2017年03月15日

絶望の愛(四話)


四 話


 あの夫が義父の不倫の子・・それもマゾ女に産ませた子・・。

 でも・・だから何よ。その不遇な弟に家を譲るために義兄は身を退いたって言うのかしら? 弘美に会わなければならなくなった。結婚したときすれ違いに離婚して出て行った前妻。会って確かめないと気が済まない・・しかし、そんなまっとうな思考は遠のく意識とともに弓枝の中から消えていった。
 素っ裸。後ろ手の手錠で自由を奪われ、激しく怒張する義兄のペニスを見せつけられて、膣を犯す太いディルドは狂ったように振動し、間欠する電気ショックがクリトリスを鞭打つようで・・意識が濁る・・屈するものかと思ってみても女の体は哀しいまでに反応している。

「んむむ・・嫌ぁ、もう嫌ぁぁ!」
「家のことなど忘れてしまえ、思うまま感じるままに生きることだな。それもおまえよ・・ふふふ」
 康平の両手がすっと乳首に近づいて、乳輪をすぼませて尖り勃つ二つの乳首をそっとつまむ。弓枝は目を血走らせて義兄の指の動きを怖がった。感じたくない。感じてしまう。夫以外の男に嬲られイッてしまう。
 転がすようにそっと愛撫される乳首・・そのときクリトリスに電流が突き抜けて、内臓までが震えるような振動が性器の深部までを刺激する。塗り込められた媚薬の力も失せてはいない。

「うっ! くぅぅぅ・・うむむ!」
「どうした弓枝、素直になれ。感じたままを表現しろ」

 弓枝は泣いた。涙をまき散らし、腰をクイクイ入れて、しなしなと裸身をくねらせながら襲い来るピークと戦った。まっすぐ見下ろす男の視線。康平の微笑みには黒い企みが隠れている。わかっているのに、せめてやさしくされたいと思ってしまう。ああ感じる!

「あぅ・・ぁ・・お兄様、お願いします、もうダメ・・許して」
「ダメとは?」
「だって・・だって・・あぁイクぅ・・もうダメぇーっ!」

 康平は声もなく笑うと、ソファの肘掛けに置いた小さく黒いスイッチボックスに手をやった。
 オフ。振動も電気ショックも停められて、なのに弓枝の膣は求めるようにディルドを喰い締め、尻肉が締まってはゆるんで波打って、脂汗に濡れる全身を震わせた。
 そしてその震えが退いていくとき、意識がかすんで弓枝はコンクリートのフロアにしなだれ崩れた。
 康平は立ち上がり、後ろへ回って手錠を許す。ようやく解放された両手なのにだらりと垂れて動かせない。目は開いていたし意識もかろうじて残っていた。にもかかわらず弓枝は心が消え失せてしまっていた。

 長い髪をつかまれて空間の中央へと引きずられ、両方の足首に黒く幅広の革ベルトが巻き付けられる。天井から下がる鉄のフックがモーター音をくぐもらせて降ろされて、足首のベルトの左右別々にあるステンレスの鉄環にワイヤーが通されて、鉄のフックが反転して上昇していく。
 そんな光景を見ていながら、快楽に溶けた女の心は無抵抗。混乱しきった感情は、むしろ静かに凪いでいた。

 両足先がフロアを離れた。自由になった両手をついて引きずられる体を追いかけてみるのだったが、尻が浮き、背中が浮いて、頭と手だけで支えるようになってしまう。
 上昇するにつれて脚が開く。身をよじってもがいても体はさらに浮き上がって開脚を拒めなく、だらりと垂れ下がった手先だけがかろうじてフロアに触れる。
 Yの字の逆さ吊り。汗にヌラめく逆さの裸身が右に左にしなり歪んだ。
 腰のところで悪魔のパンティを固定する南京錠が外されて、締め付けがゆるんだと思ったとき、打ち込まれたディルドが腹に溜まった淫水に押し出されるようにドロリと抜けた。
「ほほう、あさましいものよ・・牝の欲情そのものだ」
 それは女らしい粘液の体裁さえも保てずに、膣口から汚物のように湧き出して、アナルを越えて尻の谷間へ、デルタの毛むらをくぐり流れて腹にまで。ドロドロとしたたり流れている。
 あさましい性器を覗いて康平が言う。
「太いものをくわえていて、ぽっかり穴が開いているぞ」
 弓枝は、せめて動く両手で乳房を抱いて泣いていた。

 逆さに見える康平が壁際から黒い革の房鞭を手に取った。革一枚が厚そうで鞭が長く、それにペニスのような握りがつく。このとき康平はガウンさえも着ていない。男性器を屹立させたままの男の全裸。弓枝は破滅を思い描いた。
 鞭は、革幅一センチほど、長さは一メートルもあっただろうか。康平はYの裸身の後ろへ回り、虚しく濡れる若妻の秘部を覗くと、鞭をばさりと股間にかぶせた。
 それだけの刺激で女の裸身に痙攣のような震えが走る。開かれた尻肉が締められてくぼみをつくり、一瞬後にゆるめられてブルルと震える。扇情的だ。
「貞淑など捨ててしまえ。手を下げろ、隠すな。躾の鞭と仕置きの鞭は違うぞ」
「嫌です、鞭なんてそんな・・お願いお兄様、もうやめて」
 背後に立つ康平。鞭先が重力の重みで性器をこすって尻の谷へと引かれていって、嬲られた余韻なのか、弓枝はあっと呻いて目を閉じる。

「思うままによがれ」

 ふわりと鞭の動く黒い影がフロアをよぎり、刹那、バシーッと重い音を響かせて、開かれた尻肉の両方を横殴りに打ち据える。
「くっ!」
 尻が締まり、腹圧が上がったことで、閉じきれない膣の穴から淫水があふれ出す。
 バシーッ!
 二度目は強い。
「隠すなと言ったはずだ。乳房を揺らせ」
「はい、お兄様、お願いですからひどいことはしないで。お兄様を疑ったりした私が馬鹿でした、ごめんなさい」
 何としてもこの場をしのぎたい。弘美に会って確かめて、嘘だったら訴えてやる!
 康平はほくそ笑んで言う。
「俺を疑っただと? ふふン、どうでもいいさ・・あの家のことなどどうでもいい」
 それからバシバシと二打尻を打った鞭先が前へと回って、乳房を二打。革の先が乳首を切るようで弓枝はとうとう悲鳴を上げた。
 逆さに吊られて血が下がり、顔が膨張するような熱を感じる。

 革の先がふらふら揺れて背後へ回り、縦振りのフルスイングが、開ききった股間を襲う。ベシーッと濡れ音が混濁する。
「きゃぁぁーっ!」
 Y吊り裸身が前後に揺れる。尻を絞ってくぼみが深く、ゆるんでたわたわ波紋を伝える。
 尻を打たれ、乳房を打たれ、腹を打たれ、腿の裏を直撃し、その合間に一打ずつ厳しい性器打ちの鞭がくる。
 ベシーッ!
「あっあっ! ぅぅン・・ンっふぅ・・」
「ほうらいい。鞭によがる女になれ。もっと甘く泣くがいい」

 そんな馬鹿な・・痛みは痛みでなくなって、激しい愛撫に変化している。

 二十打・・三十打・・全身真っ赤・・打たれるほどに悲鳴が消えて、くぐもった呻き・・喘ぎ・・女の甘い声に変化している!
「どうやらよくなってきたようだな。女とはそういうもの。これは愛だ・・」
 どうやら鞭が許される。コンクリートのフロアにバサっと落ちた革の塊。鞭先が汗と淫水で黒光りしている。
 ウインチが操作され、さらに上昇して脚が開く。康平の激しい勃起が目の前に睾丸から寄ってきて、凝視したその瞬間、思ってもみない舌の愛撫が鞭打ちにひしゃげたラビアへやってくる。
「おぅぅーっ! いい、あぁン、いいのぅ、感じますぅーっ!」
「そんなにいいか?」
「はいご主人様、いい、ああイッちゃうぅーっ!」

 弓枝はワラにもすがる思いで、眼前に突きつけられる義兄の勃起にむしゃぶりついた。男の尻に手を回して抱き締めて、無我夢中にペニスをしゃぶる。
 康平の舌が濡れそぼった淫ら汁舐め取るように性器を這い、すぼめた口でクリトリスを吸い上げられて、弓枝に屈服のときが訪れた。
 意識が白く飛んでいく・・男性器を喉奥に突き立てて声も出せず、弓枝のY字裸身が激しく痙攣して果てていく。
 恐怖だった。これほどの絶頂を知ってしまえば私は性奴隷にされてしまう・・終わった・・もう終わったと、消えていく意識の中で弓枝は思った。
 口の中におびただしい射精を受け取って、嚥下して、白くなった意識が一気に黒くなって幕引きだった。

「子を成すことのない精液だ。たっぷり味わうがいい」
 朦朧とする意識の中で、そんな言葉はひどく不思議な意味を持って、弓枝の心を覚醒させた。放心しながらも弓枝は顔を上げて言う。
「・・どういうこと?」
「精虫が少ないそうだ。弘美は子供を欲しがったが何年経ってもできない。それで俺は密かに自分の精液を調べてみた。いわゆる無精子症。妊娠させることはないだろうと医者に言われた。ところが弘美は妊娠した。誰の子だ? 問い詰めたら白状しやがった。親父が元気だった頃、あのクソ爺め、弘美に手を出そうとしたそうだ。それを啓史が救い、それからヤツらは仲良くなった」
 愕然とした。弓枝は今度こそ考える気力を失った。
「しかし弓枝、弟を悪く思うな。その頃のおまえはまだ弟と知り合ってはいなかったはずだ。弟はあの家に住んでいた。何かの折に家を訪ねた弘美に親父が手を出し、啓史が間に入ってとめたということ。当時すでに弘美と俺は冷えていた。弘美が啓史を愛したとしても、弟はおまえを裏切ったわけではないからな」
「・・それが離婚の原因なんですね?」
 康平はちょっと苦笑して、くだらんと言うように首を振った。
「それもあるということさ」
「そのことを主人には?」
「もういい・・くだらん・・」

 康平は、いつも通りのつかみどころのない男に戻るかのように口を閉ざし、ウインチがそろそろと降ろされて、弓枝は康平に頭を支えられ、そのまま膝に抱かれるように横たえられた。

2017年03月14日

絶望の愛(三話)


三 話


 防御姿勢をとる前に踏み込まれてしまった。
 確かに艶子の夫はこの家の長男であり、相続放棄などという身内の些末を知らない者たちにすれば家を継いであたりまえ。頼みの次男が倒れたいま、それを訴えたところで法的にどうなのかは弓枝のうかがい知れないことだった。

 今夜から同居する。寝耳に水。長男の嫁をふりかざされては次男の嫁はどうしていいかもわからない。追い返してしまえばいい。けれどそれで恨まれないか。あべこべに訴えられることになりはしないか。考えてみれば結婚して夫の実家に住んだというだけで家の内情まではよく知らない。
 それよりいまは悲劇に見舞われた夫と老いた父だけは何としても守らなければならない。弓枝の中にとっさに浮かんだのはそれしかなかった。

 急なことで支度はできていなかったが、とりあえず一階に四部屋あるうちの、正太郎の居場所とは真逆の隅の部屋へと通す。そこは客間で、床の間を別に十畳あって普段は使われていないひっそりとした広間。
 艶子は、まさに手下のような留美に言いつけて荷物を運ばせ、弓枝の後について部屋へと向かった。荷物はもちろん艶子のクルマ。今日のところは赤い大きなスポーツバッグがひとつらしく、荷物を取りに出た留美はすぐに追いすがって後につく。
「今夜のところはここを使ってください。それからのことは考えますから」
 弓枝は震える思いをひた隠しに平常を装った。二階にある三部屋のうちの二間は弓枝と夫の部屋。もうひとつ四畳半があったのだが、そこは衣装部屋のようにされて夫婦の物置きとして使っている。

 十畳の客間は和室で床の間があり、桜花の掛け軸が飾られて西条家の威厳をあらわすような造作。和室にはミスマッチの赤い大きなスポーツバッグを持ち込んだ留美が先に部屋へと入り、荷物を置く。間に弓枝、最後に艶子が敷居をまたいだ。
 やおら艶子が言った。
「疑うのは勝手よ。だけどそれにしたって長男の嫁に対して失礼なんじゃないかしら。主人にしたって心配だからあたしたちをよこしたの。こんなことになってあなた独りでどうするつもり? 義父さんはあんなだし、これで啓史さんにもしものことがあれば、この家そっくり丸取りよね?」
 静かな声だったが厳しい眼差しをぶつけながら艶子は弓枝に迫り寄る。
 言葉も返せないまま一歩二歩と後ずさると、いきなり後ろから留美の両手が脇の下をくぐり、羽交い締めにするにして、弓枝の二つの乳房をシャツの上からわしづかみにした。

「な、何をするんですか!」
 顔色が青くなる。身をよじって逃げようとするより先に、艶子の強い声が飛んだ。
「弓枝! これは愛なの! こうするしかないのよ!」
 弓枝は呆然とするだけで意味が解せない。
 このとき弓枝は、二人の突然の来訪に着替える間もなく、普段着のジーンズミニに白いTシャツを着ていた。後ろから組み付かれて乳房をわしづかまれ、声を上げようとする前に、艶子の手がスカートの前をたくし上げて腿の間へ差し入れられる。
 パンティ越しにデルタと性器をつかむように迫られて、あまりの急変に弓枝は声も出せなくなった。全身に悪寒がはしる。
 腿根を閉ざして腰をよじり、指から逃げようとしたのだったが、艶子の二つの眸が眼前に迫っていた。

「おとなしくしないと承知しないわよ! 取り残されたあなたへの愛。裏切りは許さないから!」

 声高に言われ、それでいて涼しく美しい瞳だけに、弓枝は魅入られて身震いした。
 後ろからまつわりつく留美にTシャツをまくられて普段着のベージュのブラが跳ね上げられ、Cサイズの若い乳房がこぼれ落ち、留美はその白い柔肉を揉みしだきながら、両方の乳首に爪を立ててツネリ上げる。

「ひぃぃーっ!」

 激痛。そして直後に、前からパンティをくぐった艶子の手がデルタの毛むらを撫で上げて、カギ状に曲げた指の強張りが渇いた淫裂へと侵入する。
 弓枝は血の気が失せて顔が白い。鼻の頭の触れ合う距離で艶子は弓枝の眸を覗きながらにやりと笑った。
「ほうら熱い・・こうされて震えちゃうでしょ・・ふふふ」
 恐怖で声が出ない。逆らったら何をされるかわからない。「耐えろ」と言った義父の言葉が思い出された。
 息をするのも苦しい。虫の息。弓枝はただ呆然として、見据える艶子の瞳に見入っていた。
 閉じたラビアをほぐすように指がまさぐり、クリトリスが弾かれる。逃げようとしてちょっとでも尻を振ると、密着する留美が尻の強張りを感じ取って即座に乳首をツネリ上げる。
 力が抜けた。絶望の震えが全身にひろがった。

 と、そこで一度、艶子は股間から手を抜いて、浅黄色のショルダーバッグに忍ばせた白く小さなチューブを取り出した。淡いピンクのゼリーのようなものを、ほんの少し人差し指にすくうと今度こそ残忍に微笑んで、ふたたびパンティの奥底へと差し込んだ。

 クリトリス・・ラビア・・膣口と指をまわして塗り込めていく。

「強烈な媚薬よ、欲しくて欲しくてたまらなくなりますからね」
「・・嫌です、ねえ嫌ぁ、嫌よぉ」
「ふんっ。じゃあこれは何かしら。アソコがじっとりしてきたわ。嫌なのにどうして濡らすの。おとなしくなさい。これは愛なの。いいこと、これは愛なのよ、いまにわかる」
 後ろから乳房を手荒く揉まれ、乳首をコネられ、前から性器を嬲られる。
 白かった弓枝の頬が性的な熱を持って紅潮しだし、息が熱く乱れ、腿が少しずつだが開いていく。
「そうそう、いい子よ・・ほうら濡れる・・ほうら気持ちいい・・ンふふ」
「はぁぁ・・あン・・んっんっ・・」
 心を串刺すように見つめる艶子の眸から視線が外せず、まるで催眠術に堕ちていくように意識が崩れ、肉体だけが反応しだす。
「もうクチュクチュじゃない。ほうら濡れる、もっと濡れちゃう。オツユがあふれてきたじゃない。よく感じるアソコだわ。ほうらいい・・気持ちいいわね・・」

 間断なく喘ぎが漏れた。目眩のような性感に良妻の輪郭を崩されて、弓枝の本性が剥き出しにされていく。
 声を噛む。義父に聞かれる。それだけはダメだと弓枝は思った。
 どうしたことか腰が動く。濡れる性器を艶子の指にこすりつけるようにクイクイ腰が入って喘ぎが漏れる。
 媚薬が性器で暴れていた。これほどの快楽を弓枝は知らない。花園すべてが熱源となり、愛液をとめどなくあふれさせ、総身フルフルと微動する。

 艶子の目配せで後ろからTシャツを抜き取られ、ブラが捨てられ、ミニスカートとパンティが事もなげに下げられて足先から抜かれていく。弓枝は抗う気力も失せていた。狂った性感に紅潮する若妻の全裸。
「ふーん・・思ったよりもいいカラダね。これでもう悩むことはなくなった。女は愛を受け取って生きるもの。それがどんな愛だろうと、私ならそうするわ」
 反撃できないままに裸にされた。その両手を留美に後ろへ取られ、冷たい金属の手錠。気づいたときには腿はがに股に開かれていて、縮れ毛の濃いデルタをまくり上げるようにして、突き刺す艶子の指を求めた。

 しかし艶子は指を抜き、ヌラヌラの指先を弓枝に突きつけると、穏やかに微笑んで、そっと二つの乳首に手をのばす。留美がしたように最初はコネて、いきなり強くツネリ上げる。乳房が乳首で吊られて円錐状に上を向く。
「ぅぃぃーっ、痛いぃーっ!」
「可哀想ね、痛い痛い・・もっといい思いをさせてあげるね。さあ留美、穿かせておしまい!」
「はい女王様。ふふふ、可哀想なことになる・・」
 女王様・・そんな言葉に弓枝はあやうく意識を飛ばしてしまいそう。恐怖の意味が性的な責めへと決定的に変化した。

 背後でしゃがむ留美。弓枝の足先に下着を穿かせるような感触が伝わった。
 足先からふくらはぎ・・太腿を滑った冷えた感触が尻のふくらみへ近づいて、留美は尻肉を開くようにして後ろから性器を覗き込み、冷たくソフトなその先端がラビアに触れたと思ったとたん・・。
「あぅ! あぁーっ!」
 それは太いペニスとなって無造作に膣口へ突き立った。ヌムヌムと奥底までめり込んで、その後を追うように革の感触が尻へと引き上げてられて、すぼまったウエストでバックルで固定され、小さな南京錠がかけられる。
 乳首に激痛。弓枝は抗うことができなかった。

「さあいいわよ、いまはまだそれほどでもないでしょうけど、向こうへ行けば狂うから」
 艶子は留美に目配せすると、留美だけを家に残し、全裸にTスタイルの黒い革のパンティを穿かされただけの弓枝を外へと連れ出した。東京の街中にあって里山のような林に周囲を閉ざされ、家はさながら森の中の別荘のよう。
 艶子のクルマは国産の大きなセダン。そのトランクを開けられて、素っ裸の弓枝は尻をパンと叩かれて放り込まれる。
「やさしくされたいなら暴れないことよ。さもないと拷問ですからね。向こうへ行けば歓びが待っている・・あははは!」
 これは何かの間違いだ・・悪い夢だ・・弓枝は凍り付いていた。

 走っては停まる、また走っては停まるところから、高速道路ではなかっただろう。府中を出て三十分ほどだったから、それほど遠くへは来ていない。
 クルマが今度こそ停まる。エンジン音が消えて、しーんとした静寂。
 トランクが開けられた。漆黒の闇の背景に鬱蒼とした森がひろがっている。西条の家を囲む林とは違って樹木は太く枝葉が張って、どこか樹海の中のようでもあった。
「さあ出なさい」
 後ろ手の手錠をつかまれ、トランクの縁に脚をかけてころがり落ちると、地べたには下草が薄くひろがっていた。
 西条の家とは比べものにならない小さな家・・屋根の平らなコンクリートの建物だったが、窓の位置から造りは住まいかと思われた。
 そして、停めた艶子のクルマの奥に縦列でもう一台。白いベンツが置かれてあった。
 艶子は、全裸の弓枝の背を押すと、建物の正面には向かわずに、ベンツを回り込んで裏へと弓枝を引き立てた。星空の闇夜に白い女体の蠢きが生々しい。

 家の裏には、別棟とされたコンクリートの納屋のようなものがあり、ダークシルバーに塗られた鉄の扉がついている。家に比べてこちらはずっと新しい。扉は軋むこともなく軽く開き、入ってすぐ地下への階段となっていた。踊り場のない直線的な階段が地獄への道のように薄闇の底へと続いている。
「連れてきたか」
「ええ、素っ裸でね」
 艶子に背後を封じられて階段の中ほどまで降りたとき、闇の空間に眩いほどの明かりがついて男の声が響いてきた。家の側からも地下へ降りられるようになっている。
 黒いロングガウンを着た長身の男。夫の啓史とは似ても似つかない彫りの深い顔立ち。自由業らしい肩までの長髪は、しばらく見ない間にシルバーアッシュに染められていた。

 西条康平、四十四歳。こうなるだろうと弓枝は思った。

「じゃあ後はお好きになさいな。あたしは戻って留美といます」
「うむ、親父のこと頼んだぞ」
「わかってますって、可愛がってあげるから」
 そんなことを言い残して艶子は踵を返して去って行く。
 地下空間はまだ新しいコンクリートの空間で思いのほか広かったし、天井も高く造られてある。ここはいったいどういうところか。
「いいカラダだ、こっちへ来い」
 しかし弓枝は動けない。コンクリートの天井には鉄のフックの下がるウインチがあり、そのほか磔台・・壁際には麻縄や無数の鞭・・三角木馬・・あきらかに普通ではない淫虐の臭気に満ちている。
 康平は、そんな空間の中に置かれた黒いレザーのソファに座り、手の中にある小さな黒いボックスを操作した。

「きゃぅ!」
 膣に打ち込まれたディルドが眠りから覚めるように激震し、ほとんど同時にクリトリス周辺を強烈な電気ショックが襲う。
「くぅぅーっ! きっきぃぃーっ!」
 形のいい乳房を暴れさせ、白い裸身をくの字にしならさせ、極度の内股となって身を屈める弓枝。しかし責めはすぐにやんだ。
「これが嫌なら素直になって従うことだ。いいな!」
「ぅ・・う・・」
 応えられずに見つめていると即座にまた性器に悪魔の責めがくる。
「きぃぃーっ! わかりました、ごめんなさい! ひぃぃーっ!」
 振動も電気ショックも最初のときとはパワーが違う。全裸の弓枝は乳房を弾ませてぴょんぴょん跳ねて、直後に床に崩れ落ちた。
「わかったら来い」
「はい・・でもお義兄さん、どうして・・」

 弓枝は泣きながらよたよたと歩み寄ると、指差された椅子の前へと膝から崩れた。康平の二つの瞳は透き通り、地下の薄青い光線を受けて煌めいている。悪魔の眸色だと弓枝は思った。
「もっとそばへ」
 そう言いながら康平は黒いガウンの帯を解いて前をはだけた。ガウンの下は熟した男の全裸。夫の康平は背丈は普通でも筋肉質。なのに義兄は、背が高くてスリムな裸身。何より顔立ちがまるで違う。兄弟とは思えなかった。
「しゃぶれ」
「ぁ・・ぁぁ・・」
 康平の陰毛は臍の下まで生え上がり、剛毛の中から萎えたペニスが垂れている。弓枝は義兄の裸身から目がそらせない。
 康平が手の中の黒くて小さな電池ボックスを見せつけた。
「はい、わかりました、はいお義兄様、もう逆らったりしませんから」
 体ごと股間にぶつかるように夫以外の萎えたペニスを口にする。ほおばって亀頭を舐め回し、しだいに充血してくる凶器を恐れながらも奉仕した。

「おまえは何も知らんのだ、俺のサディズムは親父ゆずりよ」
 弓枝は勃起しだした康平をくわえたまま顔を見上げた。
「俺には妹がいたが幼くして死んでしまった。それでそのとき、親父は囲い者だったマゾ女に産ませた子を引き取って育てようとした。それが啓史だ。くだらんのだ。あの家は何もかもがくだらん。俺は出た。関わり合いになりたくない。財産などに興味もない。しかし啓史がこんなことになってしまえばしかたがない」
 その意味がすぐには理解できない。ペニスから口を離して弓枝は言った。
「・・そのことを弘美さんは?」
「もちろん知ってはいるが、あいつとの離婚は質が違う・・さあ狂え弓枝、おまえはもう俺の女だ。ふっふっふ!」
「きゃぅ! ひぃぃーっ!」
 手の中のスイッチが弓枝に破滅を突きつけた。弾かれたようにペニスをしゃぶるが悪魔の責めは終わらない。
「むぐぅ! むぐぅーっ!」
 イクイクと叫ぶがペニスが喉へ突き立って声にならない。
 錯乱する快楽・・もう何も考えられない・・意識が白く飛んでいく。

2017年03月12日

絶望の愛(二話)


二 話


 それにしても正太郎は、弓枝が家に入ってからの一年の間にずいぶん話せるようになっていた。最初の頃は声を発するだけで言葉にならず、伝わらない思いに苛立って怒りだしたりしていたもの。
 弓枝は、哀しいまでに老いた白髪頭を撫でてやった。七十九という歳よりも寝たきりの暮らしが老いを進めているようだ。
「ぅぅむ・・たへろ」
「え? 耐えろって言った?」
 正太郎は少し動く頭を上げてうなずいた。長く看ていると不確かな言葉でも通じ合えるようになる。
「ねるっておら」
「狙っている?」
 ふたたびうなずく正太郎。
「この家を?」
 夫の事故から気が動転してそこまで考えてはいなかったし、弓枝にとってそんなことはどうでもよかった。

 そのことについては夫とも話していた。現代の東京に千坪ものまとまった土地を持てば資産価値は計り知れない・・と思うのが当然だろうが、それがちょっと難しいと夫は言った。
 千坪のうちの八割は昔からの里山であり、府中市の保存林に指定されて勝手なことはできなくされていたし、二百坪の家の敷地もその緑の只中にあり、東京の緑化が計画される時代にあって景観保護の観点からも逐一役所に報告しなければならないからだ。処分するとなれば市が買い取ることになるのだろうが、不景気のいま市の懐も豊かではない。

 しかし言われてみれば、あの狡猾な義兄夫婦ならやるだろうと思えてくる。
 義兄の康平は金銭への執着心がないようで相続を放棄していた。もっとも背負ったところで莫大な相続税がのしかかるだけ。切り売りしようとしても難しいなら身を退いたほうが得策だろう。
 そういうことまで実家の一切を弟に押しつけておきながら、旗色が変わったと思えば乗り出してくる。沼田留美などという子飼いの女を送り込んで・・と思ったとき弓枝はハッとした。迂闊に家を空けられない。留守中そこら中を探っているかもしれないからだ。
 家屋敷の権利証や預金通帳まで。それらは義父が倒れてから弓枝の夫が管理していて、弓枝は見たこともなければ置き場所も知らなかった。夫の実家ということで遠慮していたと弓枝は思う。

「そうね・・あの女が何してるかわからないわね」
 ところが正太郎はちょっと微笑んで言う。
「だいじぶ・・」
「大丈夫? どうしてそう言えるの?」
「ぎんこ」
「銀行?」
 そうか、銀行の貸金庫。夫はそこまで考えて大切なものは隠してある。安心して面色の変わった若い嫁に、正太郎は微笑んで言う。
「ゆいごむ」
「遺言? ねえお義父さん、遺言みたいなものが残してあるの?」
「わる・・びんごし・・」
「弁護士さんに預けてあるのね?」
 正太郎はうなずいて、穏やかだった眸を少し厳しくして言うのだった。
「こうへには・・やらん・・ゆるへん・・」
 康平にはやらん・・許せん。
「うみえは・・かぁいい・・すまむな・・」
 弓枝は可愛い・・苦労をかけてすまんと言っている。

 弓枝は涙の出る想いがした。結婚して家に入ったとき、正太郎は体がダメで言葉もダメ。最初のうちは知能もダメだと思っていたのだったが、頭そのものははっきりしていた。時とともに理解できるようになっている。
 それが嬉しい。私のすることをちゃんとわかっていてくれる。
「お義父さん、嬉しいよ私、啓史さんの嫁だってわかっててくれたんだね」
 正太郎はまたうなずいて言う。
「いいよむはんだ・・あらがと・・」
「お義父さん・・私の方こそ」
 いい嫁だ、ありがとう。このときの弓枝にとって何ものにも代えがたい理解者だった。夫がもし脳機能を失えば、この義父だけが頼りだと考えた。
 ところが正太郎は、またしても考えてもみなかったことを言う。

「もしものろき・・」
「うん? もしものとき、どうするの?」
「ひろむを・・たよら・・」
「ひろむ? 弘美さんを頼ればいいのね? 前の奥さんの弘美さんでしょ?」
 正太郎はうなずいた。長男の康平の前妻である。
「ひろむには・・べつのゆいごむ・・わらしてあろ」
「別の遺言を渡してあるの?」
「いいよめらった・・こうへのばかやろむ・・」
 いい嫁だった・・康平の馬鹿野郎・・。
 力強い言葉だ。それもまた弓枝にとっては救いだった。
 正太郎が生きているうちはいい。夫が死ななければいい。もしも両方を失えば独りで家を守っていかなければならなくなる。
 弓枝はできるだけ早く弘美に会っておこうと考えたのだが、相手が静岡ではこちらからは動けない。夫との恋人時代に何度か会ったことはある。穏やかでやさしい女性だ。

「ねえお義父さん、電話番号わかる? 弘美さんの電話よ?」
「むぅ・・そこら・・」
 古い家の奥の八畳には、古い整理箪笥、昔ながらの文机、そして亡き義母の三面鏡と古いものが置かれてあった。いくら留美でも、当人の前で家捜しするような真似はできないに違いない。
 正太郎は桐でできて木が黒く錆びてしまった整理ダンスへと視線をなげた。
「しらのひきらし」
「下の引き出しね?」
「てとうがあろ」
「手帳?」
 湿気を含んで動きにくい引き出しを開けると、きちんとたたまれた古い服の間に黒皮の長手帳がはさまるように置かれていた。
「これ?」
 正太郎はうなずく。
 ぱらぱらとめくっていくと、紙の黄ばんだ古い手帳から白く小さな紙がはらりと落ちた。まだ新しい紙だった。
 吉村弘美。あった、これだ。

 正太郎の前で即座に携帯を取って電話する。
 吉村弘美は、弓枝の夫より一つ歳下の三十八歳。二十九歳で康平と結婚するまでは大学病院に付属する薬局に勤めた薬剤師だったのだが、結婚して仕事を辞め、離婚してからは静岡は沼津にある実家の食堂を手伝っていた。
 電話の相手先の番号は食堂で、弘美が電話を受けたのだった。
「・・お義父さんがそうおっしゃられるのね?」
「そうなんです、いま義父のそばで喋ってます。じつは主人が事故で・・」
 事情を話すと弘美はひどく驚いたようだった。離婚した夫の弟なのだから当然だろうが、弘美は何も知らされてはいなかった。
「あの人たちならやりかねない、そういう人たちだから。ええ、確かに預かってますし弁護士さんのことも聞いてますから。そういうことなら、いまこんなことを言うのは気が引けますが、私にも遺産を少し分けると言ってくれて・・じつはすでに孫のためにってお金をいただいているんですよ」
 弓枝は携帯を耳にあてながら正太郎へと目をやった。携帯から声が漏れている。正太郎は微笑んだ。
「いまお義父さん笑ってます」
「ふふふ、ええ、わかりました、何かあれば連絡してね、私にできることはしますから」
 目の前が明るくなった気分がする。

 正太郎に軽く昼食を食べさせて、介護サービスがやってきて週に二度の入浴介助。さっぱりした正太郎は、今日はとりわけ顔色もよかった。七十九歳でぴんぴんしている人はいくらでもいる。脳機能さえ少しでも良くなれば正太郎は元気になってくれるはず。
 弓枝は介護用のベッドの背を倒して体をまっすぐ寝かせると、ベッドの左側に膝をついて、正太郎の体のすぐ横に頬を添えた。
 かろうじて動く左手も一年前よりはるかにしっかり動いてくれる。寝たきりの生活で骨の浮き立つ細い手がゆっくり動いて弓枝の頬を撫でている。
「お義父さん、心強いわ。啓史さんがもしって考えると、独りでどうしていいのかわからない。元気になってね、きっと」
「うむ、わしは死なむ」
 正太郎は穏やかに微笑んで、若い嫁の頬の感触を楽しむようにうっとりと目を閉じた。
「寝ちゃった?」
 返事がない。弓枝は年老いた子供のような義父にたまらない慕情を覚えた。枯れた手をそっと握ってTシャツの胸に引き寄せる。ブラの上から押しつけてみたのだったが指は少しも動かなかった。

「ごめんなさい、お義父さん、お荷物扱いする心がどこかにありました・・ごめんなさい・・」
 枯れ葉のような手をそっとベッドに置いてやり、薄いタオルケットをかけて部屋を出た。

 義兄の康平は、弟がいるから家には関わらない。父親がこんなで弟までがそうなれば・・つまりは小娘の嫁が一人。どうにでもなると思っているのだろう。
 沼田留美をよこすと聞いて、とりあえずほっとした自分が馬鹿だった。明らかに普通の人じゃない。人慣れしている。スレた感じは隠せない。
 弓枝はそれまで義兄夫婦の暮らしぶりなど無関係なこととして夫を通じて聞かされていただけだった。
 後妻の艶子という女・・義兄の弟子としてシナリオを学んでいるという沼田留美・・そしてもちろん義兄そのものもどういう人なのかよくは知らない。
 強い夫に守られていたことを痛感する。もしもいま独りになったら、この家にどこから手をつけていいかもわからない。そういう意味でも義兄の前妻と接点ができたことは大きかった。

 しかし、その夜。弓枝の運命を決める出来事が起こるのだった。

 夕刻になって古い家をつつむような緑の里山に薄闇が忍び寄る頃、沼田留美と、そして康平の後妻、艶子が二人してやってくる。
 留美は午前中のミニスカート姿とはうって変わった淡いブルーのショートドレス。しばらくぶりに見る艶子のほうは白いパンツスタイルだったが、金糸の刺繍も鮮やかなピンクのTシャツで、さすが元芸能人といったムード。しかも一見して格差のある態度・・若い留美を人形のように扱っていると弓枝は感じた。
 性的に躾けられた人形・・二人はレズ? どうしてそう感じるのか、そうとしか思えなかった。
 正太郎や弘美と話していたことで、どうしてもよそよそしくなってしまう。結婚したとき新しくした白いダイニングテーブルに紅茶を出して、弓枝は二人に立ち向かう。警戒する。弱みは見せられないと内心思った。

 なのになぜかドキドキする。性的な緊張だと自覚した。

 弓枝は女優だった頃の艶子を知らなかったが、さすがに垢抜けて、それでなくても美しい姿が次元の違う女性美に思えてくる。艶子はまだ三十二歳と若く、気品にあふれているといった感じ。背丈は百五十センチ台と小柄だったが、それだけに女らしくてクラクラするほど。やや赤い不思議な茶色に染めた長い髪。タイトフットの白いパンツがヒップラインを強調していて、胸元に金糸で刺繍の施された薄いシャツにレースの白いブラが透けている。
 魅入られるほど美しいとしか言えなかった。

 そしてまた沼田留美だ。午前中の留美には嫌なものを感じたが、艶子の前で留美は静か。あらためて見ると、こちらもまた美しい部類に入るだろう。艶子よりも背が高いのに小さく見える。艶子に可愛がられていることが一目で見抜けるほど、艶子の前で留美は可愛い女性になっている。淡いブルーのショートドレスも、タイトフィットでありながら嫌味はなく、一瞬にして弓枝は、布地に下着のラインがないことに気づいていた。
 二人揃って映画から抜け出たような洗練されたムード。しかしだから弓枝は構えてしまう。住む世界が違いすぎる。私だけではとても勝てないと弱気になる。

 艶子が言った。鈴が転がるような綺麗な声だ。
「ねえ弓枝さん」
「あ、はい?」
 艶子はテーブルに手をついて、ちょっと身を乗り出して、弓枝の二つの眸をまっすぐ見つめた。その手が真っ白で、爪もピンクに整えられて綺麗だった。
「誤解しないでね」
「誤解って?」
 見つめられることが恐ろしく、弓枝は傍らに座る留美へと横目をやった。留美もまた穏やかに微笑んでいる。
 艶子は静かな声で言うのだった。
「主人は主人なりに、私には私なりに、いろいろあった二人が一緒になった。お金じゃないのよ。この家をどうしようなんて思っていない。相続がどうのなんて面倒はごめんだわ。主人は長男なのよ。啓史さんがこんなことになって心配するのは当然でしょ。私たちだって家族です。若い頃からいろいろあって女独りの孤独がどういうものかは嫌というほど知っている。心配なのよ、あなたのことが。可哀想に若いのにこんなことになっちゃって・・それでね、主人とも話したんですけど、ここに住もうと思ってるの。主人はほら、お義父さんとよろしくないようだから世田谷の家にいるけれど、近いんだし、私と留美はここでもいいかなって思うのね」
 同居するということか。
「・・留美さんも一緒にですか?」
「あら、いけない? こう見えても留美はいい子よ。ずっと前から知っていて私が主人に紹介したの、シナリオやりたいって言うからさ。うまく言えないけど留美がいてくれないと私が困るの。寂しくなっちゃう。ここはお部屋がいくつもあるんだから一つぐらい使わせてくれてもいいんじゃない」

 寒気がはしる。ゾクゾクするほど美しい艶子に迫られては拒めなくなっていく。
 夫の康平は確かに長男だし、他人が聞けば当然のことだと思うだろう。

 艶子はちょっと笑って言った。
「それとも・・私たちがいては邪魔かしら? この家を乗っ取ろうとか、悪気があって乗り込んできたと思ってるでしょ?」
「いえ、まさかそんな」
 面と向かって言えるはずもない。
「じゃあ信じていただける? そうなさい、悪いことは言わないから。大変なのはこれからよ、お義父さんに加えて啓史さんが戻ってくる。あなた一人では厳しいわ。私を姉だと思ってちょうだい。長男の嫁なのよ私は」

 それ言われると返す言葉が探せない。弓枝は、自分でも理解に苦しむ性的な震えを覚え、うなずいているしかなかった・・。

絶望の愛(序章~一話)


序章~一話


 夫の不慮の事故が私の何もかもを変えていく。
 恐ろしくも淫らな日々がはじまろうとしています。

 私の夫は西条啓史(けいじ)、三十九歳。
 私とは十歳違いの、やさしくて逞しい人でした。
 建築技師です。大手建設会社に勤め、現場監督として大規模マン
 ションを造っていた。
 鉄パイプで組んだ足場が崩れて九階相当の高さから転落。
 ですけど運良くというのか、ちょうどその下に建築資材の柔らかな
 ゴムシートなんかが積み上げられてあり、多少のクッションとなった
 らしく命だけは取り留めましたが、脳へのダメージは深刻でした。
 きっと生涯歩くこともできず、話すことも普通に考えることもできない。
 いまはまだ集中治療室で人工心肺がなければ生きていけない彼。
 命を取り留めただけでも奇跡だと言われていました。

 東京、府中。夫の実家に住んでいます。
 いまどき7LDKのとんでもない戸建て。駅前の新しい街ではなく、
 駅からかなり離れた緑の中の古い家。家の敷地だけでも二百坪は
 ゆうにあり、その周囲をつつみこむ、まるで里山のような林までが
 西条家の私有地なのです。全体で千坪はあるでしょうか。
 古い家には七十九歳になる義父、正太郎が存命ですが、
 その義父も二年ほど前にくも膜下出血で倒れてからは寝たきりが
 続いている。

 私は西条弓枝、二十九歳。
 夫とは二年の熱愛の末に結ばれて、それから一年。結婚から間も
 なくて子供はまだいませんでした。新婚気分を楽しんでそろそろ
 いいかと思った矢先の夫の事故。恋人時代から寝たきりの義父が
 いることは知っていましたが、その頃は夫の兄の前妻が家に通って
 義父の面倒を看てくれていたんです。
 いまから一年ほど前でしょうか、私たちが結婚するちょうどその頃、
 義兄夫婦は離婚。一人いる娘さんはいま四歳。母親が引き取って
 実家のある静岡に暮らしている。

 夫の兄は、西条康平と言って、夫より五つ上の四十四歳。
 夫と兄の間にもう一人女の子がいたそうですが生まれてすぐ亡く
 なった。それで歳の離れた兄弟となってしまう。
 義兄は、古い家を嫌がって早くから家を出ていた。いまは亡き母と
 いう人が厳し過ぎたようですね。
 康平さんはシナリオライターという職業柄か自由を好み、テレビ界
 にも通じていますから普通の人よりは派手なほう。大学進学を口実
 に家を出たきり実家のことは弟に押しつけて生きてきた人なんです。
 住まいは世田谷のマンションで府中からならそう遠くはないのです
 が、義父が倒れるまではほとんど寄りつかなかった人。

 ですけどその奥さんの弘美さんは穏やかな人で、ときどき実家を
 覗いてくれていた。弘美さんは私の夫より一つ下の三十八歳で、
 十年ほど前に義兄と結婚。それにしては子供が遅く、娘さんは
 四つになったばかり。そんな妻を義兄は捨てたということです。
 離婚の原因は義兄の放蕩だと夫は言います。ふらりと出て行くと
 一月だって帰ってこない。酒好き。そこら中に女がいてひどいもの
 らしいのですが、あんなにいい奥さんと一人しかいない可愛い娘を
 捨ててまで別の女にはしった男。夫は義兄をひどく嫌っていました。

 結婚してすぐ私は西条の家に入った。
 寝たきりになっていた義父のことを夫と二人で守ってきていた。
 だけどその夫までが・・いまはまだ病院ですが、退院したって寝た
 きりでは、私一人では限界がありますからね。
 家は大きい、庭は広い、義父は病気の後遺症でいまだ言葉もおぼ
 つかず、加えて夫がそんなことではやっていけない。

 そんな私の窮状を見かねたのか、義兄は、離婚から一年としない
 うちに再婚した後添いの艶子さんと、義兄のお弟子さんのような
 シナリオライターの卵、沼田留美をよこしてくれたのですが、その
 二人というのが、どちらも普通の人たちではありません。

 女としての本能的な恐怖。それは性的な熱を持つ妖しい眼差し・・。

 いっそ夫が消えてしまえば家を出られたものを。そう考えてしまう
 私自身に自己嫌悪を覚えていた。いまはダメでも奇跡的な回復が
 あるかもしれない。少しでもいいから以前の彼に戻してあげたい。
 生きている主人を捨てるなんて、とても私にはできません。
 愛した主人の子供を残してあげたい。人工授精という手段が残され
 ているはずですから・・。


 スコール。猛烈な雨と夏空が交互にくる狂った空・・六月の末になって雨雲は去り、じとじとする梅雨らしい梅雨もないままに、いよいよ真夏の太陽が照りつけた。

 東京、府中。

 買い物から戻っても、西条弓枝には息をつく暇もなかった。
 いまふうに言うなら7LDKのとんでもない家に、寝たきりとなった義父の正太郎がいる。七十九歳。二年ほど前にくも膜下で倒れ、いまなお言葉もおぼつかない。右半身がまるで動かず、残った左半身も手が少し動くぐらいで脚が動かず、おそらくこのまま回復することはないだろうと言われていた。
 目が離せないというほどでもなかったが、長く家を空けるわけにはいかない。 今日は午後から介護サービスの入浴介助。それまでに済ませてしまおうと午前中に買い物へ出かけた弓枝だった。

 夫の事故から十日ほどが過ぎていた。

 弓枝の夫は西条啓史、三十九歳。大手建設会社の建築技師。
 横浜にあるマンションの建設現場で足場が突風に煽られて崩れ、九階相当の高さから転落。運良く下に積み上げられた資材の上に落ちたことで奇跡的に命は取り留めたものの脳へのダメージは深刻で、生涯寝たきりとなるだろうと言われていた。
 しかし、ちょっと病院に行こうにも横浜では遠すぎて、また、いま行ったところで面会謝絶。十日が過ぎても集中治療室で生命維持装置につながれている。義父の面倒も看なければならず、救急搬送された最初の病院を出られるまでは会えないと思っていた。容態が安定すれば近くの病院に転院させることもできるだろう。

 絶望だった。広すぎる家。年老いた義父は寝たきりで、そのうちには退院して戻ってくる夫との二人の介護。二十九歳の新妻が背負いきれるものではなかった・・のだが。

「お帰りなさい」
「はい、ただいま」
「別に変わった様子はありませんよ」
「そうですか、よかったわ」
「これからずっと家においでですよね?」
「ええ、そのつもりです。今日はもういいわよ、ありがとう」
「いいえ。私も一度出ますが夕方にはまた覗きますから」

 この女、沼田留美と言う。歳は二十七だと言うが、どことなく人慣れした・・はっきり言ってスレた感じ。
 弓枝の夫、啓史の兄はシナリオライター。名を康平と言って四十四歳。いまから一年ほど前、弓枝が結婚したちょうどその頃、前妻と離婚。半年もしないうちに次の妻を迎えていた。
 二人目の妻は艶子と言って元は女優。まさにエロスの塊のような美しい女性なのだが、この留美は、艶子がなぜか目をかけていた女であり、いまでは康平のアシスタントとしてシナリオを学んでいる。
 啓史の事故があって、弓枝一人ではたいへんだろうとよこしてくれていたのだが、弓枝はいい気分はしなかった。

 まつわりつくような性的な眼差し。小柄ながら胸も尻も張った豊かな女体。
 常に女のシルエットを誇るようなスタイルで、今日も下はマイクロミニ。
 あたりまえに生きてきた弓枝からすれば本能的に危険と判断するタイプの女だったからだ。
 それに、実の弟の事故にもかかわらず、兄の康平も、その妻の艶子も一度も実家を覗いていないことにも腹が立つ。その場しのぎに手下を送り込まれたような気分になる。
 留美が出て行き、広い家に一人になると、弓枝はむしろ気が楽だった。留美が兄夫婦とどんな関係なのかはともかくも、他人に入り込まれていては気が抜けない。

 いまどきの東京にはあり得ない7LDKの古い家。西条家はこのあたりの地主であって、明治の頃から受け継ぐ古い家。古いといってもいまふうにリフォームされて暮らしやすくはされていた。
 一階に広いLDKと四部屋。二階に三部屋。加えて一階には三畳ほどの物置き部屋。正確に言うなら8LDKということになる。
 庭も広い。敷地で二百坪はあるだろうし、泉水があって昔は鯉も泳いでいた。
家長の正太郎が倒れてからは次男にあたる啓史が家を継ぎ、面倒だった鯉も処分して、いまでは広い芝生の庭とされていた。
 そんな家の一階、奥の間に、介護用ベッドを入れて正太郎が横たわる。
 買い物を整理すると、弓枝はさっとシャワーを浴びて汗を流し、部屋着に着替えて奥の間を覗いていた。ジーンズミニに白いポロシャツ。まったくの普段着で色気のないスタイルだと思うのだが、正太郎はパンツスタイルだと機嫌がよくない。

「お義父さん、戻りましたよ」
「むぁ・・ふふふ、かぅわいい・・」
 可愛いと言って笑ってくれる。弓枝は、この正太郎が憎めなかった。寝たきりになって言葉もおぼつかず、それだからか、まるで子供に戻ったように純真に笑ってくれる。
「お部屋暑くない?」
「うぬ、だいぞぶ」
「大丈夫? ならいいけど」
 こちらの言うことはわかってくれる。暑くないと首を振り、かろうじて動く左手を差し出して、その手を弓枝が握ってやると安心したように顔がほころぶ。
 背を少し起こした介護用の電動ベッドに横たわり、嫁の手を握って微笑む義父。弓枝は可愛い人だと感じていた。
「おぉしっこ」
「おしっこ? はいはい、ちょっと待ってね」
 医師は導尿管を使えと言うが弓枝がシビンに切り替えた。合理的過ぎる介護では可哀想だと思うからだ。パイプにつながれて生きている夫のようにはさせたくない。

 寝間着をはだけて紙オムツを脱がせると、静かに老いた白い陰毛に埋もれるように穏やかなペニスがある。そっと手をやりつまんでやると、正太郎はうっとりと目を閉じて、そのとき少し動く左手でミニスカートにつつまれた弓枝の尻をそろりと撫でる。
「ぅン、もうっ・・エッチなんだからぁ」
 目を閉じたまま微笑む老爺にいやらしさなどは微塵もなくて、ただただ老い先の歳月を諦めるように撫でている。老いても男なのだと思い、この人は私に女を感じてくれていると実感できる。そんなことが嬉しくてならなかった。
「ンふ・・ゆむえ」
「あははは、ンふって何よぉ、可愛いんだからぁ」
 尻を撫でる手を拒もうとは思わない。寝間着を替えるときなんて、前のめりになったことで触れる乳房に頬を擦りつけてくる子供のような老人を憎む気持ちにはなれなかった。

「留美さんにはやさしくしてもらえなかった?」
 正太郎の眼差しが厳しくなる。
「ううぬ、いらむ、嫌いら」
「いらん? 留美さん嫌いなんだ?」
 それもまた弓枝には嬉しい。他の女では受け付けない。私だけを見ていてくれると思えるから・・。