが聞こえていた。鮮烈な記憶として残っている。

 それからだった。自信を持って鏡越しの濡れる性器を見つめることができるようになっていた。

螺旋の舌(三話)

三 話


 良妻賢母を通してきたつもりでいたのに、私のいったいどこに淫欲は潜んでいたのか。
 流美はそんな自分自身に驚かされていた。これからどんなことが起こるのか。困惑よりも期待のほうがはるかに大きい。昼食を終えた三時前になって別荘の前にクルマが停まる。一台に三人が乗ってきたようだった。男は学生ばかりでありバイト感覚と聞いていたから、どれほど軽薄で、あるいは病的な人たちが来るのかと思っていたら、まったくそうではなかった。
 清潔そうで真面目なタイプ。三人それぞれにコットンパンツの姿。スリムで、ハンサムとまでは言えなかったが好感の持てる青年ばかり。
 女四人は、すでにアイマスクで目を隠していたが、隠すのは目元だけで顔の輪郭はそのまま。ちょっと不安。

 それはともかく流美は意外だった。そんな流美の妙な面色を察して朋子が言った。
「どう、みんないい子でしょ? 真面目な子ばかりだよ」
「そうみたい」
「ただちょっとMっぽいと言うのか女性崇拝の発想をする子たちでね、だけどマゾではないんだよ、SMなんてするつもりナシ」
 それで流美はほっとできた。そういうセックスがあるのは知っていたし、そんな怖いシーンには耐えられないと思っていた。
 朋子が青年三人を紹介する。
「純ちゃん、秀ちゃん、この二人は二十歳。それからタッくん、一つ下の十九なんだ。みんな可愛いでしょ」
 向かって左からの紹介。男三人が初顔の流美に上目がちの恥ずかしそうな視線を向ける。六つの眸が集中して流美は頬が火照るようだ。
「いいわよ、シャワーしてらっしゃい」
「はい、お姉様」
 純と呼ばれた青年が返事をし、三人揃って浴室へと消えていく。

「さあ、あたしたちも・・」
 女三人はあっけらかんと下着姿。流美は一瞬躊躇したが、もはや後には退けなかったし、退く気もなかった。
 流美が黒のレース、朋子が白に花柄、一番年上でグラマラスな香子は目の覚める赤、しかもTバックパンティ。もっとも若い富代が青に花柄。アイマスクは仮面舞踏会で使うような羽根でできたもので眼鏡タイプ、耳にかけるだけのもの。
 女たちはすでに心が上気し蒸れるような女っぽさを発散している。
 流美は思いのほか激しい自分の性反応に戸惑っていた。ゾクゾクしはじめ濡れる感覚がパンティの底にある。
 別荘のLDKは板の間で広く、その一方にダイニングテーブルの木の椅子を横に並べて女四人は足を組んで座っている。この別荘はログハウスを意識して造られていて、LDKに天井はなく、太い丸太の梁がクロスして露出するワイルドな造作。

 青年三人がそれぞれ黒のビキニブリーフの姿でやってきて、女たち四人の前に少し間を空けて横に並んで立つ。三人とも男にしては肌が白く、裸になるといっそうスリム。ブリーフのもっこりが目立っていて、すでに男性反応を示す子もいる。半ば勃ったペニスが小さなブリーフからいまにも亀頭を覗かせそうだ。
 それだけで流美は、はっきりとした濡れを悟っていた。
 朋子が言った。
「じゃあはじめましょうか。今日はこういうことがはじめてのお姉様もいるから君たちも考えてね。いつもとは違う趣向を考えたから服従なさい」
 青年三人が恥ずかしそうにうなずいた。まだ子供。可愛いものだと流美は思った。
 朋子が言う。
「今日はね、こんなものを用意したの」
 朋子が指先にサイコロを一つつまんで持っている。
「これで私たちの順番を決める。言われた通りにするんだよ。じゃあお脱ぎ、ご挨拶からはじめなさい」

 男三人の手がブリーフにかかった。流美は息詰まる緊張を感じた。一斉に全裸となる若者たち。三人ともに胸毛もなくて体毛は薄いほうだが、陰毛は濃く、裸にされたとたん皆が勃起をはじめている。
 三人はその場で平伏して、一人ずつ顔を上げて言うのだった。
「純一です、お言葉には服従いたします、どうかよろしくお願いいたします」
 そのとき流美は、香子、富代、流美、朋子の並びの中で、隣に座る富代の横顔へと視線を流した。アイマスクをしていても眸がキラキラ輝いて、すでに上気しているらしく甘い息を吐いている。
 朋子が純一に言った。
「うん、いい子。はい次よ」
「僕は秀幸と言います、絶対服従をお誓いします、よろしくお願いいたします」
「うんうん、はい次」
「た、達也と申します・・あの・・どんなことでもしますので、どうか可愛がってくださいますよう・・はい」
 達也は十九歳で一つ下。緊張して息が乱れ、股間のものが上を向いて怒っていた。

「はい、よろしい。ではお立ち」
「はい!」
 若者三人は立ち上がると、脚を肩幅に開き、両手を頭の後ろに組んで性器を隠さない。三人ともビクンビクン脈動し、女たちは嬉々として若い勃起を見つめている。流美もそうだ。もはや開き直り。二十五年前の記憶が薄らいで、いまそこにある若い男性の欲情に胸を熱くしていた。男が勃ててくれることは女としては嬉しい。
「じゃあ、香子からサイコロ」
 朋子から小さなサイコロを受け取ると香子は手の中で弄び、硬い板の間の床にぽんと捨てる。サイコロは跳ね、男たちの背後へと転がっていってしまう。
 朋子が言った。
「さあ、みんなで拾って。膝をつかない四つん這い。脚を開いてヨチヨチ歩く」
「はい・・あぁン、はい!」
 男三人が一斉に後ろを向いて手を着いた。膝が曲がった四つん這い。
 女たちが笑う。
「あははは! まあいやらしい! あははは!」
「もっとお尻を上げてアナルまでお見せ! あははは!」

 流美は生唾を飲んでいた。男性の奥底がフルオープン。緊張のためなのか睾丸が縮み上がって、勃起したペニスが頭を振ってペコペコ揺れて、尻を締めてすぼめたアナルがひくひくしている。
 まさにそんなスタイルでよたよた這う若者三人。流美はパンティにつつまれていて閉じたラビアをこじ開けるように漏れ出す愛液の奔流をどうすることもできなくなった。
 男の一人、達也が最初にサイコロにたどり着く。
「三です」
 サイコロを歯でくわえて這い寄る三人。次は富代。富代はさらに意地悪く遠くへ転がす。カンカンと乾いた音を立ててサイコロは跳ね転がって、壁際で止まった。這う距離が長くなる。女たちが囃し立ててゲラゲラ笑う。
 純一が言った。
「四でした」

 次に流美。流美はそっと転がした。羞恥と、這ったことで顔の赤い男たちが可哀想。サイコロはすぐ背後で止まり、またしても達也が言った。
「一です」
 朋子は振らない。一が出たら勝負あり。一の勝ち。
 朋子が嫌味のようにほくそ笑んで流美を見た。
「あらま・・ビギナーズラックとはこのことだわ。流美がトップ。トップが決まればそのほかどうでもいいんだから」
 そして男たちに言うのだった。
「いいわよ、お立ち」
 脚は肩幅、両手は頭の後ろに組む。先ほどのポーズ。トップの流美を椅子に残して女三人が立ち上がり、それぞれ男の前へと歩み寄る。
 香子は秀幸の前に立って穏やかに微笑んだ。
「いい子ね、恥ずかしかったね・・ふふふ・・よしよし、いい子・・」
 女三人それぞれが、縮み上がる睾丸をそろりと撫でて、怒り狂うペニスの裏を撫で上げて、男の小さな乳首を弄ぶ。
「ぁン・・ぅぅン・・」
「ほうら気持ちいい・・いい声だけど、もっと甘くよ」
「はい、あぁン! あぁン!」
「あははは、そうそう、ますますビンビンなんだもん・・そうでしょう」
「はい・・ぁぁお姉様ぁ・・感じます・・ぁぁン!」

 二回りも歳の違う母のような女に嬲られて、男たちは女そのもののよがり声。朋子は純一の乳首をつまみながら、取り残された流美に言う。
「流美は当たりで四番目よ・・外れ三人が十秒ずつ、当たりの流美が倍の二十秒・・おいで流美、最後に並んで」
 ペニスを勃てて、並んで立つ男たち。その左の純一から、朋子、香子、富代、そして流美が順に並ぶ。
 朋子が流美に言った。
「私たちは十秒おしゃぶり・・一人ずつ順におしゃぶりしてあげる。流美は最後で二十秒、たっぷりペニスをほおばるの。ただしルールがあって、これは飲精パーティなのよ」
 朋子の眸も女たちの眸も、とろんと溶けて据わっていた。
「・・飲精・・え・・」
「順番にしゃぶってあげて、そのうち男の子が射精する。女はそれを口で受けて飲んであげるのがルール。まずは三人とも一度目の射精を終えるまでローテションしてしゃぶってあげて、その間にもし一人の精液を受けることができればご褒美があり、二人三人ならもっと嬉しいご褒美がある・・さあいくわよみんな」

 朋子が最初に純一の勃起をほおばった。硬くなる男の尻を撫でさすり、睾丸を揉み上げながら、亀頭に舌を絡め、勃起の裏を舐め上げて、ぱくりとほおばり、口の中で舌を回して愛撫する。
「あぁン! いい・・ぁぁン! 感じますお姉様ぁ!」
 十秒して、朋子が隣の達也へ、香子が純一へ。また十秒して横へずれ、全裸の男た三人ちの前に下着姿の女三人が膝で立ってすり寄ってペニスをしゃぶる。
 十秒刺激、少し途切れて、また刺激。男たちの裸身に見る間に感じ汗が滲みだし、呻くような、あえぐような、甘い声のハーモニー。
 流美は今度こそ生唾を飲み下し、唇を舐め回し、二十五年前の記憶の中へと耽溺した。
 さらに十秒・・富代がずれた純一の勃起は、茎ごとビクンビクン脈動していていまにも果ててしまいそう。

 流美は、突きつけられる赤黒い亀頭を凝視して、溶けそうで苦しげな純一の表情を見つめて微笑んで、もう一度唇を舐め回してペニスを含む。
 流美だけが二十秒。この時間差が隣の男に刺激を失うロスを生み、その分男は長く耐えて女の愛撫を楽しめるというわけだ。
「ぁぁん出そうです・・気持ちいい・・嬉しい・・お姉様ぁ・・」
「うふふ・・可愛い・・可愛いわぁ・・」
「ぁふ・・ぅくく・・」
 そうやって、流美が三人を可愛がって一巡すると少し休む。性感が退いていくのを見定めて二巡目。男たちは男のくせに女のよがり声を上げだした。
 続けて四人、その四番目が二十秒では、そこで射精する確率が上がる。
 二巡目を終えて男たちは体中が玉の汗。尻を締め、ゆるめ、腰を揺すり、ペニス、睾丸、乳首、そして尻を撫でる甘美な刺激に耐えている。

 三巡目・・純一に二十秒、ずれて達也へいったとき、亀頭をしゃぶり、螺旋を描くように舌を絡ませながら喉へと突き刺し、そうしながら左手でゆるんで垂れた睾丸を揉み上げて、右手で乳首を交互につまむ・・達也の限界・・。
「出ます、ねえ出ちゃう・・ぁ、ぁむむ・・あう! うぅっ!」
 おびただしい樹液が流美の口腔へ噴射した。
 流美は笑った。可笑しいのと、愛撫を受け取って果ててくれた若者が可愛いのと・・流美はにやりと微笑んで口の中の男性臭を楽しむように樹液を転がし、
ほかの女たちの横目も気にせず、目を閉じて嚥下した。
 喉が動き、ごくりと音が漏れてくる。
 ペニスを抜く。抜いても若い勃起は萎えていかない。流美はべろべろ唇を舐め回し、味わうように、その眸はどこか遠くへイッていた。

 あのときもこうだった・・二十五年前・・私は心がイッていたと思い出す。

「タッくんだったね」
「はい達也です」
「いっぱい出しちゃって・・ふふふ・・飲んであげたよ」
「はい・・嬉しいです・・お姉様ぁ嬉しいぃ・・」
 男の子の涙声・・流美はハッとして達也を見上げた。瞼からあふれるほど涙をためてしまっている。
 ああ可愛い・・なんて可愛い男の子・・。
 達也の尻を撫でながら横へとずれる。達也は一度の射精で一人だけ抜けて休み。
 次は秀幸だったのだが、飲精する間ロスタイムができていた。秀幸はよがっただけでスルー。四巡目に入ってすぐ、二人残った純一が限界だったし、その隣の秀幸は朋子、香子に次く富代の口の中で限界を迎えていた。

 流美だけが二人のフィニッシュを受け取って、富代が一人の樹液を飲み干した。
 全裸の秀幸が両手を広げ、富代は全裸の男に導かれて板の間に崩れ、ブラを外されて交互に乳首を吸われ、交互に乳房を揉まれ、しかし飲精が一人ではパンティの上からの刺激だけ。
「ぁ・・ぅく・・秀ちゃん感じる・・ああ感じる・・」
「お姉様ぁ、ご褒美ですよ、飲んでいただきありがとう」
「あン! はぅ! 秀ちゃん秀ちゃん、あぁン感じるぅ・・」
 富代はアイマスクを毟り取り、秀幸の唇をせがんでむしゃぶりついた。

螺旋の舌(二話)

二 話


『流美はいいわよ、独身じゃない』

 能登への旅で言われたことが日一日と流美の中で響いてきていた。
 そうなんだ私は独身・・娘はいても夫はいない。言われてみればそうだったと思えてくる。夫がいて仮面でいるよりずっと自由で、少しの奔放なら許される。そんな環境にいたことを流美は思い知っていた。

「・・小絵はいいね」
 口うるさい爺さんが出かけた土曜日、外は小雨。めずらしく家にいる娘に流美はなにげにそう言った。小絵の部屋着はミニなソフトワンピース。下着のラインが際立っていて小さなパンティがうかがい知れた。
「あたしのどこがいいのよ?」
「だって」
「だって、なあに?」
 流美は親元に住んでいて戸建て。カッコいいLDKではなく、それなりに広いキッチンに置いたテーブルで話していた。

「若いもん・・あのね小絵、ママはあなたが羨ましいの。これからだもんね。男友だちはあなたを気にしてドキドキしてるよ。あなただってわかってるだろうし、これから輝く季節だから・・」
 小絵はちょっと鼻で笑う。
「ママと段が違うだけ、ステップの段差よね。ママは若いし綺麗なんだから、階段を降りることだってできるでしょ」
「階段を降りる?」
「私は歳なりの段にいて時期が来ないと登れない。登ったママは降りて来られる。この違いは大きいわよ。十六には十六の相手がいるしママにはそれなりの人がいる。それだけのこと。女でいるのかいたいのか、決めるのはママ自身だわ。違う?」

 いつの間に・・大人びたことを言う。流美は嬉しくなって涙をためた。

「・・ありがとママ」
「え・・」
「恋に燃えてあたしができた・・それだけで充分だから。そろそろいいんじゃない?」
 流美は娘の眸を見つめた。まっすぐな視線には子供じみたふざけはなく、すっかり大人の女の眼差し。
「・・そろそろって、どういう意味よ?」
 訊くまでもないことを訊いてしまった。よそ見をきっぱり否定して、私は母だと言いたかったのかもしれない。
「か・れ・し。決まってるでしょ。早くしないと落ち葉だよ」
 冗談めいて笑って去った娘のヒップを見つめていて、流美はちょっと複雑だった。小絵は明らかにセックスを言っている。娘はもう知っているのか? 年頃の娘を持つ親なら一度は考えることだろう。

 しばらくして小絵は着替えて出てきた。
「江利ん家ね、遅くならないから」
「はいはい。雨だし気をつけなさいよ、傘でクルマが見えないことだってあるんだから」
「・・ったく子供扱いね」
「小絵」
「うん?」
「・・嬉しかった」
「はいはい、わかったわかった。あたしが目標にしたい女でいてね」
 背を向けて出て行く娘に、流美はあらためてドキリとしていた。

 二十五年前、あのことがあってから、流美は自分の性器を見ることに臆病ではなくなっていた。
 寝室に入り、スカートとパンティを脱いでしまい、ドレッサーのミラーに白いヒップを映す。尻を振ってみたりする。
 寝室は古い家の和室を無理して洋室に造り直したもの。床は木調の新素材。
 その床に大きな手鏡を寝かせて置いて、しゃがみ込んで覗き込む。
 決まって胸が苦しくなる。

 陰毛は薄いほう・・性花はラビアを閉じ合わせ、男に飢えていないことを物語るようでもあり、花上に埋もれるようなクリトリスもつつましやか。性花の周りをちらほら毛が飾っていて、どことなく花の妖怪のようにも思えてしまう。
 アナルも色素が薄く小さくすぼまり、男を受け入れたことのない菊の小花。
 そっと指先を這わせてやるとゾクゾクする性感が奥底から湧き出してくるようだった。長くいじっていると濡れてくる。濡れが滲み、そうなるとラビアは閉じていられずにポンと咲く。あの頃から幾度となく見つめてきた女のすべて。流美はいつもと変わっていない性器をじっと見つめると、今日はすぐに立ち上がる。

「ダメだわ・・おかしな気分・・飢えてるのかしら?」
 小声で言って、ついでにブラまで替えてしまい、洗濯機へ放り込む。
 そのときに握り締めたパンティが、ひどくつまらないもののように思えてきた。ごく普通のピンクのパンティ。そこらのママよりいいとは思っても、若い小絵にはマチが深くて似合わないと思い直し、エッチな下着なんて買っていたのはいつ頃だろうと考える。
 彼は写真家。しかし自然写真が専門でヌードはやらない。なのにセクシーな下着を喜んで、すぐ脱がせようとした・・ちょっと笑う・・私は独りなんだと言い聞かせた。
「そろそろいい・・か。ふふふ、生意気言って・・」
 欲しがっているとは思えない。けれども欲しくないかと問い詰められたら自信はなかった。
「落ち葉か・・嫌なこと言う子よ・・ふんっ」
 エッチなサイトでも見てみようとノートPCを開けてみたが、ぱたりと閉じて諦めた。

 そんな矢先、プールの帰りに朋子とドライブ。流美の家から電車で一駅、その駅前にスポーツ施設はあった。しかし朋子の住むマンションからは電車だと大回りになってしまい、朋子はクルマで通っていた。フィアット何とかという、白くて可愛いコンパクトカー。
 隅田川べりの駐車場のある公園。夕刻前の穏やかな陽光が川面にキラキラ反射して綺麗だった。
 朋子は水面の煌めきに照らされながら言った。
「ねえ流美、一泊できない?」
「いつ?」
「来週の土日なんだけど。旦那の姉の別荘なのよ。信州にあるんだけど、ぜんぜん使ってないからって、じつはずいぶん前からちょくちょく行くの」
「大丈夫そうだけど、娘にも訊いてみないと」
「行けるようなら楽しめると思うよ。女友だち二人とあたしに流美」
「何かのお仲間?」
「まあね・・ふふふ、気の置けない女ばかりでちょっとしたパーティやってるの。主催はほら、別荘の関係であたし。泊まりはもちろんタダ。参加費は一万なんだけど、今回はあたしの誘いと言うことでそっちもフリー。楽しめるパーティだと思うけど・・」

 土曜の夜の一泊なら小絵も休みで家にいる。爺さんは放っておいてもかまわない。なんとなくだが彼女がいる気がしていた。

 そして土曜日。早朝に朋子のクルマで走り出す。高速に乗る前に、そこは女で、スーパーに寄っていく。個人の別荘には食事は付かない。ほかの二人も適当に持ち込むからと朋子は言った。
 このとき朋子も流美もジーンズ姿で特別な支度はしていない。しかし流美はこの日のために下着だけは用意した。黒のレースで少しは色っぽく見えるもの。
集まるのは四十代の女が二人と三十代末の女が一人。それに流美。つまりはマダムばかりであって、普段の下着ではいくらなんでも・・そう思って、紫のレースのものと二セットを新調した。
 今日はとりわけ好天だった。暑くなく寒くなく。Tシャツにジャケットを合わせてちょうどいい。

「しめしめ連れ出せた・・ふふふ」
「はい? しめしめ?」
「じつはちょっとね、エッチなパーティなのよコレが」
「えーっ! 嘘でしょ?」
「嘘じゃない。私が企画してはじめた集まり。CFNM」
「はい? C・・FM?」
「ラジオじゃないよ、ばーか。ふふふ、あのね」
「うん?」
 ドキドキしていた。何かあるとは思っていたが・・やっぱり。

「着衣の女、裸の男って意味なのよ。あたしら女はアイマスクで顔を隠して下着姿。男の子は最初から全裸なの。いつもはあたしら三人に男の子が二人なんだけど、今回はあたしら四人に男が三人。男の子は学生ばかりで可愛いわよ」
「ぁ・・嘘だぁ・・そんな・・」
「勘違いしないでね、乱交パーティじゃないんだから。エッチなんてしてもいいけどしなくてもいい。浮気じゃないのよ、れっきとした文化的イベントで。もちろん犯罪ではありません。それに女はみんなレズではない! あははは! 流美ってカタイから最初に言うと断ると思ったもん・・くくくっ、もしかして焦ってる?」

 焦ってる。声も出ない。背筋に寒気が走るほど。

 それは今日これからのことではなくて、二十五年前のあの記憶がリアルなシーンとなって映し出されてくるからだった。
 朋子が言った。
「震えるでしょ?」
「ちょっとね・・意地悪なんだから・・ドキドキよ、もう」
「そうやってごまかしてるのよ、女やってるといろいろあるもん。ガス抜きしないとやってられない。刑事だった頃なんて最悪だったわ。抜きどころがなかったもん。たまにはハメを外したい。それで思いついたってことなんだ」

 集まる女たちとは普段は顔を合わせない。古くからの友だちでもなんでもない人妻ばかりだと言う。男の子のほうは、つまりそういう性癖でバイト感覚でやってくる。
「ネットよ、すべて」
「ネット・・出会い系とか?」
「そうとも言えないけど、ホームページでもやってれば向こうが書き込んでくるのよね。あたしじゃなく、今日来る若いほうがエッチなサイトをやっている。その子と知り合ったのが最初だったの」

 早朝に発って午前中には別荘着。豊かな森の中の建物だったが、周りの建物がほとんど廃墟となっている。不景気で手放して、それきり売れないということだろう。
 別荘のキイは朋子が持つ。真っ先に着いて昼食の支度にかかる。パスタを茹でてソースを温めるだけ。
 そしてそうするうちに二人の女がそれぞれ別のクルマで乗り付ける。二人とも主婦らしいコンパクトなクルマで、流美はちょっとほっとした。高級外車でも来ようものなら肩身が狭くていられない。
「おー、来たかや」
 もちろん顔見知りの朋子に迎えられ、二人の女はそれぞれに品定めするような視線を流美へとなげた。下着を揃えておいてよかったと思う。
「この子よ、流美って言うの。流れる美で流美。めずらしいでしょ」
 流美が微笑んで会釈をすると二人も穏やかに笑って頭を下げた。二人ともパンツスタイルだったが知的なセンスを感じる。上品と言うべきか。

「私は香子(こうこ)、昔からコッコって呼ばれてる。よろしくね流美。四十五なのよ。あなたは?」
「はい、ちょうどです、四十ちょうど」
「あら若い・・五歳は下に見えるけど」
 ・・と、もう一人が割り込んでくる。
「いいわねみんな、いまふうなネーム。ふふふ、富代です、よろしく。三十八よ。まったくなんだよ、あたしの名前、明治大正じゃあるまいし、トミヨ? けっ!」
 明るくて面白い女性。こちらがホームページをやってるらしいと流美は思う。
 こうして四人が並ぶと、朋子が154センチともっとも小柄。三人が似たようなものであり、一人だけ香子がちょっとふっくらしていて乳房も張ってグラマラス。

 流美は浮き立つ心を抑えられない。離婚からずっと娘のことばかりを見つめてきた。解放される仲間ができたことが嬉しかった。

螺旋の舌(一話)

一 話


 あのことが私を不幸にしたわけではなかった。それどころか、男に対して早い時期に醒めた目を持つことができたから、暴走することなくいい結婚ができた気がする。
 あんなこと忘れられるはずがない。忘れようとも思わないし、むしろ処女だった頃の記憶として体験そのものはほんのり胸に残っている。
 私はいまアラフォーと言われる歳になり、一人いる娘が、ちょうどあの頃の私の歳になっている。娘というものは子供からいつか女へと変身し、母親をライバル視するようになるのかもしれない。母親の私だって娘のことは女だと思っている。男性をめぐって争うライバルではなく、女対女の探り合いのようなものなのでしょう。

 そんなことはいい。母と娘のどこにでもある姿。それより私は、娘があのときの私の歳になったことで、私自身の衝撃的な体験が昨日のことのように蘇り、娘の体に私の想いを重ねて、身も火照る想いがしていた。
 あの場所のことなんてほとんど覚えていないけど、赤く塗られた螺旋階段の映像だけは消えていかない。あのとき私はその階段の先にあった狂った色彩を一目見て、ここに集まる人々は狂っているに違いないと考えた・・。

「お父さん大丈夫なの。もう若くないんだから」
「なあに平気平気、明後日には戻るから」
 七十歳になる父。名を誠一と言いますが、月に一度こうして山の仲間と出かけていきます。男三人女五人の山のサークルをやっている。十年ほど前、一緒にはじめた友だちの一人が亡くなっているというのに父ときたらピンピンしている。七十なんて、ものすごく遠い別世界のように思いますが、自分が四十になってみると、父は若い頃と何も変わっていなんだと気づかされる。私だってそうなんだし。こちらの目が変わらなくても相手の見る目が変化していく。加齢とはそういうものだと思うんですね。
 男の数より女の数が二人も多い。山といってもハイキングの延長で、行けば山小屋に一泊してきます。いったい何をしてるのやらと考えると、やんちゃな小僧を見るようで父が可愛くてなりません。

 私は藤倉流美(るみ)。いまは旧姓に戻っています。昭和四十年生まれで四十歳。それが私。
 夫と別れて娘を引き取り、私の母を亡くした父が不憫でならず一緒に暮らすようになっていた。父は定年までの年月を小学校の教師として生きてきた。六十歳で定年となるその年に私の母を病気で失い、またちょうどそのときに、私より五つ上だった夫と離婚。けれど夫に対してはいい思い出しか残っていない。夫は写真家。作品づくりのためカナダに住みたがり、私は独りぽっちの父を残してとてもついて行けなかった。それだけの離婚です。

 そんなことで、いま振り返るといい結婚だったと思えるのかも知れません。当時五歳だった娘の小絵(さえ)を連れて父のいる実家に戻った。若い頃厳しかった父も定年で教師ではなく、小絵に対してデレデレですから、それもあって私に厳しく言わないものだと思っている。可愛い孫に言い争うところを見せたくはありません。
 小絵はいま十五歳、じきに十六となる歳です。162センチの私より2センチ背が高くなり、お風呂のときチラと見ると、素敵な女性の体に育ってくれた。
 私だってあの頃はいい体をしていたわ・・それだから、あのときの螺旋階段が思い出されてしまうのです。

 いまから二十五年ほど前・・私はちょうどいまの小絵の歳で十五から十六への狭間でした。その頃の父は教師という仕事柄もあってか厳しすぎ、私も私で反抗期・・というより、あんな父では誰だって反抗する。ちょっとスカートが短いだけでガミガミですから、たまったものではありません。
 グレてやる・・とは思いながら、まあちょっとワルだった時期もありますが普通に育ってきたつもりです。

 あの出来事を除いては・・。


「これは・・この部屋は何だ・・」
「狂ってますね・・」
 品川のビルの谷間に取り残された小さな倉庫。そこは戦後間もなく造られて、すぐそばが海だった。当然、海運のための倉庫として造られたものだったが、埋め立てが進み陸に取り残されるカタチとなる。周囲に近代的なビルが建ち、結果としてできあがった時代の遺産のようなもの。

 昭和五十六年、春のことだった。ビルの谷間の古い倉庫は持ち主が頑として手放さず、陸運のための小物の倉庫へと変化していた。
 上下二層の造りなのだが、それもおかしい。一階は天井が高く、ごく普通の倉庫であって中二階に管理室が設けられる。しかしなぜか、一階の奥に鍵のかかるドアで仕切られたスペースがあり、そこには血の赤に塗られた螺旋階段。地下へと降りるものだったが、降りた先に一階の半分ほどの広さのコンクリートの空間が広がって、その色彩が狂っている。
 血の赤、鮮やかな青、黄色、黒、毒々しい緑・・と、さながら絵の具をぶちまけたような壁・・天井・・床。ともかく、色の幾何学模様に迷い込んだような不思議な世界。前衛アートなのかも知れなかったが、いったいいつ頃できたものなのか。当時としては、まさに狂った感覚だった。

 その空間に、それもまた、黒、赤、黄色、三色の妙なパイプ椅子が並べて置かれ、それとは別にクッションのついた切り株のような丸椅子がいくつもある。
 パイプ椅子は椅子なのかどうかもわからない。ジャングルジムの一部分を切り取って、座面に白い化粧板が置かれている。その板がなければ、鉄パイプを組み合わせたオブジェのようにしか見えなかったことだろう。
 何らかの集まりのための空間であることは明白だった。
 そしてそんな場所で一人の老人が倒れ、救急車が出動した。

 ところが・・救急隊員は、そのあまりの異様さに悪魔的な匂いを感じて警察に通報した。
 倒れた老人は心臓麻痺で結局死んだのだったが、吐血しているわけでもなさそうなのに歯茎に血がこびりつく。さらに部屋の床のあちこちに、老人のアクシデントがあって慌てて掃除したのだろうが掃除し切れず、おびただしい精液と、飛び散った血液が見てとれた。救急隊員がそんな異常を見逃すはずもなく通報されたというわけだ。

「ほう・・この倉庫は借りているだけで事情は知らない? 地下はもともと別の誰かに貸していて、あなたはドアの鍵も持っていないというわけですな? その誰かの出入りを条件としてここを借りたということで?」
 倉庫の借り主はでっぷり肥えた中年男。倉庫は借り受けたものだった。持ち主の老人は生きてはいたが老人ホームに暮らしていて、ここしばらく出ていない。息子夫婦はイギリス在住の外交官で近々の帰国はなかった。
 倉庫には裏口があって鍵は共有とされていた。地下への螺旋階段がある区画へのドアの鍵だけが別管理だったということだ。
 しかしこの当時、監視カメラなどは行き渡っておらず、倉庫も古く裏口はビルとの隙間ということで、出入りを追う手がかりは得られない。

 鑑識の結果はすぐに出た。
「血は経血・・歯茎にこびりついた血も胃から検出された血も、つまりは生理の血だった・・胃からは女性のものらしき陰毛まで・・それも血は三種類の血液型。男性の体液のほうも、とても一人のものとは思えない・・おそらく数人・・」
 担当の梶村警部補は、当然ながら性犯罪を疑った。
 梶村とともに最初に踏み込んだのは、大学を終えて刑事課に配属されて間もない二十三歳の女性巡査、安本朋子。
 刑事課へやってきた鑑識の女性が去ってから、梶谷と安本は目を見合わせて沈黙した。
 若い安本は、おおよそを察してちょっと恥ずかしい。生理の血が陰毛とともに胃の中から検出された・・床に飛び散った多くの男性の体液・・あの場で何があったかは想像できる。

「しかし係長、老人の死因はあくまで心臓麻痺であり、他に死体が出たということでもなくて、さらに訴えとか被害届のようなものも出ていませんし・・」
「うむ、そうなんだよ。事件なのか、いわゆる変態どもが集まっていただけなのか・・ふふふ、わからん。どうすりゃいいのさ、この私・・けっ。おまえに任せる」
「えー、そんなぁ!」
 安本は困った。こんなことでは捜査にならない。と言って通報があったからには動かないわけにはいかない。

 倉庫の裏口のある路地は、古い街と新しい街の狭間であって、ちょうどいい抜け道として使われている。周辺を聞き込んだところで都会の路地は人通りが多く、他人のことには干渉しない。深夜ともなれば死角となって目撃者などいるはずもないことだった。
 しばらく張り付いてみたものの収穫はなく、相変わらず訴えもなく、どこかで死体が出た知らせもない。言ってみれば事件によく似た性的な何か・・それきり尻すぼみで消えていったことだった。


 私がその女性を見かけたのはプールでした。娘の魅力的なヌードを見ているうちに私もどうにかしないとと思うようになっていた。
 肥ってはいませんがタルんでることは確か。それで近くのスポーツ施設にあったプールに目をつけた。泳げるつもりでいたのですが、水着になるなんて何年ぶりのことでしょう。施設のスタッフは男性も女性もほとんどが若者で水着姿を見られることが恥ずかしい。
 あーあ、いつの間にかこんなになっちゃって・・というのが正直なところ。ちょっと泳ぐと筋肉痛で立つのも辛い。
 奮起しました。ウチの娘を目指して頑張るぞって。

 ですけどそこで、私は心の置き所というのか、自分の心が微妙に変化していることに気づいたんです。女は人前で肌を露出するといやおうなく性を意識する。夫と別れて十年あまり、そう言えば男性には目もくれずに生きていた。仕事でもすればよかったのでしょうが、父の退職金と母の生命保険とで働かなくてもやってこれた。私は娘を立派な女性に育ててやりたく、娘のことばかりを見つめてきたの。
 その小絵も高校生。パンティだってかなりなエロだし、下手に口を出すと言い負かされてしまいます。
 そろそろいいわ、私の人生を見つめ直そうと思ったときに、真っ先にタルんだヌードが気になった。もう一度恋ぐらいしてみたい。母親から女へと心がシフトしていたようなんですね。

 栗原朋子。私より七つ上の四十七歳らしいのですが、とてもそんなふうには見えません。背は低くて小柄でも乳房は張って、くびれてボン・・小悪魔的な肢体を持つ素敵な女性。色が白くて綺麗な方で、息子さんはすでにお嫁さんをもらっている。
 栗色に染めた長い髪。ジーンズでも穿いていれば、後ろからなら学生に見えるほどスタイルがいい。羨望です。あたしもそうなりたいと思ったわ。
 プールサイドを歩く彼女を私が見つけた。どきりとするほどハイレッグな競泳水着がよく似合い、女を誇るように堂々と歩いている。泳ぎが上手で見とれてしまった。彼女とはすぐに仲良くなりました。出会ったその日にお茶して帰った。

「高校大学と剣道で一応二段。泳ぎは警察学校だった頃に覚えたの」
「警察学校?」
「こう見えても刑事だった。もっとも五年ほどでしたけどね」
「結婚して辞めた?」
「そう、できちゃった婚だったしね、あははは!」
 屈託なく、明るく、奔放・・そんな彼女のイメージと職業が微妙に合わない。
「性格を改造したの」
「どういうこと?」
「嫌なものをいっぱい見てきた。人の裏側・・腐った死体も見たくない、吐きそうだったし・・」
「・・うん、それはそうかも」
「それまでの私はクソ真面目でつまらない女だった。空回りする正義感だけで生きていたようなもの。仕事を辞めたのも、そんな自分に嫌気がさしていたからよ。のびのび生きよう、こんなになったらおしまいだって・・殺されて埋められた白骨死体を見て思ったわ。そのとき素敵な彼がいて避妊せずにやっちゃった。ははは、それでいまの私がある」

 想像できます。普通の人が目を背けて済むものを、彼女はたくさん見せつけられてきたはずで・・。

「だけどアレね、流れる美で流美っていい名」
「そうかしら・・いまの私は、美が流れて消えちゃった」
「あっはっは! オモロイ! あなた好き! あっはっは!」
「・・そんなに笑わないでよ・・ふふふ」
 どんどん惹かれていく感じ。七つ上でこの美貌。女の先輩として尊敬できる生き方だと思ったし。

 またたく間に三ヶ月が過ぎていき、私は朋子と一泊の旅に出た。朋子流美と呼び合う仲になっていた。彼女のクルマで北陸は能登の温泉へ。いつもいつも父ばかりが泊まりがけで遊んでいます。
 女同士二人の旅なんて、考えてみればなかった気がする。行くなら大勢でわーっと出かける。大人が二人のしっとりとした旅。朋子は奔放でもレズではなかったし、ほんと普通の旅でした。
 温泉旅館に入ってのんびり。そんなとき朋子は言ったわ。

「流美って、ちょっと可哀想よね」
「あら何が?」
「言っていいのかどうか・・だってエッチないでしょう? オナニーでごまかしてる?」
 いきなりの直球。いつかそんな話になると思っていました。
「・・娘のことで精一杯よ」
「わかる。そうだと思うわ」
「そう言う朋子は?」
「滅多にないね・・旦那とは終わったよ。だって息子が結婚していないのよ。その歳になってニャンコしてたら気色悪いでしょ。女ってそんなものよ。だけど私は光ってる。あははは!」
 まさか不倫・・?

「違う違う、そうじゃない。いまさら決まった男なんてめんどくさいだけだもん。よかったら一度おいで。目からウロコなんだから」
 流美は息が苦しくなった。二十五年前のあの体験が、くっきり焦点を結んで蘇ってきたからだ。